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第53話 先手必勝

魔法少女タイムちゃんだよ

 アニカは四大属精霊の最後、地属精霊(ちぞくせいれい)と契約するためにみんなと山へやってきていた。

 この山にはゲンコウイノシシが生息している。

 ゲンコウトカゲ同様、フンの中からの採取である。

 今回はゲンコウイノシシ自体も狩りの対象になっている。

 エイルの作っている武器に、ゲンコウイノシシの牙が必要なのだという。

 牙にも鉱石の主要成分が染みこんでおり、年を重ねれば重ねるほど牙と混ざり合い、良い鉱石になる。

 狩猟可能期間でもあるので、積極的に狩っていこうとのことだ。

 ただし、小さな個体は狩猟対象外なので、注意しなくてはならない。

 鳥獣保護も狩猟協会の仕事なのだ。

 今までは見かけても相手が立ち去るのを静かに待っているだけだった。

 これからは、如何に狩るかが試される。

 エイルの武器は強力だが、だからこそ素材をも痛めてしまう可能性が高い。

 だから自衛とサポートに回って貰う。

 とはいえ、俺とタイムが刀で切り刻んだら、それこそ素材を痛めてしまう。

 アニカの精霊は、そもそも戦力に数えられるのか……

 そうなると、メイン火力はフブキとなる。

 エイルが威嚇して、俺とタイムで押さえ込む。

 足を攻撃して機動力を奪うのもいいだろう。

 俺が押さえ込んでタイムが4人がかりで斬り付ければあっという間だ。

 そこへフブキが首に噛み付いて首の骨を折って息の根を止める。

 いい作戦だと思うが、実際にできるかは分からない。


 それはともかく、相変わらずオオネズミは何処にでも現れる。

 あいつら遠慮というものを持ち合わせていないのだろうか。

 斬っても斬っても沸いて出てくる。

 このくらいじゃないと、みんなの食卓に行き渡らないだろうから、ちょうどいいのかも知れない。

 そんなオオネズミへの対処だが、いつもは俺とフブキとタイムたちで近接戦闘をしているのだが、今日は(おもむき)が違った。


「タイム・オブ・ターイム!」


 いつものように魔法少女張りの変身をするのだが、服装が違った。

 ミニワンピース姿なのだ。

 白のロンググローブに、胸元には大きなブローチと大きなリボン。

 ドロワーズをはいていて、肩や裾はフリフリがいっぱいだ。

 真っ赤な靴を履き、靴紐で足がアミアミになっている。

 手には魔法のステッキのようなものまで持っている。


「マジカルモード、タイムちゃん!」


 決めポーズをすると、足下から虹の尾を引く流星が弾け飛んだ。

 予想通りというか、斜め上というか、タイムの周りだけ世界が違っている。

 これでは魔法使いではなく、完全に魔法少女だ。

 背格好が小学校低学年なので、魔法少女というよりは、魔女っ子の方がしっくりくるかも知れない。

 アニカの言葉を借りるならば、〝魔法の妖精 タイム〟……とかになる。

 これがタイムの言っていた、新生タイムなのだろうか。

 遠距離火力ってことかな。

 オオネズミがでたら、先制攻撃でもしてもらうとしよう。


 フブキ・エイル・アニカ・タイム・俺の順で山の中を歩く。

 いつもの隊列だ。

 フブキは役割的には斥候に当たる。

 だからといって、離れて行動するわけではない。

 単純に索敵と探知だ。

 お陰でオオネズミに先制されたことは一度もない。

 ゲンコウ動物と不意に遭遇したりすることもない。

 普通なら見逃してしまいそうなところにあるフンも、見つけられる。

 とても優秀なやつだ。

 それでもやはり限界はある。

 雨が降ると臭いが消えるし、範囲も限られる。

 対象物が風上にあるならはっきり分かるが、風下にあると見逃しているかも知れない。

 事実、風上から来るオオネズミには早く反応できるが、風下から来るオオネズミには少し遅れている。

 それでも十分すぎるだろう。


「ねーマスター」

「ん?」

「タイムも探しに行っていい?」

「タイムも? アニカの時みたいにフブキに負けてしょぼくれないのなら構わないと思うけど……」

「もう、マスターの意地悪」

「あははは。ま、いいんじゃないか?」

「分かったー! じゃあ、いくよー」


 そう言うと、ワラワラとちびっ子(2頭身タイム)が4匹……いや4人現れた。

 その姿はマジカルタイムと同じだが、背中に透明な2対の羽が生えていた。。

 羽がなくても飛べなかったか?

