第44話 精霊との契約1
山に入るようになって1ヶ月が過ぎた。
相も変わらず目的の大きさの物が見つからない。
オオネズミの数は更に多くなり、かなり異常な事態といえる。
にもかかわらず、協会からの駆除招集が掛からない。
協会にそのことを話しても、そういった話は他の会員から上がってきていないという。
あの場所は俺たちしか行っていないとでもいうのだろうか。
それとも……
今日の収入はというと、オオネズミだけでとうとう鉱石1つ見つけられなかった。
協会で肉と毛皮を売り、エイルの仕事部屋に戻ってきていた。
「とうとうフンさえ見つけられなくなってしまいましたね」
「その癖オオネズミとは出会うんだからな。参るよ」
「他の人は問題ないのよ。うちたちだけなのよ」
「やはり兄さんが関係しているとしか思えません」
「お兄さんにこんなことが可能なのか? 精霊ならまだしも、相手はオオネズミだぞ」
「人を雇えば、可能かも知れません」
さすがに夜中に山へ入るのは避けたい。
朝方に行くのももう限界だろう。
全員が黙り込んでしまった。
「仕方がないのよ」
沈黙を破ったのはエイルだった。
立ち上がると、隣の倉庫へと入っていった。
暫くして戻ってくると、1つの箱をアニカに手渡した。
「これを使うのよ」
アニカが箱を開けてみると、拳大の赤い鉱石が1つ入っていた。
「これは、火魔石ではありませんか」
「火属性の魔石なのか?」
「ただの太陽石なのよ。これを使えばいいのよ」
「ありがとうございます。これなら契約に十分な大きさがあります」
「エイル、いいのか?」
「いいのよ。次に見つかったときに返してもらうのよ」
「もちろんです。お借りします」
エイルの持ち出しで準備が整った。
後は精霊と契約ができる場所にいって、アニカが頑張るだけだ。
翌日、午前中はオオネズミが多いだろうと思い、午後出掛けることにした。
契約に適した場所は、属性力が強く働く場所で、ある程度開けている方がいいという。
こればっかりはエイルには分からないので、アニカ頼りとなる。
普通ならオルバーディング家で利用していた場所でやればいいのだが、今回はそうもいかない。
しかも場所が違うから、探すのも大変だ。
一応ゲンコウトカゲの生息域は火属性場が形成されているらしい。
ゲンコウトカゲの主食が太陽原石だからだ。
幾つかの開けた場所を回ってみたが、中々いい場所が見つからなかった。
不思議なことに、オオネズミの餌場では無いところで襲われることが多くなってきた。
今回はエイルも参戦できるため、オオネズミ退治はとても楽だった。
エイルの武器は、一言で言うなら銃だ。
詠唱銃と言われる物で、お父さんが使っていた物だという。
形としては、片手で持てる小型自動小銃といわれる物に近い。
ただ、弾倉といわれる物がないので、形に違和感がある。
弾は当然物理的な弾丸ではなく、魔力弾が出る。
だから銃口などという穴もない。
魔力を込めれば弾が出るから、引き金もない。
単発、3点バースト、連射を切り替えて使用可能。
連射しすぎると命中精度が落ち、最後には撃てなくなるそうだ。
意味不明なのが、無反動で撃っているという事実。
かなり……というか、完全にメイン戦力だ。
俺の出番、無いな。
実際、オオネズミが出てきても、あっという間に討伐している。
俺がオオネズミに剣を振り下ろそうとすると、エイルは自分の分を既に倒し終わっているらしい。
剣がオオネズミに当たる前に、目の前のオオネズミもエイルによって倒されていることがよくある。
ホント、俺が護衛する必要あるのか?
山の中を彷徨うこと2時間。
漸く契約に耐えうる場所が見つかったようだ。
俺、エイル、タイム、フブキは周囲を警戒してアニカを守らなくてはならない。
契約中は身動きが取れず、無防備だからだ。
下手に動いたり集中を切らせると、精霊が来てくれなかったり、帰ったりしてしまう。
最悪なのは、魔力を吸い取られて術者が死んでしまうこともあるという。
集めているときよりも、緊張している。
まず小ぶりの太陽石を円周上に6個、等間隔で置いていく。
その中心にエイルが出してくれた太陽石を置く。
アニカが詠唱を開始すると、オオネズミが襲ってきた。
しかしやはりこれもおかしい。
オオネズミの習性からして、食料でもない太陽石を奪いに来るはずがない。
オオネズミの狙いが分からない。
中央の太陽石を中心にして、契約陣が形成されていく。
6つの魔石が六芒星の頂点として輝き出す。
「アニカに近づけさせるな!」
主力をエイルとして、オオネズミを討伐していく。
倒しても倒しても次から次へと沸いてくる。
今までこんなに沸いたことないってくらい、沸いている。
契約陣が赤く輝き、その色を深めていく。
とうとうタイムが無視されだした。
かまうだけ無駄だと理解されてしまったようだ。
オオネズミってこんなに頭良かったのか?
アニカの周りに小さな赤い光が現われ出す。
それらは吸い込まれるように中央の太陽石へと集まっていった。
エイルとフブキのコンビネーションはさすがだ。
長年の相棒という感じで、オオネズミを駆逐していっている。
それに対して俺はというと……
アニカの側で最終防衛として構えている。
そういえば、部外者が契約陣の中に入っていて大丈夫なのだろうか。
そんなことを考えていると、いつの間にかオオネズミが居なくなっていた。
ほっと一安心……使用としたら、いきなり火の玉が飛んできた。
反射的に剣で叩き切る。
飛んできた方を見ると、エイルが持っている詠唱銃より大きめの物を、両手で構えている。
オオネズミが居なくなったと思ったら、木の陰から人が姿を現した。
アニカは契約陣の制御で集中しているため、お兄さんなのかどうか確認ができない。
お兄さんも召喚術師だろうからおそらく違うのだろう。
あれが火球の魔法杖なのだろう。
気が付くと、数人に囲まれていた。
今度はフブキやエイルに向かって火球が飛んでいった。
フブキは身体に冷気の渦を纏っていて、当たっても平然としている。
エイルは手にはめている盾に魔力を通し、防御障壁で防いだ。
「誰だ!」
聞いたところで答える者は居なかった。
フブキが体当たりを噛ませようとしたが、エイル同様に防御障壁を展開して防いだ。
エイルは詠唱銃を構えてはいるものの、撃たなかった。
再び火球が飛んできたので、同様に切り飛ばす。
不思議なことに、アニカが狙われることはなかった。
エイルが人に対して撃たない以上、俺も斬り掛かるのは不味いのかも知れない。
正当防衛は成り立たないのだろうか。
相手はこっちを狙って撃ってきているというのに、エイルは何故撃ち返さないのだろうか。
奴らは距離を置いて攻撃をしてくるものの、近づいてくる様子はない。
まるでそれで事が済むとでも言いたげに。
しかしそれは事実だった。
それまで中央の太陽石に集まっていた赤い光が、集まらなくなっていった。
拡散し、召喚陣の中でさ迷うようになった。
そして召喚陣に亀裂が入ったかと思うと、砕けて消えてしまった。
弾かれるようにアニカが俺にぶつかってきたので、抱き抱える。
かなり体力を消耗しているようで、肩で息をしている。
全身汗だくで、自力で立てないようだ。
今攻撃されたらヤバい!
そう思ったが、一斉に攻撃がやみ、奴らは林の中へ消えていった。
言うまでもなく、精霊との契約は失敗に終わった。
次回、ちょっとアプリが増えます






