第46話 精霊との契約2
どんな味だと思いますか?
今回は前回のようなドジは踏まずに済ませた。
またエイルの膝枕で目を覚ますのも悪くはない。
が、回避できるモノは回避しておく。
ベッドで横になって[確定]をしたから、倒れる心配はない。
意識を取り戻すと、見慣れた天井との間に、アニカの顔があった。
心配そうな顔でのぞき込んでいた。
「よおアニカ、どうしたんだ?」
「よかった。このまま起きないかと思って心配したんだよ」
「そういえば、説明してなかったな」
「目覚めのキスでもしようかと思ったよ」
「こらこら、なにを考えてるんだ」
「そうだよ。それはアニカさんじゃなくて、タイムの役目だよ!」
「それも違う!」
あれ、前回と違って呂律は回るし、タイムも既に起動している。
アップグレードすると、その辺も改善されるのかな。
起き上がって身体を動かしてみたが、不自由さはない。
「で、具体的にどう変わったんだ?」
「あいサー! ステータス!」
[CPU:ZX58k(1.6GHz/2core 2thread)
GPU:MC110c(90GFLOPS)
RAM:4GB(GPUと共有)
ROM:12GB]
順当かな。
相変わらずROMが少ないのは気になる。
論理プロセッサ数が4になったから、タイムは4人になれるということか。
小鬼との模擬戦も、複数相手取れるようになるな。
そして当然というか、タイムの身長もまた大きくなった。
大きくなったといっても、幼稚園児未満といったところか。
大体腰くらいかな。1m無いくらいだ。
そして当然とでも言いたげに、タイムは定位置に収まっていた。
なるほど。タイムが大きくなったのが分かる。
「タイム」
「なあに、マスター」
「お前、重……大きくなったな」
危ない危ない。誤魔化せたかな?
「ん? ……むう、変わってないよ」
「そんなことないだろ」
「はぁ。なんで背は伸びたのに、大きくならないんだろう……」
「はあ? なにを言っているんだ?」
「ううん、なんでもないなんでもない」
「そうか? それで、うまくできそうか?」
「うん、なんとかなると思う」
その後、明日の打ち合わせをして今日はお開きにした。
本当は小鬼2体と模擬戦をしたかったが、夜も遅いので止めた。
次の日、昨日と同じ場所でやることはあまり気乗りしなかったが、その方がこちらも対処しやすいだろうということになった。
迷うことなく進んだため、昨日より早く予定の場所に着いた。
昨日同様、全員が配置につく。
来るなら来い。
そんな緊張感のある中、麺をすする音が盛大に木霊した。
「タイム、なに食っているんだ?」
「なにって、昨日話していた〝ペイン油蕎麦〟だけど?」
「……え?」
「ん?」
マジなのかっ! マジで油蕎麦なのかっ!
いや、もうなにも言うまい。
きっとタイムの話し相手も説明が面倒になって、これで済ませられるようにした方が楽だと判断したのだろう。
気にするだけ無駄だ。
タイムが油蕎麦のつゆまで綺麗に飲み干すのを合図にアニカが準備を始めると、いきなり火球が襲ってきた。
最初はオオネズミかと思っていたので、虚を衝かれた。
しかし問題はない。予定を前倒しにするだけだ。
俺とフブキとエイルは直接攻撃に出て相手を押さえる。
防御障壁を展開している間は、火球を撃てないからだ。
俺自身、力量的に不安はあったが、相手も接近戦は考慮していなかったのか、意外と簡単に押さえることができた。
半分以上は〝ダッシュ〟のお陰だろうけど。
フブキは絶え間なく体当たりを食らわせている。
強すぎず弱すぎずといったところか。
さすが慣れているな。
そもそも近づくだけでも冷気で攻撃できる。
今回はやっていないみたいだけど。
フブキにとっては俺と戯れているのとあまり変わらないのだろう。
エイルは詠唱銃は使わず、防御障壁を展開して体当たりをしている。
所謂シールドアタックというやつだ。
これで3人を押さえられた。
問題なのは、タイムがうまくいくかだ。
ぶっつけ本番みたいなモノだからな。
現状大きくても外界干渉ができるようになったけれど、そうなると俺が剣を持てなくなる。
中くらいなら3人。小さくなれば4人まで外界干渉ができた。
残りは3人なので、中くらいになったタイムこと三獣士が突撃していく。
相手にとっては、多少姿形が変わろうとも、タイムのことは完全に眼中にないらしい。
三獣士は相手の頭上まで空を駆け上がっていくと、そこから飛び降りた。
そんな奇行に見向きもせず、俺・フブキ・エイルに狙いを定める3人。
やはりここでもアニカには攻撃の目を向けることはない。読み通りである。
そんな3人に〝体重の重み〟で重たくなった三獣士が跳び蹴りを打ち噛ました。
朝方、ぶっつけ本番は怖いから〝体重の重み〟の効果を試してみた。
今まで通りなら俺の斬撃を刀で受けると吹っ飛んでいたのだが、見事に踏みとどまっていた。
徐々に斬撃の力を強くしていっても、物ともせずに受け止めているのには驚いた。
そもそも受け止めるには体重だけではなく、力そのものも必要だ。
