第60話 連れ合う懐かしさ
真サムスピは神ゲー
イノシシだけでも手こずるというのに、そこに小鬼まで加わったらどうなることか。
しかもただ加わるわけじゃない。
イノシシの突進力を得た小鬼が相手だ。
なめてかかると一発でHP全損だ。
しかもご丁寧にいつもの棍棒ではなく、馬上槍に持ち替えていやがる。
タイムのやつ、とことん手を抜かないみたいだな。
「それじゃあマスター、準備はいいかな」
携帯の中に戻ったタイムが、号令を掛けてくる。
「ああ、いつでも掛かってきなさい!」
「サーイエッサー」
[ROUND 1]
[FIGHT!]
時間無制限の一本勝負。
タイムの凝り用は変な方向に向かい始めている。
完全に格ゲーに傾き始めた模擬戦の情報表示。
ある意味緊張感がない。
リラックスできるとも言える。
BGMまで流して本格的だ。
ARの表示も装飾に磨きが掛かっている。
さすがに樽だの木箱だのドラム缶だのは、設置していないけれど。
そんなことはさておき、さすが小鬼乗猪。
イノシシの突進を躱しても、馬上槍の追撃が襲ってくる。
反撃する間もなく、馬上槍の餌食になって地に転がった。
「ひゃあ! モナカくん、大丈夫?」
大丈夫に見えるなら、アニカの目は腐っているということだ。
「だいじょば、うおっ!」
起き上がって体勢を立て直す暇もなく、再び突進してくる。
イノシシの機動力、上がってないか?
馬上槍を躱すために大きく避けると、当然のことだが反撃ができない。
イノシシ単体なら刀の性能でゴリ押しできたが、小鬼と組み合わされてはそれもできない。
自分自身が強くならないと勝てないということだ。
タイムはそれを分かっていてこうした?
それは分からないが、そんなことはどっちでもいい。
やってやるぜ!
と意気込んではみたものの、結局全く反撃することもできず、HP全損となった。
騎兵隊が強いのも頷けるというものだ。
〝将を射んと欲すればまず馬を射よ〟という言葉がある。
つまり先にイノシシをどうにかしろということか。
正面から受け止めるのは体重差から無理だろう。
受け止めたところで攻撃手段がない。
ならば今までのようにギリギリを見極め、馬上槍をも躱してカウンターを当てる。
そういうことか?
とはいえ、今は小鬼乗猪の動きになれた方がいい。
実践じゃないんだ。幾らでも試すことができる。
[ROUND 2]からはタイムのサポートを受け、相手の動きを観察する。
回避を全面的に任せ、とにかく反撃を試みて、攻撃できるタイミングや隙を窺う。
回避に神経を注ぐ必要がなくなると、意外と見えてくるものである。
全く歯が立たなかったのに、タイムがサポートしてくれるというだけで攻撃に集中できる。
たったそれだけなのに、あっさりと倒せてしまった。
しかも完勝である。
なんかもう、戦闘はタイムありきでもいいかも、などと甘えたくなってしまう。
なにしろ回避して移動した先に、攻撃できるタイミングがあるのだ。
攻防一体というやつだろうか。
なので、攻撃はそこそこに回避の仕方を身体に叩き込ませることに集中する。
オオネズミ相手ならただ避けて斬り付ければ済んでいた。
イノシシもそれに近いものがあった。
ところが小鬼乗猪にもなると、ここまで違うものかと考えさせられる。
この技術を習得できれば、また一歩前進できるというものだ。
だが疑問もある。
「タイムはやっぱり、昔なにかやってたのか?」
「え?! あーうん、そ、う、だ、ね……やってたというか、教えてもらったことを返……伝えているだけだよ」
「ふーん?」
「ゲームの話だけどね」
「なんだそれ」
「ふふっ、こういうの、懐かしいなって……そういう話」
「そっか、懐かしいのか」
「うん……楽しい」
やはりタイムも俺と同じ転生者ってことなんだろうな。
それとも記憶をコピーされただけのA.I.なのか。
仮にコピーだとしても、半年もすればオリジナルとは別人といえる。
タイムはタイムだ。
そういえば最初の頃に〝俺ではないマスター〟が居るみたいなことを言っていた。
その人に教えてもらったということだろう。
その人の技術を俺が受け継ぐことで、前のマスターを懐かしむことができるのなら……ちょっと妬けるかも。
「マスター? なに笑ってるの?」
「いや、なんでもない。笑ってるように見えたのなら、俺も楽しいってことだよ」
「うん、楽しいね」
「こんな凶悪なやつ相手にしてるのにか?」
「自分より強いやつを倒しに行くのが楽しいって言っ……うよね、あはは」
「そうだな、楽しいぞっと」
回避したところに馬上槍の突きが飛んでくる。
だが別に回避に失敗したのではない。
馬上槍の軌道を刀で逸らせる。
無理のない回避だからこそできる芸当なのだ。
そしてそのまま馬上槍をカタパルト代わりに刀を滑らせて小鬼を一閃。
後はイノシシを軽く料理して完勝である。
できてしまえば、なんのことはない。
なにもできなかった相手を赤子の手を捻るような勢いで倒せるようになったのだ。
タイムじゃないけど、何処となく懐かしさを感じる戦い方だ。
自ら経験した……という感じではない。
自分ではないものがこんな風に動いているのを間近で見ていた……そんな気分だ。
はっきりとは思い出せないが、覚えている。
多分思い出が無くなったことで、記憶が曖昧になっているのだろう。
その曖昧な部分をタイムが埋めてくれている。
もしかしたら、俺とタイムには共通の誰かが……俺ではないマスターなる人物が接点になっているのではないだろうか。
だから俺のサポーターとしてタイムが選ばれた。
そう考えれば色々と納得ができる。
……都合良く考えすぎか。
でも、そうだったらいいな。
「1匹じゃ物足りなくなってきたね」
「ん? ああ、タイムのサポートがあるからな」
「そ、そう? うへへへ。んと、じゃあ2匹同時にいってみようか!」
「な……はいはい、やっちゃいますか。ふふっ」
「ふふっ、じゃあいっくよー!」
「掛かってきなさい!」
タイムと一緒なら、このくらいの敵が何匹来ようと負ける気がしない。
サクッと倒してしまおう。
「あ、最初だからタイムのサポートは切っておくね」
「なにー?!」
「〝まずは自分で試すのがセオリーだ〟っていつも言っ……てた人が居るんだよ。ふぅー」
「誰だそいつは!」
言わずもがな、サクッと倒されてしまいましたとさ。
次回はちょっと長めです
この章の核心部分に入っていきます






