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第30話 精霊召喚術が使えない精霊召喚術師の末路

 家を追い出されて、住むところが無くなってしまった。

 兄に渡された手切れ金を使えば、衣食住に困ることはないだろう。

 でもそれは兄の言う〝召喚術師を辞める〟ということを、受け入れることになるのではないか。

 そんな気がして手を付ける気にはなれない。

 貯金はあまりない。

 幸いにも狩猟協会に登録はしていたから、父が手を回して剥奪などになっていなければ、なんとかなるだろう。

 そのためにも、精霊と契約して、狩りの手段を取り戻さなくては。

 だか契約しようとしても、兄の目があって中々準備ができない。

 だからボクは住んでいた都市を出るため魔動列車に乗り、隣の都市へとやってきた。

 本当なら、もっと遠くの方が良かったのだけど、手持ちが少ないので無理だった。

 残りはあまり多くない。食べ物を優先させないとダメだ。

 飲み物は水筒があるから心配はない。魔力を通せばいくらでも飲めるからだ。

 こんな水筒(もの)を使っている時点で、家を追い出されても文句は言えない。

 精霊召喚術師なら、精霊に出してもらうのが当たり前だからだ。

 一刻も早く、精霊と契約しなくては。

 まずは精霊と交信しやすい属性場を探すことにする。

 食料を持てるだけ買い込み、駅から乗合魔導車に乗って、手近な山の(ふもと)まで行く。

 そこから山に入り、契約のための触媒となる属性石を探す。

 うまく見つかるだろうか。

 未契約の召喚術師が触媒を探すなら、普通なら護衛がつく。

 けど、護衛をつけるお金もないし、(つて)もない。

 自分で自分を守らなくちゃいけない。

 護身用のナイフはあるけれど、使ったことなんて1度もない。

 でも身を守るためにも、食料のためにも狩らないといけない。

 山に入り、属性場を探す。

 この山は、火属性(かぞくせい)の力が大きい。

 ちらほらと火魔石(かませき)の欠片が落ちている。

 欠片では契約陣を展開するだけの力はない。

 もっと大きなものを探さなくては。

 欠片が多いということは、サラマンダーの食料が多いということ。

 サラマンダーのフンを漁るのが、近道だろう。

 そうなると、オオネズミとはち合わせる可能性が高い。

 フンはオオネズミにとって御馳走だからだ。

 会いたくはないが、しとめられれば食料になる。

 解体はしたことないけど、丸焼きにすればいいだろう。

 しとめられればの話だけど。

 逆にボクがオオネズミの食事にならないように気をつけないといけない。

 茂みの陰にサラマンダーのフンを見つけた。

 でも既にオオネズミに食べられた後だった。

 オオネズミはフンだけを食べ、魔石は食べない。

 だけどフンを食べるときに一緒に噛むから、せっかく固まりになった魔石が砕けて欠片になってしまう。

 これはもう使えない。別のフンを見つけなくてはいけない。

 別の場所でサラマンダーを見つけた。

 彼らは大人しく、こちらから手出しをしたり、産卵期に近づかなければ襲われることはない。

 サラマンダーが出てきた辺りを探してみると、まだ新しいフンを見つけた。

 早速水筒の水で余分なものを流してしまおう。

 そう思い、フン目掛けて水筒から水を垂らそうとしたときだ。背中になにかがぶつかってきた。あいつが、オオネズミが襲ってきたのだ。

 餌場を荒らしに来たボクを、敵と認識したらしい。

 こいつに噛みつかれたら厄介だ。雑菌が傷口から入り込んで大変なことになる。

 爪も要注意だ。

 護身用のナイフを両手で持って、オオネズミに向かって構える。

 大丈夫だ、オオネズミはさほど強くない。下級精霊を見ただけで逃げていくような奴らだ。負けるはずがない。


「やあー!」


 震える手でナイフを振りかぶり、オオネズミに振り下ろそうとした瞬間、再び背中に衝撃が走る。

 1匹じゃなかったのか。

 どっちを相手にすればいいのだろう。

 前か……後ろか……やっぱり前か……それとも後ろか……どっちだ。


「うわあああああ!」


 どうすればいいか分からなくなり、とにかく目の前のオオネズミに向かってナイフをめちゃくちゃに振り回しながら突進していく。

 しかしそんなものが当たるわけもなく、また背中に体当たりをされた。

 よろめいたところを、腹に体当たりをくらってしまった。

 ダメだ、勝てっこない。

 とにかくその場から離れるしかない。

 手に持っているものをオオネズミに投げつけ、脇目もふらず全力で走り出した。

 茂みをかき分け、木の根に足を取られ、落ち葉に足を取られ、枝に顔を叩かれ、石に(つまず)き、道なき道を一目散で走り抜ける。

 命ある限り、走り続ける。

 走って走って走った先には、体力の限界がやってくる。

 足がもつれ、派手に転んでしまった。

 立ち上がろうとするが、もう力が入らない。

 気がつけば、オオネズミがいなくなっていた。

 ようやくひと息つける。

 地べたにへたり込むと、切り傷や擦り傷の痛みが襲ってきた。

 生きていることを実感できた。

 水を飲もうと思ったが、水筒を落としてきてしまったらしい。

 戻ろうにも、何処をどう走ってきたのか覚えていない。

 そういえば、持っていた鞄も見当たらない。

 護身用のナイフも紛失してしまった。

 ボクは、身一つだけになった。

 もう、なにもする気力がわかない。

 兄の言うとおり、召喚術師なんてやめていればよかったのだろうか。

 魔石採取がこんなにも難しいことだとは思わなかった。

 家に居た頃は、辛いこともあったけど、幸せだったのかも知れない。

 日が落ちるにつれて辺りが暗くなる。

 昼は暖かかったが、日が傾いてくるとそれなりに冷える。日が落ちると輪をかけて気温が下がった。

 こんなところで火を焚くこともできない。それ以前に、火を付ける手段がない。

 火属(かぞく)精霊と契約していれば、暖めてもらえたのだけれど。

 冷えはするが、凍えるほどではない。

 だとしても、このまま寝て、朝起きられるだろうか。

 そのまま寝たきりなんてことは……それはそれでいいのかも知れない。

 遠くでフクロウが鳴いている。

 フクロウのご飯になるのだろうか。それともオオネズミのご飯か。

 誰にも知られず、このまま朽ちるのは嫌だな。

 なにより、精霊に会えなくなるのは……考えようによっては、ここで果てて精霊になるのも悪くない。

 また人として生まれるのは、嫌だな。

 精霊に生まれれば、怖がる必要はなくなるんでしょ。

 同族なら、愛してもらえるかも知れない。

 その方が、ボクは幸せに……

 目をつぶると、あの幸せだった8年間が浮かんでは消え、消えては浮かんでいった。

 ああ、なんだか寒さが和らいでいく。

 なんだか懐かしい暖かさだ。

 ボクを迎えに来てくれたのかな。

 だとしたら、なんて幸せなことなのだろう。

 もう疲れたよ。

 十分頑張ったよね。

 もう、休んでもいいよね。

 気が抜けると、急に眠気が襲ってきた。

 そして、ボクは意識を失った。

こっちの世界では電動列車(電車)ですが、あっちの世界では魔動列車(魔車)です。

乗合魔導車は馬のゴーレムが引っ張る乗合バス……みたいなイメージ。

ただこの辺は後々変更するかも知れない。


次回はいよいよ山へ芝刈り……ではなく、鉱石を求めに行きます。

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