つまりあの小ささで、斬撃を受け止められるだけの重さと筋力を備えていることになる。
一番怖いのはそこなのだ。恐ろしい子。
そんな三獣士の力と重さの攻撃を、無防備なやつが防げるわけもない。
無様な声を上げ、吹き飛ぶことになった。
一瞬死んだかと思ったが、三獣士の絶妙な手加減のお陰で、手があらぬ方向に曲がっている程度で済んでいた。
あれならもう詠唱銃は持てないだろう。
前回とは違い、三獣士にはちゃんと思考能力があるようなので一安心だ。
戦利品とばかりに、奴らが所持していた詠唱銃を奪い取っていた。
自分たちの背とほぼ同じ大きさの武器を抱えて歩いてくる。
身体が完全に隠れていて、武器が歩いているように見えなくもない。
三獣士が残りの3人に歩み寄る。
防御障壁は盾を構えている方向にしか展開されない。
故に回り込むことによって、簡単に防御障壁の内側へ入ることができる。
手に入れた武器を抱え、照準を奴らに向ける。
至近距離で火球を撃たれては、さすがに火傷では済まない。
そんなことが脳裏に浮かんだのだろう。
奴らは恐怖の表情を浮かべ、しかし逃げることなく耐えていた。
「「「バン!」」」
三獣士が抱えていた詠唱銃を発砲する……真似事をした。
……が、その効果音で怯むことはなかった。
それもそのはず。この世界に火薬で発砲する拳銃があるわけがない。
奴らが火球を放つときも、破裂音はしなかった。
確かに見た目は大きな拳銃っぽいけれども、拳銃ではない。
にもかかわらず、三獣士は一様に頭に〝?〟を浮かべて、首を傾げている。
相手からしたら、意味不明な行動にしか見えないだろう。
「「「バン! ババンババンバンバン! ……あれ、壊れちゃったかな?」」」
いやいや、出るわけないだろ。
出ないからって放り投げるなよ。
三獣士はそれぞれ、爪・牙・拳を構えて奴らににじり寄る。
アニカは順調に儀式を行っていた。
必要な魔力も集まり、契約陣の中は魔力を変換した精霊力で満ちていた。
赤い光の粒に満たされ、それらは順調に中央の太陽石に入り込んでゆく。
太陽石は輝きを増していき、その輝きはなにかの形を形成しだした。
そのときだ。
今までアニカに対して直接行動を取ってこなかった奴らが、ついにアニカに対して火球を放ってきた。
敵はもう1人居たのだ。
物陰に隠れ、こちらの様子を伺っていたらしい。
アニカは儀式に集中していて、気づいてすら居ないようだ。
気づいたところで動けないのだろう。
動けば、儀式は失敗する。
今から対応に向かったのでは間に合わない。
目の前の敵には三獣士が1人、犬耳タイムが付いている。
ならば俺が抜けても大丈夫だろう。
しかしそんなことは関係ない。
俺が守らなきゃ!
そう思って駆け出したのだが……
「とりゃあ!」
アニカに対して飛んできた火球は、斬り捨てられて爆散した。
なにが起こったのかと不思議に思った。
そこには、サムライ姿のちびっ子が立っていた。
その大きさに似合わず、大きな刀を肩に担いでいた。
「ふっふっふー、拙者を忘れてもらっちゃあ、困るでありんす」
中くらいで4人は無理だ。
けれど、3人とちびっ子1人なら可能なのだ。
万が一に備えて、アニカの懐に潜り込んでいたのだという。
抜け目がないというか、そんなことを黙って実行しているあたり、タイムも賢くなっているということだろうか。
本気で俺の存在意義を考えなくてはならなくなる。
「まだいたのか。だが、好都合だ」
隠れていた男はそう呟くと、火球を連射してきた。
それらをタイムは斬り捨てることなく、去なすことで契約陣周辺の魔力の安定を保たせている。
「ふっふっふー、その程度で拙者に敵うとでも思うたでありんすか。舐められたものでありんす」
最初の火球が近くで爆散したことにより、より多くの魔力が陣の中に入ることになった。
しかしそのくらいならアニカの制御可能なギリギリの範囲だった。
太陽石の輝きは一層増し、不定形だった形もまとまりをみせてきた。
いったん丸くなり、そこから枝のように4本伸びていく。
「しまった、手遅れか」
隠れていた男は顔を歪め、自棄になって太陽石に向かって乱射した。
それらはタイムのお陰で届くことはなかった。
「お前たちは何故アニカに協力をする! 金か? それとも、我がオルバーディング家に取り入るつもりか?」
「なにを言わんやでありんす。友達だからでありんすよ!」
タイムが男へ一気に詰め寄ると、男が持っていた詠唱銃を叩き落とした。
「くっ、なにを戯れ言、を? ……まさか、あれは!」
「?」
男の視線は太陽石に釘付けになった。
その形は明らかに人型のそれになったからだ。
人型の精霊。
それは下位精霊ではなく、明らかに上位の存在であった。
もちろん、上位精霊でも人型ではない存在も居る。
たが下位精霊で人型が居たという記録は残っていない。
であるならば、あの存在は間違いなく上位の存在であろう。
人の形をした炎が、そこにはっきりと存在しているのだ。
油蕎麦……食べたことないです(ヲィ
次回、男の正体が判明します






