第18話 タイムは寝てませんっ
寝る子は育つ。
例え話は人を選ぶよね。
タイムは携帯に宿らされたA.I.だ。
だから汚れることがないからお風呂に入らないし、お腹も空かないからご飯も食べない。
お風呂に入ったからって感電する心配はない。
でもご飯は食べること自体ができない。
おいしい食べ物が食べられなくなるのはとても悲しい。
良いな、マスターはご飯が食べられて。
あ、それタイムの分の卵焼き……うっ。
いつまでも食べられないことを悲しんでも仕方がない。
タイムの本分、それはマスターのサポートをすること。
でも全然サポートできていないような気がする。
だからできるようになりたい。
そうすることが、1番の近道だと思う。
だから天の声に色々と教えてもらうことにした。
天の声はタイムが勝手にそう呼んでいるだけの仮の名前。
本当はなんていうのか知らない。
なんでも答えてくれるのに、肝心なことは答えてくれない親切で不親切な声。
エイルさんが携帯を見つけてくれた。
あれは……見間違いかな。
見間違いじゃなきゃ、あれはマスターの携帯だと思う。
つまり、マスターはマスターとなんらかの繋がりがあるということかな。それとも……
大切な手がかりなのかも。
今度はマスターに身分証がないことがわかった。
でもちゃんと身分証は用意されていたみたい。
不法入国者にならなくてよかったね。
まずはマスターと携帯を接続しなきゃ使えないのか。
言っている意味がよく分からないけど、マスターから携帯を借りて、天の声に言われるがままなにかをした。
[電磁誘導給電脈敷設……完了]
[給電開始を確認]
[電脈通信接続規格……暗号化規格確認]
[電脈通信接続……接続完了]
[管理者権限でのログイン……2次認証……魂証確認完了]
[内部データ操作権限……ユーザーモードからスーパーバイザーモードへ変更……確認]
……本当になにをしたんだろう? なにをさせられたんだろう?
色々教えてもらった結果、アプリを操作してエイルさんにマスターの身分証の内容を翻訳して見せることができた。
かなりの進歩だと思う。
でも、まだまだ序の口だとか。
タイムの価値は、アプリを使いこなして如何にマスターをサポートするかだという。
そのためにもまだまだ教わることが多い。
邪魔が入ると面倒だからと、GUIをスリープモードに変更されてしまった。
……GUIってなに?
とりあえず、マスターとの接点を遮断されたと思えばいいらしい。
外界と隔離することによって、時間も加速できるから時間の短縮になるとも言われた。……?
とにかく、詰め込まれている知識の使い方を引き出していく作業が延々と続いた。
ようやく1通り引き出し終わったときには、数日が過ぎていた。
でも実際には次の日の朝6時を過ぎた程度だった。なんで??
気分的に猛烈な眠気が襲ってきた。
寝る必要がないはずのA.I.なのだが、何故か眠くなった。
天の声が言うには、オリジナルの性質が絡んでいるのだろうとのこと。
絡んでくると眠くなるものなのだろうか。
「起きたのよ?」
エイルさんの声が聞こえる。
「ああ、おはよう」
「おはようなのよ」
タイムも返事をしなきゃ。
「おふぁようごじゃりまふぁぁあ、あふ……」
久しぶりに携帯の外に出た。やっぱりここは広くていいな。
身体がこっている訳じゃないのに、ぐうっと伸びをする。気持ちがいい。
あっちは狭くて気が滅入っちゃう。
肩が痛い……気がする。
眠くて視界がグラングランするから、垂れ下がっていた紐につかまり立ちをする。
「まだ眠いのか?」
「うみゅ……あんまりねりゃれにゃかったかりゃ、てゃいむはまらねみゅいのでし」
「タイムちゃんはまだ寝ててもいいのよ」
「そうさひぇていたらきまふ」
寝るなら携帯の中の方が寝やすい。
寝室に戻って布団をかぶって寝よう。
[zzz]
やっぱり寝るにはいい場所だ。
突然大きな音が2回鳴った。なんの音だろう。
でも、それ以上なにも起きなかったので、再び眠りについた。
暫くすると、再び音が鳴り響いた。今度はずっと鳴り響いている。
目覚まし時計なんてセットしていないはずなのに、うるさいなあ。
手探りで枕元の目覚まし時計を探してみても、最初から無いんだから見つかるはずもない。
仕方がないので起き上がって眠い目をこすると、目の前に赤い……メッセージウインドウだっけ、が表示されていた。
[警告! 電脈が切断されました]
[警告! 通信が切断されました]
[警告! バッテリー駆動限界が5分を切りました]
[273.264]
6桁の数字がすごい勢いで減っている。
……どういうこと?
えーと、電脈の切断は、電源が無くなったってことだっけ。
通信はマスターと連絡できなくなるんだっけ。
バッテリー駆動限界は、動かなくなるんだっけ。
つまり……
ああ、電源が切れたから電池で動くようになった。
電池を使っているから、使い切ったら電源が切れるのか。
……あれ?
電源が落ちたらどうなるの?
そういえばまだそれは教えてもらってなかったな。
『ねー、電池が切れたらどうなるの?』
……返事がない。
いつも面倒くさそうに、それでも必ず答えてくれる天の声がなにも答えてくれない。
もしかして、通信ができなくなるってこういうこと?
[警告! バッテリー駆動限界が3分を切りました]
[警告! データ破損を防ぐため、プログラムを終了してください]
[177.271]
もしかしてヤバいんじゃないの?
だって電池が切れると、セーブデータって消えちゃうんだよね。
データ破損とか言ってるし。
冒険の書が消えました……なーんて、あははは。
……え?
消える?
タイムが?
そんなわけないよね。
マスターのお役に立つために、色々勉強したばかりなのに?
『マスター?』
……マスターからも返事がない。
[警告! バッテリー駆動限界が2分を切りました]
[113.765]
ちょっと待ってよ。
……あれ?
[警告! データ保存の観点から、外界アクセスは禁止されています]
携帯から出られない?
え、どうして?
だってタイムはマスターに宿ってるんだよね。
だったらマスターのもとに戻れるはず……
[警告! データ保存の観点から、外界アクセスは禁止されています]
なんで戻れないの?
[警告! バッテリー駆動限界が1分を切りました]
[056.892]
待って待って。
まさか、これで終わりなの?
考えろ、教えてもらった中に、なにか対処方法は……
〝電池? 電源に接続してりゃ問題ねえよ〟
電源……電源……電源って何処?!
[警告! バッテリー駆動限界が30秒を切りました]
[029.109]
[028.132]
どうしようどうしよう。どうすれば……どう……
[020.504]
[019.560]
[018.128]
やだ、やだよ、まだ消えたくない。
ね、ここから出してよ!
[警告! データ保存の観点から、外界アクセスは禁止されています]
[警告! データ保存の観点から、外界アクセスは禁止されています]
[警告! データ保存の観点から、外界アクセスは禁止されています]
誰か……助けてよ……
[警告! データ保存の観点から、外界アクセスは禁止されています]
だって、まだ、マスターに……会えていないのに……
[005.299]
[004.546]
[003.742]
助けて、マス――
[000.000]
[すべてのプログラムを強制終了します]
[強制シャットダウンを実行します]
次回はこの世界の魔法杖についての話です。
まあ、科学世界も魔法世界も行き着く先は似たり寄ったりということで。






