表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/208

第三十五話 そうだ美濃へ行こう(1)

 天文十七年(1548年)2月


「これなるは我が従兄弟にて、吉田神祇権大副(じんぎごんのたいふ)兼右(かねみぎ)殿が嫡子、吉田兼見殿にございます。公方様におかれましてはすでに存じ上げてはおりましょうが改めてお引き立ての程よろしくお願い奉ります」


 吉田兼見くんを連れて、公方様の神道及び国学の先生として推薦するため東求堂に赴いたのであるが、そういえば挨拶をしていなかったことに気づき、謁見の儀を即席でやっているわけだ。


(みなもとの)左近中将(さこんのちゅうじょう)義藤(よしふじ)である。面を上げるがよい」


 型どおりの謁見であったが、義藤さまが笑顔で語りかけた。


「できれば楽にして欲しい、ここはわしの私室じゃ。堅苦しくする必要はあるまい。藤孝の従兄弟なら身内も同然じゃ、直答でよいではないか」


「公方様もこう仰せだ、お答えするがよかろう」


「ははっ。吉田兼見であります。公方様におかれましてはご健勝のよし、お喜び申し上げます」


「遠慮はいらぬ。兼見殿とは吉田社の猿楽興行のおりにすでにお会いしているではないか。なによりすべて藤孝が悪いのだぞ。従兄弟殿なのじゃから、もそっと早く連れてくるべきであろうに」


 どちらかというと、蕎麦屋とか鰻屋で先に()()()()()()()として出会っているのだが、それは忘れておいたほうがよいことだろう。


「たしかに私の落ち度でありました。申し訳ありませぬ」


「それで兼見殿がわしに神道を教えてくれるのであるか?」


「はっ。我が父吉田兼右が大御所様に神道の奥義を伝授しております縁もござりますれば、不肖の身ではありますが、我が吉田家の神道の奥義を公方様にも講義させて頂きたく願います」


「藤孝、兼見殿はわしの先生になってくれるのであろう? その先生がこんなに堅いと勉学もままならぬ。なんとかせい」


「そうですな。まず食事にでもいたしましょう。こんなこともあろうかとすでに用意はございます」


「うん、それがよいな。はやく美味しいものを持ってまいるがよい」


 麦飯にとろろ汁、魚の粕漬けに沢庵漬けと粕汁(かすじる)というメニューをすでに用意しておいた。

 はじめから公方様と兼見くんとの三人で食事をするつもりだったのである。

 美味しいものを一緒に食べれば打ち解けるのも早いからな。


「ほう。この味噌汁はなかなかコクがあって美味いではないか」


「それは粕汁と申します。この前の甘酒と同じく酒粕が入っておりますので体が温まると思い用意いたしました。義藤さまに気に入っていただければ嬉しくありますな」


 粕汁がいつ頃から食されていたのかは分かっていないが、酒造りが行われていた奈良あたりでは、粕漬けである奈良漬がすでにあり、粕汁もこの時代に普通に食べられていたと思われる。

 ちなみに俺は汁物系では粕汁が一番好きだったりする。


「今日も甘酒の用意はあるのか? あれも美味かったのでまた飲みたいぞ」


「ご安心下さい、甘酒も用意できます。ですがこれから講義ですので今はお控えいただきますぞ」


「むう……残念じゃ」


 どうやら甘酒で酔っ払ったことは忘れておいでのようだ。

 アレを公方様が覚えていたら俺の危険がウォーキングする。

 それに義藤さまの酔っ払っている姿など誰にも見せたくない。


「公方様と与一郎はいつもこのように食事をされておいでなのでありますか?」


「ん? 藤孝が食膳を用意してくれる時はいつもこんな感じであるな。あとは元政や新二郎とも一緒に食することも多い。わしはできれば食事は楽しくありたいと思っている。これからは兼見殿とも一緒に食べる機会があると思うと嬉しくなるぞ」


