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第34話 2人は仲良し

プリ9アではありません。


2021/04/11

パニーニをホットサンドに変更


 次の日、フブキの散歩(とのデート)を終え、朝食を取るために茶の間に行くと、アニカが食卓に座っていた。


「おはよう、アニカ」

「あ、おはようございます、モナカさん」

「おはようなのよ」


 トレイシーさんが用意してくれた朝食をみんなでいただく。

 今日はご飯ではなく、スライスされた丸パンだった。

 夕飯では出たことがあったが、朝食では初めてだ。

 やはりアニカに合わせてくれたのだろうか。

 おかずは目玉焼きにベーコン、ハム、チーズ、葉物野菜、トマト、ジャムなど、よりどりみどり。

 挟んでよし、それを焼いてもらって食べるもよし、スープに浸して食べるもよし、そのまま食べるもよし、なのである。


「すごい量ですね」


 6人掛けの食卓に、4人しか座っていないのにもかかわらず、所狭しと皿が並んでいれば、そう思うのは当たり前だろう。


「いつものことなのよ」


 毎日毎朝、この量を用意してくれるトレイシーさんには、本当に苦労をかけてしまっている。

 きっと起きる時間だって、これまでより早くなったに違いない。

 でなければ、これだけの量をいつもと同じ時間までに用意なんかできるわけがない。

 そしていつものようにトレイシーさんに感謝の言葉を述べる。


「タイムさんは食べられないのですか?」


 タイムは食事の時、定位置(肩車)で寝ている。

 まるで食欲を睡眠欲で満たしているかのようだ。

 たまによだれを垂らしてくるのは勘弁してほしい。


「ああ、タイムは食事ができないんだ」

「え、できないってどういうことですか?」

「タイムは食べる必要がないというのもあるけれど、単純に飲食ができないんだよ」

「……意味がわかりません」

「あまり気にしないでやってほしい。俺もつらいんだ」


 食べることは3大欲求のうちの1つだ。

 例え食事の必要がない人でも、楽しみとして食べることはあるだろう。

 しかしタイムはそもそも食べるという行為ができない。

 つまり最初から3大欲求のうちの1つが禁止されてしまっているのだ。

 タイムに食事を味わわせてやりたい。

 けど、それは不可能だ。

 そんなことを思っていると、タイムが頭を撫でてくれた。

 悲しむべきはタイムなのに、なんで俺がその本人に慰められなければいけないんだ。

 なので脇腹をくすぐって反撃に出た。

 タイムは腹をよじって笑いをこらえている。

 すると反撃だと言わんばかりに、髪の毛を引っ張って攻勢に出てきた。

 俺の十本指(くすぐり十人衆)が、その行動速度を加速させる。

 無防備な脇腹を、縦横無尽に蹂躙する。

 だが、それが(あだ)となった。

 タイムが体をよじるたびに、髪の毛が同じ方向に思いっきり引っ張られるからだ。

 そしてとうとう、脇腹が我慢の限界に達した。


「あっははははは!」

「痛い痛い痛い抜ける抜ける抜ける!」

「食事中に遊ぶんじゃないのよ」

「「ごめんなさい」」

「ふふっ。やはり、タイムさんは妖精なのではないでしょうか。大きさまで変わっていますし」


 アニカが小声で再び妖精宣言をしだす。

 タイムは最近定位置(肩車)の時以外は前の大きさ(3頭身)になって過ごす。

 そうしないと色々と素通りするからだ。

 ただし、油断しているとこの前のように扉に激突したりする。

 タイムらしいといえば、タイムらしいのだが。

 この調子でタイムが分裂を披露したら、完全に妖精認定されてしまうのではなかろうか。

 携帯(スマホ)の妖精、か。

 タイムの背中に羽を生やし、飛んでいる姿を想像してみる。

 ……それもアリだな。

 というか、この世界には精霊のみならず、妖精もいるということだろうか。

 ま、気にしても仕方がない。今は朝食だ。

 パンに具を挟んでホットサンドの機械にセットする。

 するとなにも言わずともエイルが手を伸ばして機械に手を乗せ、魔力を通して焼いてくれる。

 ものの数秒で、ホットサンドのできあがりだ。

 外はカリカリ、中はホンワカ。

 肉はジューシー、チーズはとろとろ、野菜はシャキシャキ。

 ああ美味い。

 挟む具材を変えて再びセットする。

 するとなにも言わずともエイルが手を伸ばして機械に手を乗せ、魔力を通して焼いてくれる。

 そんな光景を何度か繰り返すものだから、アニカの気を引いたようだ。


「どうしてエイルさんが焼いているのでしょうか」

「モナカは魔力がないのよ」

「えっ?! 魔力欠乏症ということでしょうか」

「違うのよ。本当に魔力が0なのよ」

「……意味がわかりません」

「あまり気にしなくていいよ。エイルのお陰でなんとかなっているから」


 タイムもホットサンドを焼いてみたいらしく、食卓の上を走り回って具材を運んでは、パンの上に乗せている。

 そして最後にパンを乗せて完成。

 ホットサンドの機械に入れるため、完成品を担ごうとパンの下に潜り込む。

 しかし中央から持ち上げた瞬間、具材がバラバラと周りに落ちてしまった。

 全く、世話の焼けるやつだ。

 パンを()け、泣きそうになるタイムの頭を撫でてやり、バラバラになった具材を元に戻して機械にセットしてやる。

 するとなにも言わずともエイルが手を伸ばして機械に手を乗せ――ようとしたが、それよりも早くタイムが機械の上に乗る。

 なにをするのかと思いきや、四つん這いになって両手を機械に触れさせている。

 なにも起こらないのを不思議に思ったのか、両手でバンバンと機械を叩く。

 やはりなにも起こらないから首をかしげている。


「タイム、俺たちには無理だから諦めろ」

「ぷっぷくぷー」


 いつものようにエイルとトレイシーさんが……そして今日はアニカもか、食事を終えた後も、俺は1人ガツガツと食べている。

 食卓に所狭しと並べられていた朝食たちも、今となっては残りあとわずか。

 空になった皿は流しへ、まだ具材が残っている皿はタイムが寄せてくれた。

 今日も腹八分目で快食だ。


「そういえば、魔力欠乏症の人は大食いだと聞いたことがあります」


 あー、そんな話を俺もトレイシーさんから聞いたような気がする。

 さてと。快食といえば次は快便である。

 さすがに1週間も続くと慣れるもので、エイルと一緒にトイレに入ることに、抵抗がなくなっていた。

 いや、別にそういうのに目覚めたとかじゃないからな。


「どうして2人は一緒にトイレに入ったのですか?」


 出てきた俺たちに当然の疑問が投げかけられた。

 いや、聞いてくれるな。


「モナカは魔力がないのよ」

「それは先ほど聞きましたが……」

「扉を開けるのよ、水を流すのよ、なにもできないのよ」

「……意味が分かりません」

「いくら精霊召喚術師のよ、この魔法世界の(ことわり)くらい理解しておくのよ」


 こりゃシャワーの時の説明が面倒だぞ。

 ともかく、そのあたりの話も一応しておいた方が良さそうだ。

 それにアニカ自身も今後どうするのかを聞いておきたい。

 体調がよくなったら〝はいさようなら〟で放り出すのも可愛そうだ。

 訳ありのようだし。

 なんにしても、話を聞いてみよう。

アニカはのいいとこのボンボンなので、多少世間知らずなところがあります。

物事を精霊を中心に考えがちです。

次回はエイルが自分の考えをごり押しします。

アニカ、ゲットだぜ!

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