第40話 隻眼の女サムライ
タイムの侍姿、カッコ可愛いな。
十分ありだ。
タッパが足りないから可愛さの方が強いけど。
これでタッパがあればかなり綺麗だろう。
構えも何故か様になっている。
俺とは段違いだ。
「タイムは剣道とかしていたのか?」
「え? なんで?」
「俺と違って構えが凄く自然だから」
「そう? うへ、褒められちった」
おーい、戻ってこい。
いちいちトリップするな。
……仕方ない。
「なあ、和装ってことはもしかして……今ノーパンなのか?」
「にゃ!?」
タイムがパンツを確かめるべく、袴の上から手で確認する。
隙だらけである。
そこに最初の一太刀を浴びせていく。
しかしサッと後ろに飛び退いて躱される。
初手は空振りに終わった。
「マスター酷いよ! そんな不意打ち」
「躱しておいてなにをいう。……で、どうなんだ?」
「な、なにが」
「だから、はいてたのか?」
「っ! バカッ」
顔を真っ赤にしながら、斬りかかってきた。
それが答えということか。
斬り掛かってきたといっても、タイムの身長だ。
全てが下段切りと言っても過言ではない。
しかも身長に比例して移動速度も遅い。
どうやってもトテトテと歩いているようにしかみえない。
脛に対して振り下ろされる刀をサッと躱す。
切り返して振り上げられる刀をスッと躱す。
横に薙がれる刀をヒョイと躱す。
後はそれの繰り返し。
体格差とは然もありなん。
必死になって刀を振るうタイムが微笑ましい。
子供の相手をする父親って、こんな感じなのかな。
時々剣を刀に打ち合わせる。
力を入れすぎず、かつ抜きすぎず。
「おお、凄いな。反撃する隙がないぞ」
「むきゃー! うりゃうりゃうりゃうりゃうりゃ……」
揶揄われたと思ったのか、余計ムキになって掛かってくる。
それでも対処は変わらない。
子供と大人以上の差だからな。
そう思って油断していたのは否定しない。
適当なタイミングで刀を打ち合わせていたつもりが、どうやらパターン化していたようだ。
剣を打ち合わせようとしたのに、その剣が空を斬った。
打ち合わせる瞬間、タイムが後ろに|飛び退い《〝バックステップ〟をし》たのだ。
それまでの速さとは比べものにならないほどの速さで、だ。
いや違うな。
一番最初の一撃を躱したときと同じか、それより速いくらいだ。
直後、〝ダッシュ〟で間合いを詰めてくる。
その勢いのまま、脛に刀が振り下ろされる。
余裕を持って躱していたときと違い、無様に避けることしかできず、バランスを崩した。
そこから刀を返し、上方へ飛び上がりながら斬り上げてきた。
なんとか上体を反らして避けたものの、尻餅をついてしまった。
間髪を入れず、タイムが空を蹴って斬り下ろしてきた。
手加減することも忘れ、剣を振るって刀を弾く。
体格差のお陰でタイムを吹き飛ばすことになり、距離を取ることができた。
吹き飛ばされたタイムはクルッと一回転すると、空中で着地した。
そのまま〝ダッシュ〟して間合いを――
「ちょ、待った待った!」
手を突き出して〝待った〟を掛ける。
勢いがついて止まれないタイムが、無理矢理止まろうとするも慣性には逆らえず、そのまま空中をゴロゴロと転がって胸に飛び込んできた。
「もーなんなんですかマスター。試合中に〝待った〟は無しですよ」
「いやいやいや、お前汚いぞ! なにしれっと二段ジャンプやってんだよ」
「……? タイムそんなことしてないよ!」
「空中にも立っていただろ」
「そんなことできないよ!」
いや立っていただろ。
抱き抱えていたタイムを、ポイッと放り投げる。
「うにゃあー!」
クルクルと空中を回転して飛んでいく。
暫くすると体勢を立て直し、空中に着地する。
「なにするんですか?!」
「ほら、タイムは今何処に立っている?」
「何処にって、地面に……え?」
着地したと思われる地面は遙か彼方。
明らかに空中にたたずんでいる。
俺と地面を交互に見たり、左右を確認して自分の立ち位置を確かめる。
何処に立っているのか理解すると、突然落下し始めた。
「どうしてー?!」
思い込みの力なのだろうか、地面に着地したと思っていたのがそうでないと分かると落下する。
どんな力が働いて空中歩行を可能にしているのやら。
「ぎゃふっ!」
そのまま地面に激突してしまった。
「大丈夫か?」
放り投げた手前、受け止めてやるべきだったのだろうが、まさかあそこから落下するなんて誰が思うだろうか。
どうやら顔面から落ちたらしく、うつ伏せになったまま動かない。
抱き上げて安否を確認すると、鼻の頭にバツ印の絆創膏を貼り、頭の周りに星をクルクル回して気絶していた。
「タイムさん、大丈夫ですか?」
アニカが駆けつけてきて、タイムの安否を気遣う。
今の模擬戦(?)を見て、どう思ったのだろう。
「大丈夫だと思うけど……タイム? おーい!」
返事は返ってこない。
[眠り姫は王子様のキスによって目覚めます]
……なんだこのシステムメッセージ。
眠り姫って誰のことだよ。
王子様? ここにはそんなやつ居ないぞ。
大丈夫そうなので、おもむろに絆創膏を引っ剥がしてみた。
「痛っ! マスター、酷いよ!」
「ほら、大丈夫だろ」
「大丈夫じゃ……きゅう!」
「今更気絶したフリしても遅いぞ」
[眠り姫はマスターの目覚めのキッスでしか起き上がりません]
取り繕ったところで遅いよ。
というか、王子様改め、俺を名指しで指定してきやがった。
「モナカくん、これはなに?」
「ん? ただのタイムの悪ふざけだよ。ほっとけばいい」
[酷い!]
「いえ、そっちではなくて」
そういえばアニカにはまだ説明していなかった。
色々面倒だし、ざっくりとだけ説明しておくことにした。
その間もシステムメッセージで繰り返しアピールしてくるタイムを、放置し続けるのだった。
「よく分からないけど、最近の妖精さんは進化したんですね」
「まだ言うかっ!」
「精霊も現代に合わせて変化しないとダメなのかな」
「あー、今のままでいいと思うぞ」
「モナカー、アニカー、お昼なのよー」
エイルが仕事部屋から出てきて、お昼を告げてきた。
「あいよー、今行く」
「分かりました」
さて、寝た子をこのままにしておくのも忍びない。
自分の人差し指を唇に付け、それをタイムの唇に押し当てた。
「お姫様、お昼で御座います」
「うにゃー」
タイムは目を開けると首に飛び付き、ぶら下がってきた。
そのまま後ろにグルンと回ると、よじ登って定位置に収まった。
「おっ昼ーおっ昼ーごっ飯だごっ飯!」
変な歌を頭上で歌うな。
楽しそうでなによりだが、タイムは食べられないからな。
ところが今朝のことに味を占めたのか、食卓の上を走り回っている。
俺の為におかずを取ってきてくれるのだ。
行儀が悪いと注意するも、トレイシーさんが寛大すぎて調子付きやがった。
二手に分かれて走り回り始めると、アニカが目をキラキラさせて眺めている。
さすがに〝あーん〟は止めてほしい。
というか、どっちのタイムがやるかで揉めるのは止めなさい。
正直、どっちでもいい。
揉めるくらいなら1人に戻れ!
お昼を食べ終え、いよいよ狩りの時間だ。
実際、着物着てるからといってそういうことは無いらしい
次回は漸く実戦です
模擬戦ではないぞ