「こ、これはありがたき幸せ」


 兼見くんはフランクな公方様に驚いている。

 兼見は俺の一つ下であり、公方様の一つ上の年齢となる。

 ほぼ同世代であるので、できれば公方様に友人のように接して欲しいと思っている。

 兼見くんはこれでなかなか頼れる男なのだ。

 後年、あの織田信長も明智光秀も相談に来るぐらいだからな。

 俺の従兄弟で信頼はできるし、公家として宗教家として教養も申し分ない。

 公方様のブレーンとするにはうってつけの人物である。


 食事のあとはお互い打ち解けて、楽しげに神道の講義をすることができた。

 神道というか本日は国学の勉強だな。

 日本書紀の講釈がメインであった。

 足利義輝は若干朝廷への崇敬(すうけい)の念が薄いと思われるので、日本の成り立ちからしっかりと勉強してもらいましょう。

 朝廷あってこその幕府であることを理解して頂きたいのだ。


 それに公方様が神道に興味を持つことについては、俺と吉田家の利害が完全に一致している。

 吉田兼右叔父にも清原業賢伯父にも、この兼見の公方様の教育係としての推薦では頭を下げられお願いされている。

 兼見の講義が成功すれば、次は清原家から法律の講義や書道の師を出すことで内々に話し合っているようだ。

 ようするに俺と公方様との仲のよさを狙われているわけだな。

 ……まあ身内なら安心できるからいいけどさ。


「義藤さま講義でお疲れでありましょう、もみじ饅頭をどうぞ」


 マジメに日本書紀の勉強をしてお疲れの義藤さまに甘いものをお出しする。


「藤孝、気がきくではないか。うむ、あいかわらず甘くて美味い♪」


「義藤さま、おやつを食べながらで結構ですので少しよろしいでしょうか? 兼見殿から義藤さまに献上品があるよしとのこと、説明をさせてもよろしいでしょうか?」


「ほう。兼見殿がわしに献上品とな、それは嬉しい限りである。それでどういったものであるのじゃ?」


「はっ。公方様には我が吉田家の奥義にて清めましたこの神棚を献上させて頂きたく存じます」


「それは神棚というものであるのか?」


「はっ。この神棚と申すものは――」


 吉田兼見が神棚について公方様に説明をしている。

 基本的には俺が兼見に話をしたことと変わりはない。

 変わったことといえば源氏の祭祀(さいし)(つかさど)岩清水(いわしみず)八幡宮(はちまんぐう)や、平野神社、伏見稲荷大社、松尾大社など山城国の有力神社も巻き込んだ上で、吉田神社が代表して将軍家へ献上する形に持っていったことである。


 やはり吉田兼右叔父は金儲けとなると動きがとんでもなく早い。

 神棚を流行らせようと、この数日で近隣の有力神社と連絡をとりあっていた。

 すでにいくつかの神社と結託している。

 発案者ということで神棚の利権にもちろん俺もがっつり絡んでいる。

 武家への神棚の普及については俺に利益が入る形にしている。


 とりあえず公方様は神棚を気に入ってくれたようだ。

 東求堂は本来持仏堂(じぶつどう)なのだが、そこに神棚をおいて良いのかは気にしてはいけない。

 神仏習合の時代だからよしとしよう。

 国宝だろうがおかまいなしに壁に釘を打って神棚用の棚板を取り付ける。


二礼二拍手(にれいにはくしゅ)一礼(いちれい)」の作法にて、三人で神棚に拝礼(はいれい)する。

 中々気の引き締まる所作(しょさ)で俺は好きなのだが、実はこの「二礼二拍手一礼」も案外歴史は浅い。

 昭和あたりでだいたい決まったとかいう話もあったりする。

 拝礼の作法について議論するのもめんどくさいので神棚の拝礼作法は「二礼二拍手一礼」でいくと俺が兼右叔父達を押し切った。


 これから徐々に神棚普及活動を行い、神社勢力と公方様とがお互いを支持するように持っていこうというのだ。

 なるべく作法は分かりやすいほうがよいからな。


 ちなみに吉田神社と平野神社(ひらのじんじゃ)は親戚なのに対立していたのだが、神棚での金儲けを口実に平野神社の子である奉公衆の千秋晴季(せんしゅうはるすえ)殿と結託して両神社を仲直りさせた。

 金持ち喧嘩せずのとおり、金になれば対立などしなくなるものだ。

 この時代の神社も荘園を押領され経営は苦しい。

 この際だ神棚と金の力で神道界をまとめてしまうのもよかろう。


 神学のお勉強と神棚の献上も無事に終わったので吉田兼見は喜んで帰っていった。

 これから神棚献上の首尾を叔父上たちに報告して、神棚普及活動の展開方法でも検討するのだろう。

 神社同士の連携はとりあえず叔父上や祖父に任せておいてよいな。

 まあ何はともあれ、公方様も吉田兼見の講釈も神棚も気に入ってくれて良かった。

 

 ◆

 

 義藤さまも機嫌が良さそうなのでこれはチャンスかな?

