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第四十一話 固形石鹸をつくろう(1)

 天文十七年(1548年)5月



  どうもこんにちは、細川藤孝です。

  うちの主がなぜか冷たくて泣きそうです。

  美濃の御料所(ごりょうしょ)の件とか、信長の婚姻の件とか相談しても冷たくあしらわれます。

  やりたいことは認めてくれるので問題ないのですが、もうなにか心が折れそうです。


  なぜだ? 義藤さまはなぜ急に冷たくなったのだ。

  げせぬ……


 先日の信長殿の任官と帰国を祝う(うたげ)までは普通であったのだが何があったというのだ。宴自体はごく普通に行われたはずである。

 大草公重(おおくさきみしげ)殿がメインで差配して俺は料理のお手伝いをしていた。

 信長も大御所が居たため大人しくおり、何も問題は無かったはずなのだが……マジで意味が分からない。


「義藤さま、藤孝です」


「入るがよいぞ」


「大垣の御料所の代官の件で相談にあがりました。総代官として三淵晴員(みつぶちはるかず)を任命していただきたく、また代理として三淵藤英(ふじひで)を赴任させます。そのほかに代官として、千秋晴季(せんしゅうはるすえ)殿、飯河秋共(いいかわあきとも)殿、荒川晴宣(あらかわはるのぶ)殿、小笠原稙盛(おがさわらたねもり)殿、大和晴完(やまとはるのり)殿らを任命していただきたく――」


「許す。大御所と相談の上、よきにはからうがよい」


 と、取り付く島がねえ……


「そ、それと」


「なんじゃ、まだ何かあるのか? わしは忙しい手短にせよ」


「はっ。()()()()()という美味しいご飯を作って参りましたが、ご一緒に食事でもいたしませぬか?」


「む? それは美味いのか?」


 お? 美味しいものには食いついてくるな。

 やはり義藤さまには食い物だな。


「は、ウナギを使った料理にて非常に美味しき物にございます」


「そうか、では後で食べるゆえ、それは置いて行くがよいぞ」


 ぬがぁ、め、めげるな俺。

 

「ですが食べ方がありまして、美味しく食べるには私が手本を見せねばなりませぬが……」

(締めの茶漬けは大事なんだよー)


「しつこいのう。わしは忙しいし、お主の顔など見たくないのだ。はっきり言わねば分からぬのか?」


 うぐぅ、大切な人に塩対応されることなどは現代で経験済みのはずだ、めげるな俺。


「わ、わかりませぬ。な、なぜ義藤さまに嫌われたのかそれを――」


「べ、別に嫌ってなどはいない。じゃが、そ、そなたは、わしではなく、そなたの許嫁(いいなずけ)とやらと食事を共にしたほうが……よ、良いのではないか?」


「は? 私には許嫁など()りませぬが」


「嘘を申すでない。先日の宴で信長殿から聞いたが、とても可憐(かれん)女子(おなご)であったそうだが」


「あー、それ義藤さまです」


「ん?」


「ですから、信長殿が会ったという可憐な女子というのは姫君の格好をした義藤さまです」


「わしには覚えがないのだが?」


立売(たちうり)(つじ)にご一緒したこともお忘れですか?」


「ん? そういえばそのようなことが……」


「その後に信長殿と洛中でお会いして、義藤さまの正体がバレぬよう、とっさに私の許嫁だと信長殿にウソをついたのであります。義藤さまは酔っ払ってしまいお忘れのようでありますが」


