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第四十六話 祇園祭り(1)

 天文十七年(1548年)6月



 細川晴元によって修復が完了したばかりの今出川御所(いまでがわごしょ)に、大御所と公方様が動座することを了承し、東山の慈照寺より移り住んだ。


 細川晴元の招きに応じて六角定頼も上洛し、すべての準備が整ったことで晴元と定頼が今出川御所に出仕し、大御所である足利義晴に面会をはたした。

 昨年に大御所が北白川城で挙兵して以来、関係が冷え込んでいた両者と大御所との和解が公式になったことになる。


 和解の席で話がついたのであろう、公方様と大御所が晴元に招かれ祇園御霊会(ぎおんごりょうえ)(祇園祭)の観覧をすることとなった。

 観覧の準備はすでに晴元の手で進められており、数日後には御伴衆(おともしゅう)走衆(はしりしゅう)を伴って大御所と公方様が今出川御所を出立することとなった。

 祇園祭の見物のために上京(かみぎょう)にある御所から、下京(しもぎょう)郊外にある金蓮寺(こんれんじ)に公方様が御成するのである。


 その警護には京兆家や六角家の軍勢も駆り出されている。

 俺も義藤さまの御伴衆の一人として御成りに付き従うことになった。

 だが、この日俺以外に公方様付きとして付き従った者の多くは大御所や近衛家、それに政所執事(まんどころしつじ)である伊勢家の縁者が多かった。

 先日、義藤さまにも相談されたが、公方様の盾となる側近はもっと信頼できる者で固めたいものだと思うのであった。


 将軍父子の祇園祭見物の差配は全て細川晴元の手で行われている。

 幕府ではなく細川京兆家(きょうちょうけ)の力によって行われたということだ。

 相変わらず義父の細川晴広は晴元のお手伝いに借り出されており、金蓮寺では俺の配下の郎党なども手伝いで警備などにあたっている……あまり面白い状況ではないが、米田求政や明智光秀などには良い経験になったからよしとしよう。


 金蓮寺では細川晴元と六角定頼が盛大に将軍一行を出迎え、先例にのっとって式三献などの儀礼が行われた。

 金蓮寺での式典のあとは京極大路に設けられた桟敷(さじき)(見物席)での山鉾巡行(やまほこじゅんこう)の観覧である。


 この山鉾巡行は細川晴元によって町衆らに特別な依頼がなされ、大御所や公方様がゆるりと見られるように、通常の山鉾巡行ルートを変更して行われている。

 その目的は京兆家の当主が同じ桟敷にて将軍と大御所と共に見物することを洛中の様々な人々に示すことである。


 細川晴元の先代の京兆家の当主である細川高国も将軍に就任したばかりの幼き足利義晴と、同じように桟敷にて祇園祭を観覧しており、これは先例にのっとったものでもある。


 ようするに祇園祭の観覧とは京兆家当主が行うデモンストレーションであり、細川氏綱の挙兵を抑え込んだ細川晴元が自分こそが正統なる細川京兆家の当主であることを洛中洛外に、また全国にアピールするものなのである。


 それを許すということは大御所も細川晴元を改めて正当な京兆家当主であると認めることになり、両者の和解と細川晴元による政権の安定を誇示することにもなるわけだ。

 大御所としても細川晴元と和解し、京兆専制を認めることで政権の安定をはかることに方針転換するつもりなのであろう……


 そんなわけで、細川晴元のアピールなぞに付き合わされるハメになっている義藤さまや俺なのであるが、普通に山鉾巡行の見物をのほほんと、おやつを食べながら楽しんでいた。

 まあ、余計な背景など考えなければ、それはそれで京における一大イベントを特等席から楽しめるものなのである。


兵部大輔(ひょうぶだゆう)(藤孝のこと)、もそっともみじ饅頭はないのか?」


「はっ、こちらに」


「兵部大輔、わしは茶が飲みたい、仕度をせよ」


「ははっ、しばしお待ちくだされ」


 人前なので他人行儀なつもりのようなのだが、ほとんど俺にしか話しかけていないぞ我が(あるじ)……すまんが他の幕臣にも声を掛けてくれ、俺が悪目立ちするではないか。

 ただでさえ公方様に金で取り入る、君側(くんそく)(かん)とか言われだしているのに、これではさらに悪評が立つではないか。


 だがそんな心配をよそに、祇園祭の見物を楽しむ公方様やそれを甲斐甲斐しく世話する俺を見て細川晴元は上機嫌であった。

 別に細川晴元のために公方様の世話をしているわけではなく、好きでやっていることなのだが、まあ勘違いをさせておいてもいいだろう。

 俺を京兆家に従順な淡路細川家の若殿であると思わせておいて損はないのだ。(義父の立場もあるしな)


