第38話 受験料を稼ぐためには
無職転生 異世界行っても無職ですorz
結界外探索許可試験の内容は、まず狩猟協会で実績があること。
次に自身が使う武器防具のメンテナンスができること。
そして3つ目。
「じゃあエイルさん、残りの説明をお願いします」
「……分かったのよ。でも次が最後なのよ。長期野営ができるかなのよ」
野営か。
確かにそんなところに宿泊施設なんかあるわけが無い。
そして外敵が襲ってくるだろうから、キャンプみたいに寝られればいいということもない。
野営は必要な技能だ。
「どうやってテストするんだ?」
「最初に筆記試験をするのよ」
「筆記試験?」
「色々覚えて貰うのよ」
まさか異世界に来てまで試験勉強をすることになるとは。
でも試験のための勉強なんかしても、実戦では役に立たない。
知識とは、知っているだけでは役に立たないということだ。
エイルに色々叩き込まれそうだ。
「それから実技試験があるのよ」
「試験官と戦うのか?」
「そんな感じなのよ。最後は試験官監視のもとのよ、実際に1週間補給なしで探索・野営するのよ」
「総合試験みたいな感じか」
知識を持ち、実力があり、それらを実践できることが前提なのか。
当然といえば当然か。
「その受験料が5万ポウトかかるのよ」
「5万ポウト?」
「この世界のお金だよ。モナカくんは持ってないの?」
「えっと……無一文です」
情けない話、未だに収入0だ。
初日が空振りで、アニカを拾って帰っただけだったからな。
拾ったアニカが収入といえば……いやなんでもない。
「なら、ボクが出してあげようか?」
「いや、そのくらい自分で稼ぐよ。1年あるし」
「ボクとモナカくんの仲じゃないか。遠慮しないでくれよ」
アニカが身体を寄せてきて、耳元で囁く。
いや近い近い近い!
なんかいきなりフレンドリーになった。
こっちが地なのか?
「アニカさん! 近いですよ、はーなーれーなーさぁぁぁぁい」
タイムがアニカを引っ張って剥がそうとする。
いくらアニカが華奢とはいえ、タイムの力じゃ無理というもの。
ビクともしなかった。
『なあタイム、5万ポウトってどのくらいの価値なんだ?』
『え? ああ、んとね……今の交換レートだと7万700円だってさ』
「そんな大金、出させるわけにはいかないだろっ!」
「いきなり大声を上げるんじゃないのよ」
「なんでそんな大金、ポンと出してあげようなんて言うんだよ」
いくら友達とはいえ、会ったばかりのやつにそんな大金出すとか……いや、そこまでじゃないけれどエイルに借りていたっけ。
親子の縁でも金は他人なんて言葉まであるくらいだし。
まあ、エイルに借りといてそんなこと言うのもなんだけど。
なんだろう。
金額としては高いけれど、物価で考えるとそこまで高くないとか。
……そんなわけないか。
「だって、嬉しかったから」
「嬉しかった?」
「ちゃんとボクを男の子って認めてくれたから、嬉しかったんだ」
「? どういうことだ?」
「……あはは、なんでもないなんでもない」
もしかしてアニカはトランスジェンダーなのだろうか。
アニカは立ち上がると、再びベッドに座った。
「ほんと、なんでもないんだ。ほんとに」
アニカは性別の話になると、途端に表情が暗くなる。
なにかを抱えていることは確かなのだろう。
しかし、あまり触れない方がいいのかも知れない。
女の子であることを忘れず、男として接してやればいいのだろうか。
難しい課題だな。
「……でも、そうだね。1年でそのくらい貯められなかったら、試験なんて受からないよね」
1年でおよそ7万円。
しかも生活費は別途必要。
携帯料金もである。
そもそも携帯料金がいくらかかるのかが未知数だから、余分に稼いだ方がいいだろう。
トレイシーさんのご厚意で家賃の心配はなくとも、食費くらい入れないとさすがに気まずい。
社会人ならまだしも、まだ成人もしていない子供が、しかも異世界で稼がなくてはいけない。
あ、でも定番だと異世界ならもう成人している年齢かな。
昔の日本だと、もっと若い頃に元服……だっけ、してたはず。
しかし金のない俺はともかく。
「そうだな。アニカはお兄さんのお金を使えば余裕なんじゃないか?」
「モナカくんが受け取ってくれるなら、それもいいかなって思ったんだけど」
「それは辞退します」
「なら、ボクも稼がないといけないね」
「なんで俺に合わせるんだよ」
「友達だからさ。ボクだけずるはできないよ。ボクの貯金は無いも同じだからね」
それを言われるとな。
なら、一緒に稼ぐ手段を考えないと。
俺は魔力が無いから、普通の職には就けない。
でもアニカは違う。
とはいえ、ただ稼ぐだけじゃ試験には受からないだろう。
稼ぐのと鍛錬を同時にするには、狩りが一番か?
「最初にアニカの精霊契約を済ませるとして、その後はどうやって稼ぐ? エイルは自分の仕事をこなして稼ぐのか?」
「うちはそのくらいの蓄えはあるのよ。稼ぐ必要はないのよ」
こいつ、金持ちかっ。
まあポンと金を貸してくれたのだから、そのくらいは持っているのか。
「午前中は工房の仕事をするのよ。午後は狩りに行くのよ」
「なら、俺たちもその午後の狩りに同行させて貰えばいいのか」
「そうだね。エイルさん、宜しお願いします」
「分かったのよ」
そんな感じで今後の方針は決まった。
まずはアニカが精霊と契約をする。
その後は試験に備えて実績作り兼受験料稼ぎ。
無職無一文が1年で稼げるか、不安はある。
あるが、なるようにしかならない。
全力でやるしかない。
冒険者ギルドがなくても、結局はかりという……安易な(自分で言うな)
次回は"魔法の国"なんですよ、ここは
という話