「わしは酒など呑んでおらぬ!」


「義藤さまは知らずに酒を呑んでしまったようで、お忘れになってしまわれたのです」


 呑んだのは()()だけどな。


「それに私は浮気など出来ない主義ですので」


「そ、そうなのか?」


「なので、私には許婚などはおりませぬ。……それで、ひつまぶしはご一緒に食べて頂けますか?」


「む、どうしてもというなら許さぬこともないぞ」


「はい。すぐに美濃にいかねばならず、またしばらく逢えなくなります。どうしてもご一緒に食べたくあります」


「そ、そうかならば許す――」


 なぜか顔を真っ赤にする我が主であった。


 ◆


 わけの分からぬ誤解は解けたようだが、信長のクソ野郎、余計な事を言いやがって。

 今度、我が(あるじ)に余計なことを言ったら、明智光秀じゃなくて俺が本能寺でブチ殺すことに今決めた。


「与一郎様、道三殿がお見えです」


「ああ、すまぬ。通してくれ」


 義藤さまのあらぬ誤解を解いてから急ぎ準備して、また美濃へやって来た。

 我らは織田信房(おだのぶふさ)殿から大垣城を接収して、大垣城では和睦の儀と織田・斎藤両家の婚姻の儀の準備などをしているところだ。

 とにかくやることが多くて忙しくて死ねる。


「おお、兵部殿。我が家の婚儀のために、また美濃までわざわざすまぬな。それと紹介させてくれ。儂の嫡男の新九郎利尚(としひさ)だ」


「斎藤新九郎利尚と申します。いつも父がお世話になっております。こたびは我が妹のためにご足労いただき感謝いたしまする」


 後年の斎藤義龍(さいとうよしたつ)であろう斎藤新九郎利尚殿と美人さんが挨拶してくる。


(最近は斎藤高政(たかまさ)の名乗りが有名ですが、高政の名乗りは道三を討ったあとの名乗りなのでそれまでは利尚だったりする)


「道三殿久方(ひさかた)ぶりであります。新九郎殿にはお初にお目にかかります。細川兵部大輔にございます。それと道三殿そちらの方は?」


「ああ、すまぬ。こたび信長殿に嫁ぐことになった儂の娘だ。利尚とは母が違い側室の娘ではあるがな」


 おお、信長の嫁さん美人だな。

 おそらく『帰蝶(きちょう)』とか『濃姫(のうひめ)』とか『鷺山殿(さぎやまどの)』とか呼ばれる人だよな。

 でもあれだな、斎藤義龍の母親が正室で濃姫の母親が側室なんだな。


************************************************************

深芳野(みよしの)』と『小見(おみ)(かた)


 斎藤道三の妻は一般的には、側室の『深芳野』と正室の『小見の方』が知られている。

(名前に関しては胡散臭いのだが、分かりやすいので使います)


 土岐頼芸(ときよりのり)の側室であった深芳野が斎藤道三に下げ渡されて、斎藤義龍を生んだなどというのは間違いなく江戸期の創作だと思われる。

 では斎藤義龍の母は誰なのだ? という問題が残る。


『深芳野』は一色義清(いっしきよしきよ)の娘ともいわれているが多少無理があると思われる。

 丹後(たんご)一色家第9代の一色義清の娘であれば丹後国守護の娘ということになるので側室はありえないだろう。

 また一色義清の時代には、一色家は三河や北伊勢、尾張知多郡(ちたぐん)などの権益をすでに失っており、一色家は丹後のみの勢力に没落している。

 美濃の土岐家と縁を結ぶのは少々難しいだろう。

(奉公衆の一色家もあるのでそちらなら可能性はある)


 一色義清は尾張知多郡分郡守護といわれる『一色(吉原)義遠(よしとお)』の孫ともいわれるがまったく確証はない。

 また、同名の人で一色家の第12代とされる『一色義清』もいたりして、一色家の系譜の混乱は酷いものなのである。

 丹後一色家の系譜は現在でも全く確定されていない有様だったりする。(歴史家の先生は早く頑張れ)


 また斎藤義龍の母は稲葉良通(いなばよしみち)(一鉄)の姉か妹という説がある。

 稲葉良通の生年は1515年で、義龍の生年は1527年なのでその差は12年であり、妹はありえなく姉であろう。


 そしてこの稲葉一鉄と姉の母までもが一色氏の出であるともいわれているのだ。

 正直言って、斎藤義龍が『一色』などを名乗ったため、その血筋を一色に繋げるため系譜にいろいろ作為を凝らしているとしか思えてならない。


 個人的な見解で確証などはないのだが、斎藤義龍の母は稲葉良通の姉であり、正室であったと考えている。

 稲葉良通は斎藤義龍の叔父という立場で、斎藤義龍を担ぎ上げ斎藤道三を追い出したい国人領主の中心勢力となったのではないだろうか。


 そもそも土岐家が一色氏の血筋というのも実は怪しいのである。

 守護代の斎藤利永(さいとうとしなが)が守護の土岐持益(ときもちます)と対立し、一色義遠の子ともされる土岐成頼(ときしげより)を担いで土岐家の当主に迎えたわけだが、土岐成頼の出自は土岐一族の饗庭元明(あえばもとあき)の子や佐良木光俊(さらきみつとし)の子という説もあったりする。

 どちらかというと同じ土岐一族の出自である方に説得力があるような気がしている。(まったくのヘンケンですが)


