第二十九話 斎藤利三(1)
天文十六年(1547年)9月
追加募集した新兵50人を率いて小石出村へと向かう。
新兵に加えてスカウトした指揮官級の武将も連れて来ている。
馬廻りとして直接雇用した「斎藤内蔵助利三」だ。
明智五宿老の一人として名前だけはまあまあ有名だと思う。
この斎藤利三は、美濃守護代斎藤氏の分家で奉公衆の斎藤伊豆守利賢の次男である。
利三の兄である石谷頼辰は同じ奉公衆の石谷光政の養子になっており、本来であれば利三が斎藤利賢の跡継ぎになるはずなのだが、そこにいろいろ複雑な事情があったりする。
政所執事代としてこの当時まだ権勢があった蜷川親世が自分の子である斎藤親三を斎藤家に養子として送り込んだのである。
斎藤家と蜷川家は縁戚でもあった。
斎藤利三は家を継げなくなったと思われ、この後、三好配下の松山重治(新助)に短期間仕えたり、美濃に戻り斎藤義龍に仕えることになったりする。(いろんな説があります)
その後、西美濃三人衆の一人である稲葉一鉄(良通)に仕えるが、一鉄と揉めて明智光秀の配下となる。
光秀のもとでやっと落ち着いて、明智五宿老といわれるぐらい活躍するようになる。
だが本能寺の変の黒幕説もあったりして問題児のようにも思えるのだ。
まあ能力はあるから我慢しよう。(贅沢です)
そんなわけで、香道を習いながらも各種コネを使って斎藤利三を引っ張って来た。
各種コネその1は斎藤利三の親戚(実兄の義父)の石谷光政である。
光政は走衆として将軍宣下の儀で頑張り過ぎて借金に苦しんでいたので、喜んで低金利で銭を融資してあげた。
「オトモダチ」になったので親戚として俺を推薦して貰った。
各種コネその2は政所執事代の蜷川親世である。
幕府の政所関係のワイロは全てこの男を経由して政所に渡している。
本人にも「吉田の神酒」を角倉吉田家から毎月送ってもらっている。
もうすでにワイロと酒でとろとろに仕込んであり「オトモダチ」なのである。
自分の子の斎藤親三を養子として斎藤家に送り込んでいるので、蜷川家としても斎藤利三が邪魔だったりする。
利害関係の一致から裏でがっちり結託し、政所執事代として俺を推薦して貰い、斎藤利三の追い出しを後押しさせた。
そして実の親である斎藤伊豆守にも、是非息子をスカウトしたいと高額の支度金をほのめかし、とどめにコネ3をぶつけた。
「もみじ饅頭」で買収してゲットした「将軍直筆の推薦状」を送りつけたのである。
実の親は喜んで息子の斎藤利三を俺に売り渡した。
ちょろいもんである。
斎藤利三は13歳で元服したばかりなのだが、利三を受け取ったからにはちゃんと世話はした。
政所執事代の蜷川親世を烏帽子親に全額俺の負担で盛大に元服式をやってあげた。
馬も良いのを買ってあげた。
『琵琶早秀』という菊花賞をとりそうな名馬である。
そして淡路細川家で俺の馬廻りとして取り立てた。
出自の怪しい松山新助に仕えるよりはよっぽど良いと思うのだがどうだろう?