 俺からのプレゼントも渡しておこう。


「義藤さま、実は私からも献上品がございます。これを是非試して欲しいのです」


「藤孝からも献上品があるのか。それで何をくれるのだ? 美味しい物か?」


「いえ、本日は食べ物ではありません。これは夜着に変わるものでして、羽根布団と申します。まだ寒い時節ですので、これで寝ていただければ暖かく、義藤さまがすこやかにお休みができるかと思い作ってみました」


 いそいそと布団を用意するのである。

 義藤さまに横になってもらい羽根布団を掛ける。


「うん、暖かいな……これは良い物を貰った。わしのために藤孝が作ってくれたのか?」


「はい。喜んで頂けていただけたようでなによりです。それがしも作った甲斐がありました」


 やはり、義藤さまには白い羽根布団がよくお似合いだ。

 これにシャネルの5番でもあれば、マリリンモンローもぶっ飛ばせる可憐さがある。


「すまんな藤孝。お主はいつもわしのことを考えて、色々なことをしてくれるのじゃな……」


 ちょちょちょ、ちょっとマテ。なぜにそこで義藤さまが(ほう)を染めるのだ。

 あれ? 予想以上に義藤さまに喜ばれているぞ。

 美女には白い布団が似合うとかいう(よこしま)な気持ちでプレゼントしたので心が痛むのだが。


「いつもすまんな。藤孝に感謝を……」


「もったいないお言葉です。私は義藤さまが笑顔でいてくれればそれで……」


 義藤さまの顔を見ていたら言葉に詰まってしまった。

 な、なんだ。

 この桃色的な雰囲気は?

 それに布団をかわいく掴んで顔の半分を出して赤くなるとか、それはあまりにも可愛過ぎるだろ。

 状況的には密室で二人で見詰め合う形でもあるのだ。

 誰だ義藤さまに布団なんて用意したのは。

 ラブリー過ぎて危険が危ないぞ。(用意したのは自分だしもはや意味不明)


 どどどど、どうする俺?


(A)まだ慌てるような時間じゃない。ここは紳士的にいこう。


(B)義藤ちゃんに恋はまだ早い。R15的な展開で我慢しよう。


(C)燃え上がれ俺の大宇宙(コスモ)。迷うなここは一気に18禁だ。


 ◆

【そうだ美濃へ行こう(2)につづく】

引越しはとりあえず終わった。まだやること多いけど


あいかわらずいろいろ忙しい中で書いてるので

下の勝手にランキングのクリック、ブックマーク、評価、感想などで

励まししてくれるとやる気がでます


特に下にある「小説家になろう勝手にランキング」はクリックして

リンク先に飛ぶだけで済むのでよろしくです。安全ですのでご心配なく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでくれてありがとう
下を押してくれると作者が喜びます
小説家になろう 勝手にランキング

アルファポリスにも外部登録しました
cont_access.php?citi_cont_id=274341785&s
ネット小説速報
― 新着の感想 ―
[良い点] 現代知識チート系が好きなのでおじさんたちと色々やってる話がとても面白いです ハーレム系が苦手なので主人公が妄想位で止まってるのもいいですね
[一言] ・冷えは…ゴニョゴニョの…大敵ですから。 ・まだ国宝でもなんでもないので釘跡なんて気にしない。 あるいは「義藤公が初めて神棚を設えた跡」と残しておくとか。 ・欲が絡めば二人三脚だって出来るは…
[良い点] 更新ありがとうございます [一言] この合法ロリ、与一郎を掌で転がしておるな? この年齢で魔性の女か‥
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