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第四十五話 京兆専制と両細川の乱(1)

 天文十七年(1548年)6月



 細川晴元と六角定頼が協力して行っていた今出川御所(いまでがわごしょ)の修復が完了し、将軍御一家が慈照寺(じしょうじ)より今出川御所に移ることになった。

 室町殿が洛中に帰還するということなので、奉公衆の皆様もペリカン便や西濃運輸を使ってお引越しに大忙しである。(ただの馬借(ばしゃく)です)


 越前から戻った俺も吉田神社での居候生活に終わりを告げ、先に義父細川晴広が修復して移っていた洛中一条戻(いちじょうもど)り橋近くの淡路細川屋敷にクロネコヤマトで引越しすることになった。

(個人的に中昔京師地図(なかむかしけいしちず)などに見られる細川治部(じぶ)の屋敷が淡路細川家の屋敷であったのではないかと考えています)


 面倒くさい引越しの差配は全て米田求政や明智光秀らにぶん投げて、俺はさっさと(いと)しき義藤さまに逢うために今出川御所へ向かい、今出川御所内に設けられた離れで義藤さまに面会した。


「朝倉家の件いかがであったか?」


「近日中に朝倉義景殿の代替わりの使者が参りますのでご安心下さい」


「さようか。大儀であったな……で、そなたはまたどこかに行く用事があったりするのか?」


「いえ、私も淡路細川の屋敷に腰を落ち着け、しばらくは毎日義藤さまのもとへ出仕する所存ですのでご心配なく」


「そ、そうか。べ、別に心配などはしておらぬがな……それで越前のお土産はどんなものじゃ?」


「は? ………………越前土産ですと?」


「どうした? そなたのことであるから特に美味しいものを厳選して、わしの為に持ち帰って来てくれておるのだろう?」


 いかーん、ガチでお土産を忘れていたー!(注:作者も忘れてました)


「あー、申し訳ありませぬ。こたびはお土産を忘れました」


「ふぅ……そ・な・た・だけは、わしの忠臣であると信じておったのだが残念であるな。――新次郎あるか?」


「はっ、新次郎ここに!」


「藤孝が責任を取って切腹すると申すので、介錯せよ」


「かしこまりまして御座います」


「お、お待ちくだされい!」


「なんじゃ? 何か申し開きでもあるのか?」


「たかがお土産を忘れただけで、いきなり切腹でありますのか?」


「新次郎、藤孝はお土産の大切さが分かっておらぬようじゃ、説明するがよい」


「はっ。与一郎の思い違いも甚だしいことであるだろ。我が主や(それがし)などは一歩も京から動けぬというのに、与一郎はどこにでも自由に遊びまわっておった。それを我らがどれほど羨ましく思っているのか存じ上げぬようであるだろ。もしかしたら我らが一日千秋の思いで待っている()()()()を、お土産如きとか思っているのかもしれないだろ。これは万死に値する所業だろ!」


「それにしてもいきなり切腹は余りにも非道!」


「では市中(しちゅう)引き廻しのうえ獄門(ごくもん)(晒し首)でよいか? 武士としてせめて切腹させてやろうと思ったのであるが……残念なことだな」


 ダメだこいつら早く何とかしてクレ……


 ◆


「お待ちくだされ!」


 そこに救いの神というか麒麟が現れた。


「何者だろ!」


 新次郎が声をあげた者に鋭い目を走らせるが、そいつは見知った顔であった。


「はっ、細川兵部様の臣にて明智十兵衛と申します。若殿、ただいま小浜の組屋より早荷が届きましてございます。何やら魚介類もありましたので、無礼とは思いましたが急ぎ持参いたした次第です」