裏でいろいろ汚いことをやっているのだが、まだ若い斎藤利三君は居場所のなくなった自分を拾い上げてくれて、盛大な元服式までやってくれた恩人だと俺のことを何故だか勘違いしている。
愛馬の成田無頼庵にまたがる俺の横に、琵琶早秀で連れ添って騎乗して俺に尊敬の眼差しを向けてくる。
「小石出村というところはどういったところですか? 米田様にも早くお会いしたいものです」……少し心が痛いが気にしないでおこう。
優秀な武将は必要なのである。
問題児に育たないように餓鬼のうちからしっかりと『教育』をしなければならないな。
まあ洗脳ともいうかもしれんが。
◆
洛中でいろいろなものを買ったり作ったりして新兵に運ばせて来ている。
後ろで荷物を担いでいる新兵が、文句をたらたら言っているが後で『地獄』を見せてやろう。
古知谷に入るところで米田鬼軍曹の叱咤激励と我が愛すべき郎党たちの訓練の声が聞こえてきた。
「こいつはどえらい工事だぞー!」
「コイツハどえらい工事ダゾー!」×60ぐらい
「かーちゃんたちには内緒だぞー!」
「カーチャンたちには内緒ダゾー!」×60ぐらい
「掘れる掘れる! 掘れる掘れる!」
「掘れる掘れる! 掘レル掘レル!」×60ぐらい
「もっと気合を入れて掘らんかこのクソうじ虫どもがー!」
「サーイエッサー!」×60ぐらい
「俺達の商売はなんだー!」
「工兵! 工兵! 工兵!」×60ぐらい
「声がちいさぞぉ! このウジ虫どもがぁ!」
「サーイエッサー!」×60ぐらい
「そんなことでは今日もお主らは飯抜きだ!」
「そ、そんなぁ」郎党の一人が弱音をはいた。
「そんな返事は教えておらんぞ! このクソ虫が!」
「サーイエッサー!」
飯抜きだと? いかん、やり過ぎている感じだ。
飯抜きはダメだ。
これは米田軍曹の暴走を止めねばならない。
愛馬を走らせ急ぎ米田求政の所へ行く。
「求政! ごくろうである」
「おお、これは与一郎様。お久しぶりでございます」
「せっかくの訓練中だがすまぬ。新兵を新たに連れて来た。新兵に食事を与えたいのだが、こいつらも一緒に食事を与えてくれ。まずは食事をともにして親睦をはかるのも良いだろう」
健康で頑強な肉体には十分な食事が必要である。
精神を鍛えるには、どちらかというと無理やり食わすぐらいがの方が良い。
きつい訓練を行い吐いても食わせるのだ。
「喜べお主らぁ、御屋形様が食事の許可を与えてくれたぞお! 2日ぶりの飯だぁ。しっかり味わって食うがよい!」
「サーイエッサー!」×60
俺はまだ当主ではない。
それに淡路細川家は御屋形の家格ではないのだが、めんどうくさいので訂正はしなかった。
斎藤利三は新たに連れて来た郎党とともに米田求政に少し戸惑っているようだな。
現代の英語のような訓練は、調練方法の独自化のためである。
我が軍の訓練方法が流出しないため、我が軍の軍法を秘匿するためのものである。
まあそのうち嫌でも覚えることになるからほっとこう。
鬼軍曹にシゴキまくられた、可哀想な我が郎党たちと新たに加わった新兵のために小石出村の領民たちが食事を作ってくれた。
だが、ここでひと悶着があった。
新兵の一人が飯に文句を付け出したのだ。
「このうどんは出来損ないだ。食べられないよ」
「このコメツキ虫があ、父ちゃんの『ピー』の残りカスの分際で、何を偉そうにほざくかぁ!」
米田求政が飯に文句をいう新兵にブチ切れるが、頑張って自慢の筋肉で抑えて、鬼軍曹に代わって俺がその郎党に聞いてみる。
「お主はそのうどんより美味いものが打てるというのか?」
「ええ、こんなコシのないうどんではなく、本物の究極のうどんってヤツを作ってみせましょう」何だか良く分からないが凄い自信だ。
「わかった。お主がうどんを打ってみせよ」まあ、やらせてみても面白いかもしれないな。
「ええ、おまかせあれ」
そしてこの新兵の山岡(究極の料理を作りそうだが仮名です)が打ったうどんも、振舞わせたのだが、コシがしっかりとあって確かに美味かった。
そして俺は求政と相談して、この山岡(だから仮名です)を料理担当とすることに決めた。
工兵隊から離隊させ、ヒマを見て俺の手で蕎麦や鰻重、てんぷらなどを教えこむのである。
俺がいない間も郎党たちには美味いものを食わせてあげたいからな。
まあ、肉体強化のためでもあるのだが。
◆
【斎藤利三(2)へ続く】
有名武将の登場である。えっへん。え?微妙にマイナーですって?
もっと有名武将を出せって? まだみんな若いから出れないのだぁー
作中の時代が地味すぎたぁー
ブックマーク、評価、感想、レビュー、下の勝手にランキングのクリックなどで
もっと有名武将を出せという方は作者に励ましをお願いします。時空を捻じ曲げて
誰か連れてきます。(無茶です)




