第52話 カウント開始
今回は、前回と今回の間の話のダイジェスト的回になります
あれから半年が過ぎた。
アニカの精霊契約も順調に進み、今では3体の精霊を使役していた。
火蜥蜴はフレッドから譲り受けたトカゲ型の火属精霊。
龍魚は群魚型の水属精霊。
鎌鼬はイタチ型の風属精霊。
ただ、契約してはいるものの、中々言うことを聞いてもらえないらしい。
彼らは人語が操れない下級精霊のため、お願いもし辛いとのこと。
フレッド曰く、「アニカよ、精霊にお願いしてどうするのだといつも言っているだろう。主従関係ははっきりさせるのだ」とのこと。
それは分かっていても、アニカにとっては中々難しいことらしい。
フレッドを一蹴したときのアニカならば、簡単な気もするが……ま、本人に乗り越えてもらうしかない。
そんな状態で試験を受けて大丈夫なのだろうか。
そうそう、そのフレッドも暇を持て余しているのか、ちょくちょくアニカに会いに来ている。
どちらかというと会いたがっているのはイフリータのようではあるが。
会いに来る度に、「アニカに手を出していないだろうな」と聞いてくるのは勘弁して欲しい。
そういう関係じゃないんだよ。
いい男友達というか、いやアニカは女の子なんだけど。
時々フレッドが「弟が……」とかいうものだから、タイムがその度に「ん?」と耳をピクピクさせている。
咳払いやら妹と言い直したりでなんとか誤魔化している。
誤魔化せると思っているのも大概だが、誤魔化されている方は詐欺に引っかかるんじゃないかと本気で心配になってくる。
エイルも試験に向けて自分専用の武器の素材を着々と収集していた。
アニカの精霊契約に必要な鉱石収集と併せて、自分に必要な鉱石も入手していく。
幸いなことに、今のところフンからの採取だけで事が済んでいる点だ。
いずれはゲンコウトカゲやゲンコウウサギとかゲンコウなんたらを狩っていかなければいけない。
〝ゲンコウ〟とは、鉱石を主食とする種に付けられる枕詞みたいなものだ。
だから様々な種類の〝ゲンコウなんたら〟がいる。
そしてエイルのそもそもの問題は、俺がこの世界に転生したことによって失われてしまったお父さんがくれた鉱石なのだ。
同じものを見つけるのはまず不可能。
となれば、代替品でどうにかするほかないのだ。
ただ、そうすると武器そのものの小型化ができなくなってしまうらしい。
そこは諦めて、色々手を替え品を替え、自分の構想を現実の物にしようとしている。
アニカは家に認めて貰うために試験を受ける。
エイルは結界外で行方不明になったお父さんを探しに行くために試験を受ける。
俺は……そういった目的はない。
エイルの護衛としてついて行く。せいぜいこのくらいだ。
今日もまた、アニカの精霊契約のために付いてきている。
あれから携帯のアップグレードも行い、今やタイムは6頭身になっていた。
俺の胸よりちょっと低いくらいで、小学校低学年くらいといったところだろうか。
定位置だとさすがに重くなってきたので辛い。
なので最近は手を繋いで隣を歩いていることが多くなった。
多くはなったが、それでも肩車は止めてくれそうもない。
肩車はいつまで続くのだろう。
分裂も6人までできるようになった。
しかし、6人に分裂できるようになってから、なにやら別なことに注力している感じだ。
というのも、寝言が酷い。かなりうなされているのだ。
タイムは寝る必要がない(本人談)。
なのに夜はいつも一緒に寝ている。
さすがに小学生サイズのタイムと寝るのは、案件が発生しそうな気がしなくもない。
だが、エイルは気にする様子がまったくない。
1人別室で寝ているアニカはどう思うだろうか。
俺が気にしすぎなだけだろうか。
とはいえ、3人で1つのベッドで寝るのはかなり狭い。
せめてタイムが前のように小さくなってくれれば良かったのだ。
何故か大きいまま、潜り込んでくる。
現在、大きいままでもこの世界に干渉できるようになっている。
GPUの性能アップは加速しているようだ。
その分価格も加速していた。
3ヶ月分の稼ぎが飛ぶとは思わなかった。
断じて婚約指輪替わりではない!