「なんじゃと、魚介類とな? 許す、十兵衛とやらそれらを早く持ってくるがよいぞ」


「十兵衛、公方様が仰せである。そのようにいたせ」


「はっ」


「それで何が入っておるのじゃ? 十兵衛とやら良いぞ、直答を許す」


 俺は十兵衛に目線で許可を与え、義藤さまにお答えするよう促す。


「はっ。(サバ)の塩漬けにワカメ、サザエの焼き物、蒸アワビ、越前ガニ、オカヒジキと何やら()らしき物が入っておりますな」


実隆公記(さねたかこうき)の1511年3月21日の条に「越前(がに)一折遣竜崎許了」とあり、この頃から越前ガニが有名であったと解釈されズワイガニすげーとなるのだが、恐らくはズワイガニではなく、モズクガニだと思われる。水深の深いズワイガニを獲れる技術は室町期にはまだ無いだろう)


「ん? 石や草などは捨ておけ。それより早くその美味しそうなものを食べたいぞ。十兵衛とやらお主は料理はできるのか?」


 その()や草じゃなくてオカヒジキの方が大事なんですけどー、と言っても食いしん坊将軍には通じないだろうなあ。


「はっ、我流ではありますが料理は心得ておりまする」


「よし。藤孝などより余程気が利くな。十兵衛とやら早速調理してまいるが良いぞ」


「すいませーん。その荷は私が運ばせた物なのですがー」


「ん? 藤孝まだ居ったのか? さっさと切腹いたすがよいぞ」


「ですからー、その食材はわたしがー」


「もうそなたに用などないぞ。十兵衛とやらがいれば美味しいものが食べられそうだからな。よし、十兵衛はわしが召抱えてやろう」


 プチっ。


「……いい加減にしろやこのクソ馬鹿将軍がぁ!」


「む? わしを馬鹿将軍じゃと! 無礼者め! 新次郎、切り捨てるがよい」


「はっ、神妙に――」


「ウルセー! 筋肉バカはすっこんでろ!」ちょっとマジ切れな私です。


「人の大事な家臣を奪う所業は馬鹿将軍でしかないわ!」


「む、藤孝ばかり新しい家臣を召抱(めしかか)えておるのだ。一人ぐらいくれても良いではないか」


「それならばまず将軍として、自らの近習(きんじゅう)を拡充することを考えやがれ!」


「じゃが信の置ける者でないと近習には加えたくないのだ」


「ならば、まずは義藤さまが信頼をおける者から近習にすればよろしいでしょうが! 義藤さまが最も信頼がおける者は誰でありますや?」


「それは、そのう……()()()であるのだが……」


 ぷしゅう……

 テレながら赤らめる義藤さまの顔を見て、俺の怒りはどこかにすっ飛んで行ってしまった。


「あ-、ありがたきお言葉でありますが、私はすでに義藤さまの第一の臣下にありますれば、私以外の者で信のおける者をば……」


 なぜかお互いが恥ずかしくて真っ赤になる二人である。


「あ、あまり信頼できるものはいないのじゃ……」


 ボッチかよ。


「近習の拡充につきましては、ここ洛中の今出川御所に移ったこともありますれば、改めて近日中に相談いたしましょう」


「そうじゃな。相談にのってくれると嬉しい」


 ふう、どうやら切腹の危機は遠のいたようである。


「若殿、調理の方が終わりましてございます」光秀が料理を持って帰って来た。


「十兵衛ご苦労、では皆でいただくとしましょうか」


「おお、待っておったぞ。はやく美味しいものをよこすのじゃ」


 メニューは、カニ飯・ワカメの味噌汁・サバの味噌焼き・サザエの焼き物・蒸アワビである。

 御食国(みけつくに)の名に恥じぬ、若狭の魚介類をふんだんに使った豪華な食事となった。

 さすがは明智光秀なのか? なかなかの料理の腕前である。


 皆で楽しく食事をしたあとに義藤さまに願い出た。


「これより組屋と角倉(すみくら)家に若狭からの荷を毎月運ばせます。将軍の御用達として奉行人奉書(ぶぎょうにんほうしょ)を発給し、京への荷の運び入れにご助力いただければ助かります」


