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第51話 ファースト・キスは0?

第3章最終話です

 アニカとの別れを惜しんで中々離れない兄を無理矢理引き剥がし(アニカが蹴飛ばし)、イフリータに連れられて泣く泣く帰って行くフレッド。

 上位精霊と契約したことを家に報告するという使命がなければ、アニカに付いてきそうな勢いだった。

 フレッドと別れた後、とりあえず問題が1つだけ残されていた。

 何故か元に戻らないペタンコのタイム。

 ペラペラではあるが、それ以外は普段通りに振る舞っている。

 仕方がないので、山を下りる帰り道を、定位置(肩車)でくつろぐタイムに聞いてみた。


「なあタイム」

「なに? マスター」

「なんで元に戻らないんだ?」

「え? 元に戻す方法は前にマスターに教えたよ」

「前に?」


 なんか言ってたっけ……

 ああ、そういえば息を吹き込むと元に戻るとかなんとか。

 あれ、ネタじゃなかったのか。

 ならば……


「じゃあさっさとやろか。タイム、ストロー出してくれ」

「え? ストロー?」

「尻の穴に突っ込んで息を――」

「バカじゃないのバカじゃないのバッカじゃないの!」

「おいおい、タイムがそう言っ――」

「てない! なんで子供の残酷イタズラをタイムにやろうとしているんですかっ! しかも、お、お、お尻の……そんなもの、見せられるわけないでしょ!」

「おう?! まあアレだ。座薬を入れられると思えばいいんじゃないかな」

「バカなの?! タイムに座薬は必要ないの! 必要なのはマスターの愛情だけなんだからっ」

「いや、愛情だけで病気が治るなら苦労しないぞ」

「タイムの病気はそれだけで治るんですー薬は要らないんですーマスターが特効薬なんですー分かったらさっさとやってくーだーさーいー」


 そう言うと、タイムは定位置(肩車)から前に回り込み、足で身体を挟むと首に手を回してきた。

 そして目を(つむ)る。

 ペラペラなのに器用なものだ。

 しかし、他に空気を送る穴なんて……

 あ、あった。

 俺は意を決し、息を大きく吸い込んだ。

 そしてタイムに口を付けると、息を吹き込んだ。

 思惑通り、タイムに息が入り込んでいく。

 すると見る見るうちにタイムが膨らみを取り戻していった。

 不思議なことに、吹き込んだ息の量以上に膨らんで元通りになった。

 膨らみながら、タイムの目が思いっきり見開かれていたのは、気のせいだろうか。


「あり得ない……」


 元に戻ったタイムの第一声が、それだった。

 なにがあり得ないというのだろうか。

 きちんと元に戻っている。

 変に膨らみすぎたり、足りなさそうなところはなかった。

 確かに、膨らんでもおかしくなさそうなところは、いつもと変わらず平原が広がっているけれども。

 それも含めて余計な膨らみも(へこ)みもない。


「よかったな、元に戻って」

「全然……よくなーい!」

「な、なにがよくないん――」

「マスターはバカなんですか? あれだけお膳立てされたら、普通〝口〟から吹き込むものでしょ! なのになんでよりにもよって〝鼻の穴〟から吹き込むんですかっ!」

「ええ?! だ、だって鼻の穴は広がっ痛っ! なんで頭突きするんだよ」

「女の子の鼻の穴が広がってるとか言わない!」


 結局自分で言っているんだが……それは構わないのか?


「う……ごめん。ほら、タイムはあのとき口を閉じていたから」

「口をだらしなく開けてキスを要求する女の子なんていませんっ……って、なに言わせるんですかっ」

「あ、いやほら。やっぱり女の子にとってファーストキスは好きな人のために取っておくものだろうし……」

「なに言っているんですかっ。タイムは……とにかく、もうマスターは黙りなさいっ」


 そう言って、タイムは俺の口をその口で塞いで黙らせた。

 今度は、俺が目を見開かせる番だった。

 しかしそれも長くはない。

 タイムに合わせて目を瞑り、悠久とも思えるその瞬間を共有した。

 が、その瞬間の終わりは必ず訪れる。

 時間にして約30秒。

 身体中を二酸化炭素が充満してきた。

 俺は我慢の限界を迎え、タイムを引き剥が……剥がして……剥がせない!

 こいつ、こういうときは力が強いんだな。

 などと考えている場合ではない!

 タイムの身体を叩いて離そうとするも、離してくれない。

 やばい、意識が……


「タイムちゃん、モナカが窒息死するのよ」

「んえっ?!」


 タイムがやっと離れてくれたので、二酸化炭素を吐き出し、酸素を胸いっぱいに吸い込む。

 ああ、生きているって素晴らしい。


「はあ、はあ、はあ、タイム! 俺を殺す気かっ!」

「マスターはバカなの? こういうときは鼻で呼吸するんだよっ」

「そんなこと知るわけないだろっ。てか、やっぱり鼻の穴は重要なんじゃないかっ。鼻の穴から息を吸うのも送り込むのも同じだろっ。だったら俺がタイムの鼻の穴から息を吹き込んでも問題なかったんだろうが!」

「シュチエーチョ、シニュニェー、シチェ……時と場合を考えてよ! 全部台無しじゃない!」


 むー、と睨み合う2人。

 まったく、シチュエーションがどうとか、それよりも気持ちの問題だと思うんだけどな。

 タイムは俺が相手で良かったのか?

 俺はタイムが相手で良かったのだろうか。

 そこはまだよく分からない。

 けどまあ、悪くはない。

 タイムのことは好きだ。

 それが恋愛のものなのかは分からない。

 最初はタイムで大丈夫だろうかと本気で思っていた。

 それもタイムの頑張りを見ている内に、信頼へと変わっていった。

 まあ、時々〝おいおい〟とか思うこともあるけど。

 完璧なやつに憧れはあっても、面白みはない。

 だから俺はタイムと一緒に居たいんだ。

 いつまでも睨み合っていても仕方がない。

 だから今度は俺から軽くキスをしてやった。

 一瞬軽く触れるだけのキスを。


「にゃ!」

「へへ、お返しだよ」

「みゅー、不意打ちは卑怯だよー」

「とにかく、これでお相子(あいこ)だからな」

「……お相子(あいこ)? なにが?」

「ん? タイムからキスしたのと、俺からキスしたのとで、プラマイ0だろ」

「……え?」

「だろ?」

「はあー、エイルさーん!」

「うちに振らないのよ」

「アニカさーん!」

「え?! ボ、ボクにはその、刺激が強すぎて……ひゃー!」

「フーブーキーさぁぁぁん!」

「わう!」


 フブキにまで相手にもされず、ションボリと定位置(肩車)へと戻っていくタイム。

 なにをそんなに落ち込んでいるのやら。

 とにかく、タイムとの絆も深まったはずだ。

 アニカの精霊契約も動き出した。

 来年の試験に向けて、頑張りますか。

プラマイ0だと思いますか?

次回は半年後です

あ、公開は明日です

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