後で知ったのだが、どうやらフレッドに要求したアニカの養育費の中に、俺の食費も含まれているという。
だから「その辺は気にのよ、タイムちゃんのために使うのよ」と言われてしまった。
なので現在も次期アップグレードに向けて、鋭意貯蓄中なのである。
一足飛びにアップグレードしたいのだが、それだと身体に掛かる負担が大きくて順応できるか分からない。
だから段階を経て身体を慣らし、次の規格に耐えられるようにしなければならない……らしい。
元々が生身の身体だからという制約なのだろう。
試験までにはタイムも更に大きくなれるかも知れない。
……何処かのサッカー漫画のように10頭身以上にもなってしまうのだろうか。
ちなみにタイムはまだ1頭身になったことはない。
怖い物見たさはあるが、封印して貰いたいところだ。
話がそれた。
寝る必要が無いのに、何故寝ているのか。
いくら聞いても「企業秘密だよ」と教えてくれない。
一体裏でなにをコソコソしているのだろうか。
その所為でうなされているタイムを抱いて寝ている。
ギュッとされていると頑張れるのだそうだ。
……なにを?
だったら抱きやすい大きさになって貰いたいものだ。
それはヤダ、とか訳の分からないことを言われて拒否られた。
ただ、「近いうちに成果を見せてあげるね。新生タイムに乞うご期待!」とか言っていた。
大丈夫なのだろうか。
半年も経つと、身体も大分作られてきた。
ここに来た頃は幅広の剣を振るうこともろくにできなかったのだが、今ではタイムに合わせて日本刀を使っている。
天叢雲剣のような国宝や、村正といった妖刀に、鬼をも斬り倒す童子切などなど、色々とデータはあったけれど、みんな高いんだよね。
なので、ごく平凡な銘などない野太刀を帯刀している。
いつかは天叢雲剣を手に入れるんだ!
「タイムに鍛冶能力があれば、タイムがマスターの武器も打ってあげられるのに」
と零していた。
いやいや、服だけでも十分です。
皮加工や板金もできないから、防具も作れないのが悲しいとも嘆いていた。
一体タイムは何処を目指しているのだろう。
生産職かなにかか?
その癖戦闘能力も高い。
サムライモード以外にも、色々と有していた。
その中に刀工モードとかの生産職系はないのだろうか。
裁縫はそういったモードとかではなく、身につけた技術らしい。
生前はそういうことを生業にしていたのだろうか。
身体作りができたことによって、いろいろなアプリも使いこなせるようになってきた。
〝袈裟斬り〟は既にアプリを使わずとも完璧に出せるようになっていた。
そういったアプリもアンインストールせずにいれば、タイム自身が利用することができる。
けっこう便利なのだ。
アプリの場合、同系統のアクティブアプリ同士を組み合わせることができない。
だが、アプリで覚えた技を自ら使うなら、組み合わせることも可能だ。
アプリで連携をしようとすると、どうしてもアプリとアプリの間に隙ができる。
その隙も、自ら技を繰り出せば、なくすこともできる。
それだけ熟知している必要もあるけどね。
連続技にアプリも組み合わせると、かなり自由度が上がる。
自分では不可能な動きも、アプリを組み合わせれば可能だ。
例えば袈裟斬りを自ら繰り出し、そこから斬り上げたり横に凪いだりするにはタイミングというものが関係してくる。
ところがアプリを使えば、人力では切り返せないようなタイミングでもお構いなしに切り返せる。
斬り掛かって相手に避けられても、移動系アプリで無理矢理追従して当てることも可能だ。
その辺はタイムのサポート様々である。感謝。
試験まで約半年。
ここまでは順風満帆のように見えた。
だが、刻々と破滅の時は進んでいたのだった。
そのことを忘れていたのか、意識しないようにしていたのかは分からない。
それでも、避けようのないタイマーのようなものが動き続けていたのだった。
それがいよいよ牙をむきだした。
次回は山狩りです






