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第25話 |小鬼《ゴブリン》襲来

タイトルってふりがな使えないんだっけ?

まぁ気にしないことにする。

ということで、イベント発生です。

 アプリの効果は結構高いようだ。

 普通に修練していたらもっと時間がかかっただろうが、3時間も経つとかなりいい感じに振れるようになってきた。

 ※あくまで素人の感想です。

 ほとばしる汗。心地よい倦怠感。

 きっとこんなにも体を動かしたことは初めてだろう。

 ああ、これが噂に聞くランナーズハイというやつだろうか。

 ただ、そろそろ変化が欲しいところだ。

 剣を振るだけだと、体捌きが習得できない。

 対人戦とか望めないだろうし、シャドーボクシングのように仮想敵と戦えるほど経験があるわけでもない。

 どうすればいいか……そんな風に考えていた。

 まさかフラグ回収が速攻で訪れるとも知らずに。

 広場に面した道路側の方から聞き慣れない声が聞こえてくる。

 声というか、鳴き声というか、とにかくこれは人のものとは違う声だ。

 声のする方に振り返ってみると、そこには異形の者が1匹いた。

 あれはゲームなどで見たことがある。

 緑色の体表で、粗末な武器を持つ小柄な小鬼(ゴブリン)

 この世界にも魔物が居るのか。


「タイム!」

「分かってる。あいつのステータスを表示するね」


 そんなことまでできるのか。

 小鬼(ゴブリン)の頭の上に、ヒットポイントらしきバーが現れた。

 それと同時に左上に俺の名前と、小鬼(ゴブリン)の頭の上にあるものと同じようなバーが現れた。

 これは……俺のヒットポイントか。


「ん? ヒットポイントだけ?」

「そうだけど……他に必要?」

「ほら、レベルとかSTRとかDEFとか」

「そういうのはないって言っただろって言ってるよ」


 じゃあなんでヒットポイントはあるんだ?