 雰囲気が大事ということか。


「諸君、任務は分かっているな?」

「「「サーイエッサー」」」

「出撃だ!」

「「「サーイエッサー」」」


 4人が四方へと飛び散っていく。

 俺の視界の四隅に飛んでいったタイムのものと思われる視界の画像が現れた。

 俺では情報量が多くて処理しきれない。

 その辺りもタイム同士で意思疎通できるから、問題はなさそうではある。

 どれもがタイムではあるが、一応今ここに居るタイムが主人格になるのだろう。


 捜索範囲は飛躍的に広がった……のはいいのだが、結局処理する人数が増えたわけではないので、効率までは上がらなかった。

 収集をエイルとアニカで分かれるという話も出たが、護衛がうまくできるか分からないので、見送ることにした。

 アニカの精霊が戦力に加われるなら、可能だろう。

 今後に期待だ。

 結局、俺たちを囲むように地上で三獣士が正三角形を作り、その中心の上空で最弱が陣取り、正四面体を作っていた。

 オオネズミをタイムが警戒し、フン探しをフブキが担当する方針になった。

 そんな監視体制の中、タイムから連絡がきた。


『前方に目標を発見したわん』


 左上の映像が正面に拡大表示された。

 半透明とはいえ、視界が悪い。

 やはり情報量が多すぎる。

 なので、手で押しのけて視界を確保する。


『邪魔!』

『マスター酷い!』

『いいから状況を教えてくれ』

『んとね、大体2mくらいのイノシシがいるよ。バリバリ鉱石を食べてる』

『分かった』

「エイル、2mくらいのゲンコウイノシシがいるみたいだ。どうする?」

「2mのよ? 結構大きいのよ。やれるのよ?」

「やってみなけりゃ分からん。が、いずれはやるしかないんだろ」

「分かったのよ。狩るのよ」

「よし、位置は……タイム、マーキングした地図を出してくれ」

「分かったー!」


 世界地図(ワールドマップ)というアプリを使うと、現在地が地図に表示されるようになる。

 現地地図データは別売りだけどね。

 世界地図(ワールドマップ)という割には、どちらかというと地方地図だ。

 世界を旅するのにも使えるだろうけど、地図データ購入で破産しそうだ。

 現在地の地図を表示させ、タイムにイノシシの位置をマーキングさせる。

 その映像をエイル・アニカ・フブキに渡す。

 簡単に位置情報が共有できるようになったものだ。

 フブキはとても賢く、その地図の見方をあっという間に覚えてしまっていた。

 むしろアニカの方向音痴っぷりが悲しいくらいだ。

 なので、アニカにはいつもタイムの音声ガイドが付いている。

 風下から俺とフブキが距離を詰め、更に後方からエイルが援護を行う。

 風上からはタイムが距離を詰める。タイムは無味無臭だからだ。

 アニカは……邪魔にならないところでお留守番だ。

 そしてタイム四天王がイノシシを中心にして、正四面体で展開する。

 当初の予定とは違うが、所詮予定は未定であり決定ではない。

 臨機応変に対処しよう。

 タイミング調整は、先ほど渡した映像で行う。

 相互通信はできないが、俺からタイムを通して合図することは可能だ。

 それにエイルとアニカなら、身分証の会議機能を使えば3人で通話も可能だ。

 全員の配置が完了した。

 後は狩るだけだ。

 オオネズミ以外との初戦闘だ(小鬼(ゴブリン)は除く)。

 呑気に鉱石を()んでいるイノシシに向かって、まずはエイルが遠距離射撃を行う。

 オプション装備のロングバレルと銃床(じゅうしょう)と照準器を付ければ、狙撃銃に早変わり。

 銃口がないのにロングバレルを付けて効果があるのが不思議だが、なんらかの魔法陣が組み込まれているのだろう。

 連射はできなくなるが、貫通力・弾速・射程が上がるらしい。

 本当ならば、頭を打ち抜いてしまえば良いのかも知れない。

 だが外して牙にでも当たったら目も当てられない。

 なので、今回は後ろ足を狙ってもらうことにした。

 そこなら外しても問題は無い。

 エイルが一発撃つのを合図に、突撃予定だ。

 タイミングはエイルに任せてある。

 地に寝そべり、詠唱銃(スペルガン)を構えて照準器をのぞき込むエイル。

 その距離、およそ300m。

 装備の性能からすれば、少し近いくらいの距離だ。どんだけ射程長いんだよ。

 呼吸を整え、慎重に照準を合わせる。

 そして息を止めて魔力を込めた。

次回、タイムの魔法が炸裂します

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