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第六話 心の友(2)

【心の友(1)の続き】 

 ◆


 へんなことから新二郎と仲良くなれた。

 正直フルネームを聞いた時には驚いてしまった。


 そう……「()()」なのだ。

 細川藤孝にとって「松井」の名はある意味特別な意味を持つ。

 史実の細川藤孝が最も信頼し頼りとした存在が、筆頭家老(ひっとうかろう)である「松井康之(まついやすゆき)」なのだ。決してゴジラ松井ではない。


 史実では豊臣秀吉が多くの大名家の有力家臣を引き抜こうとした。

 徳川家の「石川数正(いしかわかずまさ)」や上杉家の「直江兼続(なおえかねつぐ)」、毛利家の「小早川隆景(こばやかわたかかげ)」、伊達家の「片倉景綱(かたくらかげつな)」、佐竹家の「佐竹義久(さたけよしひさ)」などがその例である。

 実は「松井康之」も秀吉に狙われていたりした。


 江戸時代には松井家は熊本細川藩では別格で、家臣ではあるが一国一城令の例外とされ、八代(やつしろ)城のお殿様でもあったのだ。

 また松井家は山城国の八瀬(やせ)の地などに徳川将軍家からも別の領地を認められており、徳川将軍家に直接仕える身分すら有していたのである。

 

 松井康之は若い頃から藤孝に付き従い多くの戦功を上げ、文化面でも主君の細川藤孝に負けじと一流であり、茶の湯では千利休の直弟子でもあった。

 本能寺の変や秀次事件、関ヶ原の戦いなどで細川家の危機を幾度も救った細川家最高の功臣――それが松井康之なのだ。


 松井康之は残念ながらまだ生まれていないのだが、松井の家の者と縁が生まれたのは大きい。(松井康之は1550年生まれ)

 いずれは松井康之を家臣としてゲットしたいものである。


 だが松井(まつい)新二郎(しんじろう)勝之(かつゆき)もいいやつだな。

 いい加減に泣き止んで欲しいとは思うけど……


「ええい! 新二郎。いつまでも泣くでない。よし、剣の稽古でもするぞ。木刀を持って参るがよい」


「ははっ」


 いつまでも泣いているので怒られた新二郎が慌てて木刀を取りに走る。


「義藤さま、剣術の稽古ですか?」


「うむ、いつも新二郎とやっておるのだが、あやつは体がデカイだけあってなかなか強いぞ。藤孝も一緒にやるがよい」


「わかりました。孫子はお昼前に十分講義しましたので今日はもうよろしいでしょう」


「そうじゃな、また次来る時に頼むぞ。別に毎日来てくれてもよいのだがな」


 ドキリとするような事を突然言う。本人はまったく気付いていないようだが……


「公方様の許される日だけではありますが、こうして度々参ることができておりますので今はそれで十分ではないかと思います」


 新二郎が木刀を数本持って戻って来た。さすがにもう泣いてはいない。


「そうだな……では、はじめるとするか」


 このあと、めちゃくちゃ剣術の稽古をした――


「感服しましただろ。与一郎殿がこんなに強いとは思いませんでしただろ」


 兄上の三淵藤英(みつぶちふじひで)には剣の腕で勝っていたのだが、新二郎とは互角といったところであった。速さでは俺、力では新二郎といったところだな。


「藤孝、お主も強かったのだな。新二郎は体も大きく力も凄いゆえ、年上の者にもほとんど負けたことがないのだが、藤孝も負けていないではないか」


「新二郎は私より年下ですが、たしかに私より身体が大きいですからね。この腕前なら若様の護衛役として見事に役儀をこなせましょう」


「そんなに褒められると照れるだろ。体だけがとりえなので、鍛えてはいるだろ」


 マッチョマンのデレとか正直いらない。


「体を鍛えるのが趣味なのか新二郎は?」


「まあ、暇さえあれば鍛えているだろ」


「そうか、では新二郎に一つ助言をしてやろう。体を鍛えるためには肉を多く食べることだ」


「にく?」


「そうだ。肉食は仏教により忌避(きひ)されるものではあるが、鶏肉や牛肉は体を鍛えるには良い。牛乳や魚、豆腐などもよいな」


 筋肉を鍛えるならタンパク質の摂取が大事だ。

 しかし、仏教の肉食の忌避はクソだよな。兵の質を上げるためにも正直なんとかしてやめさせたいものだ。俺が兵を持てることができれば肉食三昧にしてやろう。


「まあ、次回は肉にも劣らない栄養満点の食事を用意してまいります」


「なんと? それは美味いものなのか?」


 とりあえず義藤さまはヨダレを拭け。


「自信を持って言いましょう。この世の美味い物の5本の指には入ると」


「なんじゃと!」


「次回の講義の時に食べさせてあげますので楽しみにしてください」


「うむ。楽しみにまっておるぞ」


 ◆


 季節の天ぷらタネを考えたり、茶蕎麦などを試作したり、店のウエイトレスの巫女さんの服をショート丈にしようと画策するも、叔父さんに阻止されたり……

 そんなことをしながら蕎麦屋を手伝い、新作料理の研究なども行っていたら、すぐに次の兵法指南の日になった。


 東求堂で義藤さまと孫子の勉強をすすめていたのだが、義藤さまが新作料理に気もそぞろなので、早々に切り上げて早い昼飯とすることにした。


「すまぬが新二郎、準備を手伝ってもらえるか?」


 新二郎に手伝ってもらいながら、本日のメニューである「鰻重(うなじゅう)」をつくる。

 鴨川(かもがわ)で取れた天然物のウナギだ。この時代に養殖物のウナギなんてものは存在しないのだがな。


 ウナギを現代の「鰻重」や「うな丼」のように、タレをつけて焼く蒲焼(かばやき)の方法で食べるようになったのは江戸時代のことになる。それまではブツ切りにして焼く程度の調理法であったという。


