第43話 初めての携帯利用料金
携帯料金、自分で払ってますか?
あれから何度か山に行ったが、中々目的のものが見つからなかった。
オオネズミに先を越されていたり、他の採取者に先を越されていたりしている。
その割に、その採取者たちに全く出会わないのは少し不自然ではあるが、ないことでもない。
「兄の手の者が、先回りしているのかも知れません」
などと、アニカが被害妄想的なことまで言い出す始末。
「なんのために?」
「ボクが精霊と再契約しないようにするためだよ」
「回りくどくないか?」
「そうだね。だから分からないよ」
それでも1週間もすれば、契約陣に必要な数は揃う。
問題は媒体に使う鉱石が見つからないということだ。
確率的にそうそう見つかるものではないのは理解している。
だが、可能性のある大型のフンもないのだ。
それはつまり、数年間生き延びた個体が居ないということかも知れない。
居なければ見つかるはずもない。
「そうかも知れないのよ」
基本的に臆病で、滅多に人前に出てくることのないゲンコウトカゲ。
見つけることも難しい。
しかもそんな個体を狩り尽くすなんて、狩猟協会の者がするはずもない。
密猟者か、あるいは考え無しの行動か……
結局1日に取れる物といえば、オオネズミが数匹、魔法杖に使えそうな物が1~2個、補修その他に使える細かい物が多数だった。
同時期の収穫量としては、かなり少ないという話だ。
しかも採取に2人掛かりで護衛まで居て、だ。
少し、いやかなり異常なのかも知れない。
もしかしたら、アニカの予想が正しいのかも知れない。
だとしても、結局自分たち以外に採取者が多いというだけの話。
直接手を出されていない以上、何ら問題のある行為ではない。
それ故にこちらからなにかをすることもできない。
せいぜい他の採取者より先に手に入れることだけしかできない。
だから明日は朝から山に入ることにした。
そもそもゲンコウトカゲは夜行性だ。
昼間はあまり活動していない。
だからフンをするのも夜だ。
本気で採取するなら夜に山へ入るのがいい。
だが夜の山は危険だ。
気づかずトカゲに近づけば、襲われることもある。
トカゲだけではない。
夜行性の動物は思いの外多いのだ。
オオネズミに囲われて襲われるなんてこともある。
エイルが早朝を避けていたのも、昼過ぎよりそういった野生動物と遭遇する危険性が多いからだ。
それでも、それに見合った物が得られることも多い。
次の日、日の出と共に家を出た。
初秋とはいえ、朝方は冷え込む。
バイクは魔法杖による風防が標準装備のため、あまり風が気にならない。
しかしフブキにそんな物は付いていない。
付いていたとしても、俺たちには使えない。
冷たい風が顔を嬲ってくる。
フブキには心地よい風らしい。
だが俺たちには結構痛い。
風防みたいなアプリがないか、探してみることにした。
最近分かったのだが、携帯の画面を幻燈機で映し出せば、携帯を取り出さなくても利用できることが分かった。
これで剣を振るいながらアプリを使うこともできそうだ。
慣れは必要だろうけど。
今後、全てタイムにお任せ……というわけにもいかないだろう。
アプリストアを起動し、〝風防〟で検索する。
似たようなアプリがずらりと並ぶ。
その中の〝馬上風防〟という物が目に付いた。
詳細を見てみると、〝四足動物全対応〟と書いてあった。
これはいいかも……と思ったが、高すぎて断念。
さすがは〝四足動物全対応〟である。
他の物を探そうかと思ったが、〝似たアプリ一覧〟に同アプリの機能限定版を見つけた。
こちらは1ライセンスに付き1頭で、結構安かった。
早速インストールして実行してみる。
すると、フブキの周りに透明な結界のような物が張られた。
顔だけではなく、全体を覆い、風の抵抗を抑えた。
空気抵抗が少なくなれば、フブキに掛かる負担が軽減される。
中々いいかも知れない。
太陽が地平線から離れた頃、山に入っていった。
早朝から出たのはよかったのかも知れない。
早い段階から手付かずのフンを見つけられた。
同様にオオネズミの数も多くなった。
「おかしいのよ」
「なにがだ?」
「オオネズミの数が多過ぎるのよ」
「大繁殖でもしたのかもな。それが原因だったんだろ」
「狩猟協会から討伐招集が無いのはおかしいのよ」
オオネズミが増えすぎたときは、会員に対し招集が掛かる。
なのに今回は掛かっていなかった。
「事態を把握してなかっただけじゃないのか? 昼間はそんなに居たようには思えないけど」
「だから余計おかしいのよ。朝だけ多いのよ、まずないのよ」
「兄が意図的にやっているのではないでしょうか。ボクの邪魔をするためなら、なんでもするでしょうから」
またアニカがとんでもないことを言い出した。
いくらなんでもオオネズミの数をコントロールすることは、無理ではないだろうか。
数が多いと言っても、俺とフブキでなんとか対処できる数だから問題ない。
タイムがオオネズミを翻弄しているのも大きい。
何十匹……いや何百匹相手にしようが、それこそドラゴンであろうとも、タイムならなんの問題もなく遊んでいられることだろう。
結局午前中で手に入った物といえば、鉱石数個と普段より多くのオオネズミだけであった。
そんな日々が月末まで続いた。
月末といえば、携帯の利用料金の締め日である。
今日は月初めなので、利用料金の内訳がメールで届いた。
基本使用料 1980円
通話料 0円
通信費 1108円
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言語相互翻訳(プリイン)
一言語 1万円
DLパケット代 100円
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幻燈機 1000円
DLパケット代 200円
月額利用料 300円
MD 幅広の剣 1980円
DLパケット代 10円
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人工筋肉 1000円
DLパケット代 20円
月額利用料 500円
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サイドステップ 1000円
DLパケット代 10円
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バックステップ 1000円
DLパケット代 10円
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ダッシュ 1000円
DLパケット代 10円
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片手剣修練 1000円
DLパケット代 20円
月額利用料 1000円
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馬上風防 機能限定版 2000円
DLパケット代 20円
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合計 2万5268円
結構な金額になっているんじゃないかな。
基本使用料だけで考えるなら、以前よりは安いと思う。
払っていたのは俺じゃなくて、多分親だっただろうから利用料金なんて考えてことも無い。
アプリの購入も、自分でやった記憶が無い。
そもそも買わせてもらえていたのだろうか。
ゲームの課金はどうだっただろう。
それがいきなり自分で全額払わなければいけなくなった。
今の手持ちで払いきる程度には抑えられている。
それでも、朝から山に出かけてオオネズミを多く狩れたことが大きい。
おそらくそれが無かったら、足りていなかっただろう。
今月はアプリ購入を自粛した方がいいだろう。
通信速度制限がどれほど影響を及ぼすかは分からない。
それでも、支払いは遅れないように気をつけよう。
しかし携帯利用料金を支払うと、エイルに返すお金が残らない。
申し訳ないと思うが、もう少し待ってもらおう。
利用料金問題はなんとかなった。
だがアニカの媒体に関しては、見る影も無かった。
やはり数ヶ月単位で根気よく粘らなければダメなのだろうか。
次回、エイル無双
デュエル、スタンバイ