『小見の方』も名前については別にして、そういった女性がいたのは間違いがないだろう。

 兼見卿記などにも信長の『(しゅうと)』の記述があったりするためだ。

 斎藤義龍が嫡子の扱いをされており、道三の隠居により家督を継いでいる形跡があるため、やはり斎藤義龍の母が正室であったと考えるのが妥当であろう。


『小見の方』は明智光継(あけちみつつぐ)の娘で明智光安(あけちみつやす)の妹とされるが、光継や光安の二人については実在したという証拠が全くない。

 架空の人物だと断じる歴史家の先生もいたりするのだ。


 正室は家の家格によって決まることがほとんどであるが、『稲葉家』よりも『明智家』の方が家格が上だと断じることはできないので、正室は稲葉家出身の斎藤義龍の母であるとするのが無難だと考えている。

(明智家についてはまた別で解説します)

 ――謎の作家細川幽童著「どうでもよい戦国の知識」より

************************************************************


 義藤さまと別れて美濃くんだりまでやって来て、俺は義藤さまとイチャイチャすることも出来ないのに、なにが悲しくて他人の結婚の世話をせねばならないのだ?

 帰蝶さん美人だったし、なんかムカついて来たな……


「それで頼みがあるのだが、我が息子の願いを聞いては貰えないだろうか?」


 あれ? 斎藤道三と義龍の仲が良い感じだな、長良川(ながらがわ)の戦いはどこへいったのだ?


「道三殿とその嫡男である新九郎殿の頼みとあらば、むろんお聞きしますが」


「兵部大補殿、何卒それがしにも公方様へ拝謁する機会をお与えいただきたくお願い奉る」


「すまぬ。婿となる織田弾正大忠(だんじょうたいちゅう)殿(信長)が先日上洛して、公方様に拝謁したことを聞いてな。新九郎は婿殿には負けたくないようなのだ」


 信長が上洛の上、公方様に拝謁し、官位まで受領したわけだから焦っているのであろう。


「はあ。では公方様に相談いたします。婚儀ののちに帰洛しますので、私とご一緒に上洛する形で手配いたしましょう」


「ありがたい。私も斎藤家の男として立派に上洛してみせましょうぞ」


 織田信長に嫉妬する斎藤義龍とか別に萌えたりはしないぞ。


「道三殿、それで任官の義は美濃守護代に相応(ふさわ)しき左衛門大尉(さえもんだいじょう)の官位でよろしかったですかな?」


(左衛門大尉は従六位下相当で官位としては低いが、守護代斎藤惣領家(そうりょうけ)がはじめに名乗った官位になる)


「相変わらず話しが早い、さすがだな。それで頼む」


 斎藤道三は家格を上げるため、幕府を、俺を利用する気になってくれているようだ。

 利害が一致している間は協力できるであろう、悪くないことだ。


「官位受領のためには幕府や公家に、また進物などが必要になりますがよろしいですかな」


「用意させよう。利尚の上洛の折に持たせる」


 とそこで源三郎から声を掛けられた。


「与一郎様、織田家の平手様がお見えでございます」


「斎藤家と挨拶中ゆえ、すまんが待って貰えるよう伝えてくれるか?」


「はっ」


弾正忠(だんじょうのちゅう)家の平手殿がお見えであるのか?」


「平手殿はこの和睦の儀と婚儀につきまして助力を頂く話しになっておりまする」


「ああ、さすがは弾正忠家の知恵袋だな。手回しが良い。相分かった。斎藤家からも誰ぞ手伝いに来させよう。若い者の方が使い勝手が良さそうだな。あとでその方の元へ参らせるゆえ好きに使ってくれ」


「私もいろいろ手が足りないのでそれは助かります」


「では兵部殿、婚儀の席でまた」


「兵部大輔殿、上洛の件よろしくお頼み申す」


 織田信長に続き、斎藤義龍(利尚)までもが上洛して公方様に拝謁を願うとは良い流れだな。

 公方様に忠誠を誓うものは厚く遇されるところを示して行きたいものだ。


 いかん、平手殿を待たせておったのだ。

 尾張の招待者の件で打ち合わせをせねばならないのだった。


 ◆

【固形石鹸をつくろう(2)に続く】

次回予告で明智光秀と言ったが、あれは嘘だ!

大変すいません、明智光秀の話しまで持っていけませんでした

話しが長くなり過ぎ病が再発しております


後編は早いうちに投稿できると思います

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あとなぜか分からないけど勧誘されたので、とあるところで転載するかも

しれません

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[一言] 公方様、なんだかんだでちょろいよねw
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