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第27話 職業選択の自由? あはは……

古いCMなのです

 あれから1週間、小鬼(ゴブリン)との模擬戦を繰り返し、かなり楽に倒せるようになった。

 とはいえ、タイムの奴がここぞとばかりにギリギリを攻めてくるものだから、体が保たない。

 と言いたいところだが、アプリによる回復力なのか、身体が壊れる前に修復が完了する感じだ。

 どんなに体中の筋肉と関節が悲鳴を上げていても、シャワー浴びて飯食って寝て起きると完全回復していた。


「マスターは怪我をしているわけじゃないからね」


 ということらしい。

 小鬼(ゴブリン)程度なら〝人工筋肉〟を使わずとも力負けすることはなくなった。

 タイムのアシストがなくても打ち合いで後れを取ることはなくなったが、お陰でスキル熟練度が上がらないという弊害がでた。

 さすがに一刀の元、切り捨てられるほどにはなっていないが、〝袈裟切り〟を使えばそれも可能となっていた。

 とはいえ、まだタイマン勝負しかしたことがない。

 複数を相手取る模擬戦は、まだ行えないでいる。


「やってみる? やれないことはないんだし」


 などと暖気(のんき)にのたまっている。

 こいつ、意味分かって言っているのか?

 小鬼(ゴブリン)はタイムが直接操っているのではないそうだ。


「RATSのすくりぷと? とかいうので動いてるって言ってる」


 話によると、タイムはスクリプトではなく、別のものらしい。

 別物……ねえ。本当にタイムはプログラムなんだろうか。

 いまだはっきりと分からない。

 別物とはいえ、小鬼(ゴブリン)を2匹動かすとなると、タイムを止めなければならないようだ。

 タイムはそれを理解していないっぽい。

 ま、止めたからといって死にはしないだろうが、それは俺が嫌だ。


「とにかく、CPUをアップグレードするまでお預けだ! いいな」

「うにゅー、分かった」


 この1週間の間に、ここの工房で働く職人たちとも仲良くなれた。

 職人は5人。ここら辺だと小規模な方らしい。

 老舗とはいえ、親方不在は痛手らしく、離れていった職人も少なくないそうだ。


「父さんに世話になったのよ、薄情なのよ」


 師匠がいなくなっては、技術を教わることもできない。

 仕方のないことかも知れない。


「技術のよ、うちが教えられるのよ」

「エイルが?!」


 知識や技術力だけなら、エイルが工房一だという。

 まだ成長途中だから魔力が追いついていないので、真価を発揮できていないとも。

 何処まで本当なのかは分からない。

 だが、残った職人たちは、そんなエイルに惚れて残っている。

 面倒見もいいようだ。

 それは俺が自らの身体で体感している。

 俺が広場で修行し(暴れ)ている間、技術指導や相談に乗ったりしていたらしい。

 そんな日々を過ごしながら、今日も今日とて修行は続くよ何処までも。

 いい加減収入がないと、携帯料金の支払いがヤバいかも知れない。

 なにしろ未だに無一文。

 今は9月半ばだから、あと2週間ほどで締日。引き落としはその10日後だ。……どこから引き落とされるんだろう。

 ともかく、いつまでも居候というのも気が引ける。少しでもいいから家計に入れたいという思いもある。

 エイルにちょっと相談してみるか。


「収入のよ?」

「ああ、俺無一文だし、なにかないかなって」

「魔力のないモナカにできる仕事なんてないのよ」


 そうだよな。

 ここ1週間で嫌というほど分かった。

 例え神殺しの称号を得たとしても、エイルが居なければ生きていけない自信がある。


「エイルが前に言ってた護衛がどうのってのはどうなんだ?」

「それなら明日行ってみるのよ?」

「わかった。……あんまり強いのは出てこないよな」

「大丈夫なのよ。うちでも倒せるのしか出てこないのよ」


 倒せるんだ。


「それ、護衛する意味あるのか?」

「モナカが引き受けてる間のよ、うちはのんびり作業できるのよ」

「そっか。採取効率が上がるってことか」

「そういうことなのよ。増えた分の半分がモナカの収入なのよ」


 半分か。相場的にはどうなんだ?

 そこはエイルに任せるしかないか。


「具体的にはどんなやつが襲ってくるんだ?」

「ほとんどがオオネズミなのよ」


 ネズミか。大したことなさそうだな。


「本命はゲンコウトカゲなのよ」

「ゲンコウトカゲ?」

「鉱石を主食にしてるトカゲなのよ」

「石を食うのか?!」

「そんなに驚くことなのよ?」

「俺のいた世界には石を食う奴なんていなかったぞ」

「そうなのよ? 勇者小説にはいたのよ」

「そりゃ物語の……ああ、召喚された勇者の話ってことか」


 石を食う動物なんて、俺は知らない。知らないだけか?