 そのような食べ方は()()()()への冒涜(ぼうとく)である。

 おれが偉大なウナギ様を立派な蒲焼にして進ぜよう。


 タレはこの前作ったそばつゆの応用だ。味醂、たまり醤油に酒、砂糖を入れて煮詰めていく。

 砂糖はこの時代では輸入品でとても貴重な代物になるのだが、砂糖はいずれなんとかしたいと思っている。


 ウナギの頭を目打ちにして腹開きに捌いていく。ウナギは現代でも捌いたことがあったような気がする。

 趣味の釣りでウナギも釣っていたからな。まあ外道で釣れるだけなのであるが――何か変なことを思い出したが、まあよい。


 捌き終わったウナギを竹串で串打ちして炭火で白焼きにする。それからタレを付けてまた炭火で炙っていく。調理法的には関西風だな。うん、タレを付けて焼くと香りがたまらん。

 国宝である東求堂の茶室「同仁斎(どうじんさい)」に蒲焼の香りが染み付きそうなのだが、まあ400年もすれば消えるだろう――なにも問題はない。


 雰囲気を出すためにわざわざ重箱も用意した。

 吉田神社からかっぱらった重箱に、厨房で新二郎に炊いて来てもらったご飯を敷き詰めて、そこに焼きあがった鰻の蒲焼を乗せて蓋を閉める――これで鰻重の出来上がりだ。


 出来た鰻重をさっそく三人で食べる。

 うん、タレは改良の余地があるがまあこんなものだろう。現代の一流店には遠く及ばないとは思うが、しっかりとした鰻重の味にはなっている。

 さて、義藤さまと新二郎の反応はというと……


「うまいうますぎる!」――別に風は語りかけて来ない。


 どこかの埼玉銘菓(さいたまめいか)のCMのような感想しか出ないのが義藤さまだ。義藤さまは食いしん坊だが食レポには向いていないな。ボキャブラリーが(とぼ)し過ぎる。


「これは、ムシャムシャ、うますぎるだろ、パクパク、このタレがまたご飯に合うではないか。ウナギが、モグモグ、こんなに美味しいものだとは知らなかっただろ」


 とりあえず落ち着いて食え新二郎。喜んで食べてくれているのは伝わったが少し汚いぞ。


「藤孝わしは満足じゃ」


「いやぁ、うまかっただろ」


「とりあえずお口を拭いてください。若様ともあろうものがみっともない。まあ喜んでいただけたようで私も作った甲斐がありました」


 義藤さまは恥ずかしそうに口を拭いている。うん実に可愛い。

 横を見ると新二郎も同じく義藤さまを眺めて満足そうな顔をしている。


 最初から三人分の鰻重を作っていた。新二郎とも一緒に食べたかったからだ。

 義藤さまに対して過度に遠慮をしない家臣を増やして行きたいと思っている。新二郎は義藤さまと一緒に食べることを遠慮していたのだが、俺が押し切った。

 

 義藤さまは喜んでくれた。鰻重にも新二郎と一緒に食べたことにも……


「どうでしたか鰻重は? 美味い物の五本の指には入るのではないですか?」


「うむ、今のところ一番じゃ。天ぷらも蕎麦もむろん美味かったがな」


「感服しました与一郎殿。かようにまで料理の道に通じているとは」


「新二郎に良いことを教えてやろう。このウナギにはタンパク質が豊富に含まれている。これを食べて鍛錬すると筋肉が大いに鍛えられるぞ」


「なんと筋肉が? 若様少し失礼するだろ」


 新二郎がさっそく庭に飛び降りて、素振りを始める。


「新二郎、また料理をご馳走するから鍛錬がんばれよ」


 庭の新二郎に声をかける。


「おう! ありがたいだろ。頑張って鍛えるだろ」


「そうだ、新二郎に良い言葉を与えよう」


「ふん、ふんっ! それは、いったい、なんだろ?」


 新二郎が力強く素振りをしながら聞き返してくる。


「――筋肉は裏切らない」


「き、筋肉は裏切らないだとぉぉぉ!」


 ズガーン! 新二郎はまた衝撃を受けていた。うん、見ていて面白いやつだな。


「よし、わしも鍛えるかな」


 義藤さまが新二郎と一緒になって素振りを始めた。義藤さまも新二郎も楽しそうに剣の稽古をしている。俺は食事の後片付けがあるので参加はしなかった。

 

 二人の剣術の稽古を見ながら俺は思った。史実のように義藤さまには()()()鹿()になってもらっては困る。兵法を教えているのもその一環だが、ほかにも何か考えないといけないな。


 そう俺は、義藤さまが剣豪(馬鹿)将軍にならないように阻止計画を考えなければならないのであった――

松井新二郎勝之の生年は不詳です。はやく「松井」を出したくて登場させましたが、新二郎の生年が確定して年齢があわなくなったらどうしよう。


その場合は実在が怪しいのですが、松井康之の叔父という松井新三郎(実名不明)に切り替えよう(逃げ)。新三郎は新二郎の誤記だと思うのですけどね。


弟康之と兄勝之の間には女子が2名は居るので、年齢差がある兄弟でいけるかなぁと思って出しちゃいました。康之が生まれるのは1550年。年齢差は14歳……ちょっと無理があるかな。


でもでも細川藤孝「もの」で松井家が居ないとなんか寂しいのです。

松井康之なんて出番大分後だしね。藤孝の親友には松井が欲しいのだー!


最終的には、俺が転生して歴史が変わったから松井の人間が増えたことにとかしてしまおう。


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[一言] 松井の口調は頂けない・・
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