 ……考えても仕方がないか。

 模擬戦もなく、いきなり実践なのはいささか怖くもあるが、そんなことを言っている余裕もない。

 小鬼(ゴブリン)に向かって剣を構える。

 ついさっきまで剣を振るったこともなかったただの一般人が、魔物と戦うことになるとは。

 剣が小刻みに震えている。

 いや、震えているのは俺自身だった。

 怖くないはずがない。

 手が震え、足が震える。

 先程までそれなりに構えられていたと思った体勢も、実践を目の前にすると体中に違和感が走る。

 たかが3時間程度の修練で、いい感じになったなどとおこがましいことだったと思い知らされた。

 小鬼(ゴブリン)が向かってきた。想像より早い。

 あいつらって、弱い魔物じゃなかったのかよ。

 目の前まで迫ってきた小鬼(ゴブリン)が、持っていた棍棒を振り下ろす。

 剣を振らなきゃ……いや、避けなきゃやられる。

 思わず目をつぶって腰が逃げてしまう。


「ひっ」


 振り下ろされた棍棒が、俺に当たることはなかった。

 アプリ名〝サイドステップ〟

 それが俺の命を救ったアプリの名だ。


「マスター、回避は任せてください。タイムが絶対に傷つけさせません!」


 振り下ろされた棍棒が、そのまま()がれたが、今度は〝バックステップ〟でひらりと(かわ)した。

 自分の意志とは関係なしに身体が動かされる。

 普段使わない筋肉が悲鳴を上げる。関節が軋む。だが、そんな事を気にしている場合ではない。

 痛みはあるが、無理な動きという感じでもない。

 これは〝人工筋肉〟のお陰なのだろう。

 いずれは自分の意志でアプリを使わずに動けるようにならなければいけない。

 タイムの「素人の〝ダッシュ〟が戦闘で使い物になる?」という言葉が実感できた。

 インストールしていなければ、今頃肉塊と化していたに違いない。

 この戦いが終わったら、タイムを思いっきり褒めてやろう。

 だが、今はそんな事を考えている余裕はない。

 目の前の小鬼(ゴブリン)に集中だ。

 今度はこちらから攻撃してやる。

 小鬼(ゴブリン)に走り込んでいって、剣を振り下ろす。

 たったそれだけのことなのに、身体中が違和感だらけになる。

 そうだ。敵は小鬼(ゴブリン)だけではなく、〝片手剣修練〟によって発生する違和感もだった。

 小鬼(ゴブリン)と武器を打ち鳴らしながら、違和感とも同時に戦わなければならない。

 実践は訓練の何倍もの経験を与えてくれるというのは、本当のようだ。

 何度か危ない場面もあったが、タイムの的確な回避行動によって、事なきを得ている。

 まさか戦闘において、タイムがここまでの手腕を発揮するとは思わなかった。

 ゲームだとたかが小鬼(ゴブリン)、一刀のもと切り捨てられるような弱い魔物。

 だが実際に相手をしてみると、確かに村人では敵わない相手だ。

 冒険者として力をつけたものじゃなければ、到底相手にできるものではない。

 初心者冒険者が小鬼(ゴブリン)の餌食になるなんて話にも頷ける。

 それがよく分かった。

 小鬼(ゴブリン)の大振りに合わせて、切りつけてはいるのだが、決定打にはならない。

 やはり筋力不足が響いているのだろう。

 それと踏み込みが浅い。

 深く踏み込む勇気がまだないから、どうしても切り込めない。

 恐怖から腰が引けているのもダメな要因だろう。違和感がなかなか取れない。

 それでも、ヒットポイントを半分くらい減らすことには成功している。

 それに対し、こちらはタイムのお陰でまったくの無傷だ。

 とはいえ、汗だくになり、肩で息をしている。疲れがピークに達しているんだ。

 体力的に限界が近い。回避させられる回数が増えてきた。

 太ももが痛い。完全に足が止まってしまっていた。

 それでも回避できるのは、アプリによる強制力だろう。

 自力では動くどころか、立つことさえいっぱいいっぱいだ。

 剣を振るう腕も、ほとんど感覚がない。

 もう限界だ。そう思ったとき、振った剣に振り回されてバランスを崩してしまった。

 小鬼(ゴブリン)がその好機を逃すはずもない。

 今まで以上に大きく振りかぶり、渾身の力で振り下ろしてくる。

 しかし、それを〝バックステップ〟で無理やり躱した。どんなにバランスを崩していようが、どんな体勢になっていようが、アプリの強制力とは恐ろしいものだ。同時に頼もしくも感じる。

