第41話 初めての実戦
モナカのデビュー戦です
タイムは次回です
狩りといっても、実際遭遇できるとは限らない。
前回は全くの空振りだった。
そういう日も珍しくはないという。
日に1つか2つ取れればいい方なのだ。
というのも、1人で狩るにはオオネズミが邪魔で仕方がないという。
そもそも本命のトカゲに至っては、お目にかかることすら中々無い。
実はかなり非効率的なモノなのだ。
では何故自らの手で取りに行くのかというと、市場に出回っている物はそれなりに値が張るからだ。
そのくせ質のいい物は、自分で使うから中々市場に出回らない。
当然エイルだっていい物は自分で使うつもりだ。
市場に出回らないのは当たり前というモノだ。
さらにエイルは独りで狩りにいく。
昔は父さんの後をついて狩りに行っていたそうだが、今は独りだ。
同業者は手に入れた物を自分で使うから、取り分で揉めることがある。
傭兵を雇う物も居るが、大抵は専属契約を結んでいる。
大抵は工房単位で契約しており、個人契約することはまずない。
エイルの工房は大きくなく、また狩猟協会に登録している職人はエイル以外居ないので、雇うほどの規模でもない。
必然的に独りで行くしかないのだ。
そこで登場するのがフブキだ。
フブキは雪狼を祖先に持つシヴァイヌだ。
その特異体質から、一部では冷蔵運搬に利用されている。
しかし戦闘能力は普通の犬と変わりが無い。
なので狩猟犬には成り得ない。
だがフブキは先祖返りの特殊個体だった。
普通のシヴァイヌに比べると、二回りも三回りも大きかった。
故に、フブキはエイルの護衛としても役に立っていた。
しかし限界もある。
如何にフブキが強かろうが、数で押されてはエイルを守り切れるものではない。
エイル自身も戦闘は可能だが、そうすると採取ができなくなる。
無駄な時間だけが過ぎるのだ。
オオネズミの強さは大したことはない。
だが驚異なのはそこではない。
本当に驚異なのはその繁殖力なのだ。
強くなくとも数で押されると厄介だ。
彼らにとってもその繁殖力が仇となり、食糧確保に必死なのだ。
だからオオネズミはいくら討伐しても、減ることはない。
協会でも一切狩猟制限がされていない、唯一の種なのだ。
そんなオオネズミと先を争ってトカゲのフンを漁る。
端から聞くと、笑い話にしかならないが、本人たちにとっては重要なことだ。
更に重要なのは、フンを漁っても、良質な鉱石が取れるかはまた別問題だ。
フンをした個体が小さいと、当然含まれる鉱石も小さいものになる。
当然だが、フンをした個体が大きければ、鉱石も大きくなる。
小さな個体は保護対象となっており、狩ることはできない。
そして産卵期や育成期は禁猟期間が設けられている。
それ以外の時に大人の個体ならば、数の制限があるものの、狩猟が許可されている。
トカゲの皮膚から取れる鉱石もまた有用なのだ。
ところが大人の個体を狩ってしまうと、フンから得られる鉱石も無くなる。
大きな鉱石を欲するなら、大人の個体を狩ることが憚られる。
そうすると皮膚から鉱石の入手ができなくなる。
生きたまま皮膚を剥がす方法もあるが、皮膚は防御の要。
上空から大型鳥類の餌食となって、結局は死んでしまうのだ。
フンの鉱石と皮膚の鉱石は性質が全く異なるので、難しい問題でもある。
「色々ややこしいな。とりあえずトカゲは相手にせず、オオネズミが襲ってきたら撃退すればいい。……でいいのか?」
「それでお願いするのよ。フブキの足を引っ張らないのよ」
「分かってるよ」
「アニカはうちと一緒に採取に回るのよ」
「はい、分かりました」
アニカは俺に対しては気楽に話すようになったが、俺以外の人にはまだダメなようだ。
そんな話を移動しながらしていた。
移動に当たってアニカが俺の後ろに、つまりフブキに乗ろうとした。
大きさからシヴァイヌと分からなかったらしい。
だからエイルの後ろに乗ることになるのだが。
「女の人に掴まるのは、ハードル高いよ。モナカくんの後ろがいいのに」
などと我が儘を言った。
普通逆だろ!