 微生物ならまだ話は分かるが……どうなんだろう。


「ゲンコウトカゲの皮膚の表面のよ、食べた鉱石が沈着して鎧になってるのよ。とても純度が高くていいものなのよ」

「つまり、そのトカゲを狩るのが目的なのか?」

「それはあくまでついでなのよ」


 さっき本命って言ってなかったっけ。


「主な目的はゲンコウトカゲがするフンの中のよ、未消化の鉱石なのよ」

「フンの中?!」


 つまり、排泄物を漁るのか。

 そういえば、俺の排泄物も漁ろうとしてたっけ。

 ……まさか俺のフンの中にも、なにか特殊なものが?!


「鉱脈から採取するんじゃダメなのか?」

「不純物が多いのよ、非効率的なのよ」


 選別に手間がかかるし、運搬も大変だもんな。

 鉄鉱石から鉄を取り出すにも、かなり手間がかかるみたいだし、それを考えるならフン漁りが1番効率的なのか。

 にしてもフンかよ。

 高級な猫フンコーヒーを思い出すな。

 例え美味しいからと勧められても、飲みたくない。

 イメージとは大切なのだ。


「消化できない鉱石は、耐腐食性の強い鉱石なのよ。重要な部分に使われるのよ」


 なるほどね。


「表面の鉱石のよ、トカゲの中で変質してのよ、とても丈夫なのよ」


 違うものが採取できるのか。

 それは効率がよさそうだ。


「肉も食用として売れるのよ。さっぱりしていて美味しいのよ」


 まさに捨てるとこなしって奴だな。

 油だけ採って後は捨てる、なんてことはしない。骨の髄まで利用するのだ。

 トカゲは食べたことないけれど、狩れたら食べてみたい。

 どんな味がするんだろう。

 同じ爬虫類のワニは鶏肉に似てるっていうし、トカゲの親分がワニみたいなもんだから、やっぱり鶏肉に似てるのかな。


「明日の荷物持ちのよ、会わせるのよ」

「荷物持ち?」

「鉱石は重いのよ。持ち歩くのよ、無理なのよ」

「収納魔法とかないのか」

「大昔にはあったのよ。今は材料も知識も技師もなにもないのよ。だから荷物持ちが要るのよ」


 昔はあったのか。


「モナカこそ、異次元ポケットはないのよ?」

「そんな便利なポケットは持ってないよ」

「勇者小説には出てくるのよ」


 その勇者の世界、絶対俺のいた世界より科学が進んでるぞ。


「多分、てか絶対俺と勇者のいた世界は別物だよ」

「そうなのよ?」


 がっかりするかと思ったが、逆に目を輝かせていた。

 どういう思考なんだ?


「あ、ああ」


 なんだろう。俺を見る目が今まで以上に鋭くなったような……。気のせいであって欲しい。


「それより、荷物持ちってどんな奴なんだ?」

「ちょっと冷たい奴なのよ。ついてくるのよ」


 冷たい奴?

 クールなナイスガイって感じかな。

 それとも冷徹で無慈悲な感じなのか。

 何処に案内されるのかと思ったが、家の前の広場の奥に進みだした。

 工房の入り口は奥にはないはずだし、裏手しかないはずだ。

 その先に家でもあるのかな。

 結論から言うと、小さな一軒家があった。

 いや、一犬家(いっけんや)と言った方が正しいか。

 そう、犬小屋があった。

 中でかなりがたいの大きい犬が寝ていた。


「い……」

「いのよ?」

「犬だあー!」


 俺は本能のまま駆け出していた。

 無論、逃げるためではない。近づくためだ。


「あ、ダメなのよ!」


 などという忠告も耳に届くことはなかった。

 逆に犬の方が驚いて犬小屋から飛び出して逃げようとしたくらいだ。

 だが小鬼(ゴブリン)相手に鍛錬を続けた俺から逃げられる筈もなく……いや、鎖で繋がれていなければ逃げられたかも知れない。

 だが今はそんなことは関係ない。

 そこに犬がいる。

 他になにが必要だろうか。いや必要ない。

 パラダイスが待ち受けていて、そこに飛び込まないなんて嘘だ。

 据え膳は食べるためにあるのだから、食わなければ男の恥だ!


「犬だ犬だ犬だ犬だ犬だ……」


 犬だ犬だ犬だ犬だ犬だ犬だ犬だ犬だ……

書いてて設定失敗したなと思った。

いつの間にかフン小説と化してしまったw

異次元ポケットの元ネタは、言わずもがな……ですね。

ネコフンコーヒー、飲んだことないよ。

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