 大振りを外されて、今度は小鬼(ゴブリン)が大きく体勢を崩した。

 そこへ〝ダッシュ〟からの〝袈裟斬り〟が小鬼(ゴブリン)に襲いかかる。

 体中の筋肉と関節が悲鳴を上げる。こんな状態で身体なんか動かせるはずがないほどの痛みだ。

 もういっそ殺してくれ。そんなことさえ考えてしまうほどだ。

 これで倒せなければ、今度こそ終わりだ。

 だが、終わったのは小鬼(ゴブリン)の人生の方だった。

 体勢を立て直そうとしたところに〝袈裟斬り〟が入り、身体を斜めに両断していた。

 血を吹き出し、膝から崩れ落ちて倒れた。

 俺は、初めての実践で辛くも勝利をもぎ取ったのだった。

 そしてその場に崩れ落ち、大の字になり、体中の痛みを感じて生きていることを実感した。


「か、はぁ、はぁ、勝てた、はぁ、はぁ」


 1匹でよかった。2匹いたらと思うと、寒気が走る。


「マスター、お疲れ様です」


 携帯(スマホ)から出てきたタイムが、顔を覗き込んでくる。


「ああ、はぁ、はぁ、おつか、れ、はぁ、はぁ」


 返事一つまともにできない。

 思いっきり頭を撫でてやりたいが、腕が上がらない。

 腕だけじゃない。しばらくは身体が動かせないだろう。


「終わったのよ?」


 エイルの声が聞こえてくる。

 そうだ、自分の心配ばかりしてたけど、エイルや町の人達は無事だったのだろうか。

 こんなところに1匹だけ小鬼(ゴブリン)が現れるなんて、考えられない。

 とはいえ、もう自分にはなにもできそうにない。

 エイルがここに居るってことは、少なくともこの辺りにはもう居ないと思っていいんじゃないかな。


「エイルさん、今日の鍛錬は終わりにしようと思います」

「そうなのよ?」

「はい。ただ、マスターはしばらく動けそうもありません」

「こんなところで寝られるのよ、邪魔なのよ」


 なんか、エイル冷たくない?

 というか、小鬼(ゴブリン)の死体を見ても、割と冷静なんだな。

 ここでは日常茶飯事なのか?


「エイルは……無事、はぁ……だった、のか、はぁ……」

「? なんのことなのよ」

「なんのって、はぁ……小鬼(ゴブリン)が、出ただろ、はぁ……はぁ……」

小鬼(ゴブリン)のよ?」


 そう言うと、エイルは深い溜め息を漏らした。


「寝ぼけたこと言ってないのよ、さっさと起きるのよ」


 エイルが上体を起こしてくれた。


「痛っっ、寝ぼけて……なんか、居ないよ、はぁ……はぁ……痛っ、そこに……はぁ……いてて、はぁ……?!」


 小鬼(ゴブリン)の死体があるはずの場所を見ると、確かに死体が転がって……?!

 いきなり死体が目の前から消えた。

 死体だけじゃない。血の一滴だって残っていなかった。まるでなにもなかったかのように……いや、()()()()()()がはっきりと残っていた。

 どういうことだ?


「なあ、タイム……あれ? いっ、はぁ……タイム?」


 さっきまでそこに居たタイムの姿が見えなくなった。

 軋む体を押して、胸ポケットの携帯(スマホ)を取り出す。

 そこには、〝探さないでください〟と書かれた看板が立っていた。


「おいタイム」

「……」

「どういうことだ?」

「…………」

「返事がない、ただの携帯(スマホ)のようだ」

「………………」

「地球出身、モナカ。ただの携帯(スマホ)には興味ありません。この中にタイムがいたら、マスターのところに来なさい。以上」

「……………………」

「はぁー、電源落としておくか」


 電源ボタンの長押しをする。


「あ、待って! 携帯(スマホ)の中にいると電源切られたら外に出ら――」


 なんか聞こえたような気もするが、とりあえず電源を切った。


「タイムちゃん、なんか言ってなかったのよ?」

「気にするな、しばしお仕置きだ」


 素直に出てくれば、話を聞くだけに留めておいてやったものを。


「そんなことより、汗洗い流したい」

「汗なのよ? 分かったのよ。ほら、立つのよ」

「ああ」


 なんとか立てるくらいには回復したが、まだ身体の節々が痛い。

 歩くのも困難だ。


「早くするのよ」


 エイルが手を引いて急かしてくる。


「そんなに急かすなよ。まだ身体中が痛いんだって」

「まったくのよ、軟弱なのよ」


 少し歩みがゆっくりになったが、それでもグイグイと引っ張ってくる。

 なにをそんなに……はっ。

 汗を洗い流すということは、シャワーを浴びるということだ。

 つまり……そういうことかー。

 どうになからないものだろうか。

 いや、どうにかなるものではなかった。

 俺は再び、全身を弄ばれることになるのだった。

戦闘って位置関係が難しいよね。

今パーティ戦(と言っても1対多)書いてるけど、フレンドリーファイヤー気にしながら書くのは難しいな。

次回はタイムが説教食らいます。

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