 桟敷にて六角定頼と大御所を挟んで座る細川晴元はまさに得意満面であり、京兆家当主として、振り返ればこの日が細川晴元の権勢の絶頂となったのである。


  ◆


 だが、細川晴元の絶頂などは長くは続かないものなのだ。

 我が世の春のような顔をしている細川晴元であるが、この祇園祭の前からすでにその桟敷の崩壊は始まっていたりする。


 4月に六角定頼の仲介で細川晴元と畠山政国(はたけやままさくに)というか畠山尾州家(びしゅうけ)を牛耳る遊佐長教(ゆさながのり)との和睦が成立している。

 昨年7月の舎利寺(しゃりじ)の戦い以来越年して8ヶ月にも及んでいた河内高屋城(かわちたかやじょう)の包囲戦が終結した。

 細川晴元の勝利という形での和睦である。


 畠山尾州家を牛耳っている遊佐長教と和睦できれば、もはや敵はいないとか細川晴元は思っているのかもしれないが、これは完全に裏目に出ることになってしまう。


 なにせ遊佐長教が担いでいた、細川氏綱がそのままなのである。

 結果的にはそれが細川晴元の致命傷となった。

 自分にとって代われる存在というものは生かしておいてはならないのであるが、細川氏綱は捕らえられることもなく逃れており、細川晴元はライバルの命を絶つその好機を永遠に失うこととなる。(遊佐長教が匿っていたと思われる)


 そして翌5月、戦後処理の一環であるのであろうが、やってはならないことを細川晴元はやってしまう。

 摂津の有力な国衆である池田信正(いけだのぶまさ)を切腹させたのだ。

 これは細川高国が香西元盛(こうざいもともり)を討って丹波の国衆の離反を招いた同じ轍を踏むことになるのである。


 摂津池田氏は一応出自を摂津源氏とされ、室町時代には摂津の国人として摂津守護職であった細川京兆家の被官となっていた。

 池田信正の父である池田貞正(いけださだまさ)は、両細川の乱では細川晴元の父である澄元派に味方しており、細川高国の攻撃を受け自害している。


 池田信正は自害した父に城から落とされ、長じてからは細川澄元・晴元父子に協力していた。

 細川晴元が細川高国に勝利し、京兆家当主となってからは重臣として重用されており、洛中に屋敷を持ち幕府から毛氈鞍覆(もうせんくらおおい)白笠袋(しらかさぶくろ)の使用の許可も得るなど、摂津において最も有力な国人となっている。


 摂津池田氏なんてマイナーで知らないとか言われそうなのだが、池田二十一人衆といわれる池田家の家臣には、荒木村重(あらきむらしげ)中川清秀(なかがわきよひで)などがおり、織田信長が畿内の覇者となる時代に、その荒木村重に乗っ取られるまでは摂津の最大の国人勢力だったりする。


 晴元に重く用いられていた池田信正なのだが、晴元と対立したのか、細川氏綱が畠山尾州家と組み挙兵した際に氏綱方に寝返ってしまった。


 細川晴元は当初氏綱の挙兵に対し劣勢であり、三好長慶すら苦戦している状況であったのでその判断は正しいようにも思われた。

 だが三好長慶の元に四国勢が来援してからは状況が一変してしまう。

 三好長慶ら細川晴元方の大軍に攻められた池田信正は降伏し、出家剃髪して晴元方に帰参した。


 池田信正は細川晴元に帰参を許されていたはずなのだが、晴元の自邸に呼びつけられ、結局は自害を強いられることになった。

 これには裏の事情が一つあったりする。


 池田信正の正室は細川晴元の第一の側近である三好宗三(みよしそうぞう)政長(まさなが)の娘であった。

 池田信正の嫡子である池田長正(いけだながまさ)はその娘の子で、三好宗三は長正の外祖父(母方の祖父)になるわけである。


 信正の自害により嫡子の池田長正が池田家の当主となれば、祖父の三好宗三が池田家をその影響下に置くことになり、それは三好宗三の軍事力が強化されることになるのである。


 だがこの池田家の取り扱いに納得できない者が居たりする。

 それはほかの摂津国人衆らであり、また三好長慶であった。

 三好長慶がこの池田家の問題に介入することにより拗れまくって、細川晴元による京兆専制の終焉の引き金を引くことにまで発展してしまうのである。


 ◆

【祇園祭り(2)へ続く】

細川一門の解説は後回しで本編が

とりあえず書きあがったので急ぎ更新しました


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ありがたいです

なんだかまったく予定通りにいかない作品で

マジで申し訳なかとです

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