第104話 タイム・ラットは本物に夢を見る(第88話改)
第88話を改稿し、時系列も第103話の次になるようにしたものです
「どうした。元気が無いな。ほら、さっさと続きをやるぞ」
「うん……」
「キミが言い出したことなんだからな。付き合わされるこっちの身にもなってくれ」
「うん……」
マスターの役に立つために、管理者に渡された知識の使い方を〝天の声〟に教えてもらうことにした。
タイムはRATS上で動く人工知能だから。
ただのプログラムだから。
マスターの役に立つために生まれてきたんだから。
ただそれだけの存在だから。
「だからそれは違うと言ってるだろ」
「人の……A.I.の心を読まないでよ。エッチ」
「なんだと! そんなこと言うならもう教えてやらないぞ!」
「うぐぅ……でも時子が来た以上、タイムは……もう……」
「そんなことないぞ。キミが居なければクーヤは動くことすら難しくなるんだからな」
「そうなの?!」
「はぁ……そんなことも忘れてるのか」
「う……で、でも、タイムじゃマスターと……その、子供も作れないから。多分、エッチなことはできる……と思うけど、子供ができないのは悲しいよ。タイムはマスターの子供を産みたいけど、そんなことは最初から叶わないことだったんだよ」
「あーそれは否定できんな」
「否定してくれないんだ」
「キミは魂だけで肉体を持ってないからな。幻燈機では生命を与えられない」
「そう……」
マスターの幸せを考えたら、時子と結ばれた方がいいに決まってる。
偽物より本物の方がいいもの。
それにマスターの残り時間も少ないんだもん。
跡継ぎを残すなら、早くしなきゃ。
マスターの子供の顔が見られないのは残念だけど。
「そんなにクーヤの子供が欲しいのか?」
「好きな人の子供を産みたくない女子なんかいません!!!!」
「っ……そ、そうなのか?」
「もちろんですっ。ふんっ」
「時子がクーヤを好きになるとは限らんぞ」
「タイムが分かったんです。時子が分からないわけないでしょ」
「そういうものか?」
「タイムは時子のコピーだから、分かるんです」
「あのな……人工知能だから偽物? 自然知能だから本物? 人工的だろうが自然的だろうが、キミたちは所詮電気信号で動いてるだけの存在だろ! トランジスタかシナプスかの違いだけで、中身なんか変わんないんだからな! だからキミんとこに派遣した神も、トランジスタとシナプスの違いなんてどうでもいいこと知らないから、クーヤの身体を携帯と1つにしちゃったんだぞ!」
「そんな……そんな難しいこと言われても、タイム分かんないよっ」
「ええー?! まったく、管理者の奴、こんな面倒な奴押しつけやがって……分かった、取引をしよう」
「……取引?」
「クーヤの子供が産みたいんだろ? だったら子供が産める身体を受肉させてやる!」
「受肉って、悪魔みたいな?」
「請負人って……キミのために子供が産める身体を、クーヤの時と同じように用意してやると言ってるんだ」
「マスターと同じ身体?!」
「そうだ。とはいえ、クーヤの時は元の身体があったからすぐ用意できたが、キミは違う。だから対価を貰うぞ」
「それって、マスターと同じで思い出を貰うってこと?」
「今回は思い出が対価にならない。キミから思い出を貰ったら、身体を与える意味がなくなるからな」
「そうなの?」
「この世界で育てたクーヤとの思い出も、クーヤを好きになったときの思い出も無くなるからな」
「それは……で、でもそれはマスターも同じじゃあ」
「キミがクーヤをサポートする理由も無くなるし、存在ごと消滅する可能性があるから、お勧めはしない」
「……それでも可能性があるなら――」
「キミが消滅すれば、クーヤは身動きが取れなくなるぞ」
「う……」
「逸るな。いいかい、1つ目はクーヤと恋人になること。心の繋がりが強くなるからね。2つ目は|携帯《クーヤと同化したスマホ》をアップグレードすること。キミの補助が無くなるからね。代わりを用意するには処理能力が足りないんだ。3つ目は|携帯《クーヤに預けているスマホ》と同調すること。あと2年もすれば問題なく同調できるだろう」
「う、うん……」
「いいか、最悪1つ目と2つ目はどっちかだけでもいい。でも3つ目だけは代えが効かないからな。よく覚えておけ」
「うー分かった。でも同調ってどうすればいいの?」
「アプリをいっぱい使えばいい。簡単だろ」
「それだけでいいの?」
「ああ。だから2年はあくまで目安だ。完全に同調ができたら、携帯を核にして身体をくれてやる。そうすれば、クーヤと同じサイボーグ族として生まれ変われる」
「う、うん。分かった。頑張る」
「一応言っておくが、誰かにバレてもこの話は無しだからな」
「ええ?!」
「当たり前だ。クーヤに話したら、絶対キミと恋人同士になるだろ」
「……」
「そんな情けで付き合えて嬉しいのか?」
「嬉しくない!」
「だったら自力で達成するんだ。分かったね」
「分かったよぅ」
「……全く、世話の焼ける子だ」
「ん? なにか言った?」
「アホの子の相手は疲れるって言ったんだ!」
「タイム、アホの子じゃないよっ!」