前回来た山の中腹に着き、バイクを止めて山に入る。
「タイム・オブ・ターイム! サムライモード、タイムちゃん!」
「……それはなんなのよ」
聞いてくれるな気にするな。
タイムとはそういう生き物だ、で納得して貰った。
してなさそうだけど。
タイムはまだ吹っ切り切れていないようで、顔を赤らめてモジモジしている。
先頭にフブキが立ち、次いでエイル・アニカ・俺・タイムの順で歩く。
最後がタイムなのは少し不安でもあるが、本人はやる気だ。
なにしろいきなりサムライモードで出陣するので御座る。
気合いだけは十分で御座った。
「なあ、本当にタイムも戦闘に参加するつもりなのか?」
「タイムの戦闘力は分かってるでしょ! だから、マスターの背中は任せてよ」
本当に大丈夫なのだろうか。
タイムの体格が俺と同じくらいなら、安心できたかもしれない。
しかしタイムは小さすぎる。
俺の膝丈ほどしかない。
オオネズミはそのタイムと然程変わらないという話だ。
そうなると、タイムだと力負けするのは必然。
心配しかない。
それでも、いざとなれば俺が守ればいい。
フブキも居る。
なんとかなるだろう。
前回同様、いくつかの場所を回ったが、やはり不発ばかりだ。
幸いにもオオネズミにもトカゲにも出くわすこともなく、一休みすることにした
。
召喚に使う鉱石の数が意外に多い。
契約陣形成に6つ、媒体として1つ、合計7つ必要とした。
数だけならまだよかった。
「媒体に拳大が必要のよ?!」
「はい」
「簡単に言ってくれるのよ」
「難しいのか?」
「そんな大きな物よ、年に何度も見られるものじゃないのよ。その大きさのよ、うちも欲しいのよ」
「それは困ったな」
「モナカの取り分のよ、3ヶ月5割カットなのよ」
「なんだって!?」
休憩を終え、再び探しに戻る。
地面の匂いを嗅いでいたフブキの足が止まる。
こちらを1度見た後、ゆっくりと脇道へ入っていく。
そこには、まだ手付かずのフンがあった。
エイルとアニカが採取に向かう。
その周りをフブキ・俺・タイムが囲う。
周囲の警戒を始める2人と1匹。
エイルとアニカが手早く採取をする。
オオネズミは現れず、何事もなく終わった。
今回は子供のフンだったらしく、大きな物はなかった。
召喚に使えるものもなかった。
再び隊列を組み、別の場所へと移動を開始する。
いくつか不発を経て、再び当たりを引く。
同様に周囲を囲み、採取を始める。
すると、茂みがガサリと動いた。オオネズミだ。
タイムの前に現れたオオネズミが、タイムに襲いかかる。
この中で最も小さいタイムを狙う辺り、多少の知能があるのかも知れない。
「掛かってきなさい! どりゃあー!」
気合い一発、タイムがオオネズミを迎え撃つ。
加勢しに行こうと、一歩踏み出したとき。
「マスター、正面からも来るよ。あっちはいいから、対処して!」
携帯からタイムの声が聞こえた。
どうやら二手に分かれていたらしい。
片方は表で、もう片方は携帯の中で。
正面に向き直ると、オオネズミが襲いかかってきていた。
仕方がない。タイムを信用して自分の相手に集中するか。
と思ったのだが、意外と速く決着はついた。
小鬼相手に毎日模擬戦をしていたのが功を奏した。
小鬼より小さいことを加味しても、やりにくいと言うほどでもない。
朝にタイムを相手にしていたお陰で、対処の仕方も少し分かっていた。
しかもこちらにはタイムのサポートもある。
オオネズミがその爪で斬り掛かってきたところを躱して蹴り上げ、空中で身動きが取れなくなったところにタイムが〝袈裟斬り〟を実行して一刀のもと、切り捨てた。
思っていたよりあっさり終わった。
ではタイムの方はどうかと見てみると……なにやっているんだ? あいつ。
タイムの大立ち回りに、オオネズミが困惑した顔で、爪を振るっていた。
デビュー戦と言いつつ、めちゃくちゃあっさり終わりました
所詮オオネズミ相手ですから
次回はタイムの大立ち回りです
そして噛みます