「おお、このような食材が毎月食べられるというのだな。わかった奉行衆(ぶぎょうしゅう)には便宜をはかっておくぞ」


 正式な幕府の奉行人奉書があり、公方様の荷ということになれば、荷改めや余計な関銭も掛からずに済むからな。

 まあ真の目的はオカヒジキと()を自由に運び込むことにあるのだが。


 ちなみに運び込む()とは、「焼成(しょうせい)した珪藻土(けいそうど)」のことである。

 最近流行っていたので「珪藻土バスマット」などをご存知の方も多いだろう。

 珪藻土を焼成することにより、炭と同じく無数の空気孔(くうきこう)が生まれそれによって、吸収性、吸着性、保湿性を生む。

 使ってみれば分かると思うのだが、珪藻土バスマットが風呂上りの濡れた足の水分をすぐに吸い取る様は見ていて気持ちが良かったりする。


 だが別にこの戦国時代にバスマットを作るわけではない。

 主な用途としてはその無数の(こう)による吸着、脱臭効果を利用しての、清酒や水の濾過(ろか)になる。(活性炭との併用)

 また優れた断熱性、耐火性を利用した七輪(携帯用コンロ)の製造なども良い。

 将来的には建材としての利用も目指し、城や砦の(へい)に用いることで火矢などへの耐火性能を上げることも見込めるだろう。


 ほかには保湿、調湿機能を利用した乾燥剤としての利用も魅力的だ。

 ドライングブロックの名で板チョコ型やスティック型の乾燥剤が東急ハンズなどのオシャレグッズ店(笑)でも売っているので、見たことがある人もいるだろう。

 これは薬や生薬、砂糖メープルシュガー、塩などの保管に使う乾燥剤(調湿剤)としての利用方法を考えている。(天日干(てんぴぼ)しにすれば再利用も可能だぞ)


 利用の用途は多岐に渡り、夢のハイテク素材に思えるこの「珪藻土」なのだが、その産地は日本国内であり、実は()()()()だったりする。

 能登半島の土の4分の3は珪藻土でできており、その埋蔵量(まいぞうりょう)無尽蔵(むじんぞう)に近い。

 小浜の組屋は祖先が楠正成(くすのきまさしげ)の末裔とされ、かつては能登畠山家に仕えており、能登には伝手が多くあるというので、組屋と組むことによって珪藻土を能登から仕入れることが可能になったわけだ。


 公方様への海産物の貢物(みつぎもの)に偽装して、組屋と角倉家に珪藻土を京へ運び込ませ、多方面で売りさばいて儲けてくれよう。

 義藤さまも毎月美味しい海産物が食べられて大喜びであり、誰も損をしない良い作戦であるのだ。


 ◆

【京兆専制と両細川の乱(2)へ続く】

越前土産を忘れていたが、組屋に仕入れを頼んでおいたことにした

珪藻土はハイテクに思えて、実はローテクでジモティーな産物


次の後半は題名のとおりな、時代背景の説明回

これから時代が動いていくうえで必要かなと思うけど

多分余計な説明なんだろうなぁ


ここ最近評価をすごくつけて貰えて嬉しいです

ブックマークに比して、評価してくれる方の比率の多い

変な小説になっとります

コアな読者に支持されているような気がする(嬉しいですよ)

ブックマークが増えないというか新規はなかなかもう増えない

でしょうが既存の読者の皆様のためにゴールを目指すのだ


誤字報告いつも感謝しております

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次も早く上げれるよう頑張りマスターアジア

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― 新着の感想 ―
[良い点] 次は珪藻土ですか。次々とニューアイテム投入ですね。一度作者さんのアイディアノートを拝見したいものです。 しばらくは細川解説、幕政回ですかね。 僕はちゃんと整理しきれてないので神解説期待して…
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