第二十六話 代官職購入(2)
◆
叡山の政所にも幕府の政所にもコネと賄賂で話を通して、代官職と土地の権利をしっかり固めた。
馬も米田殿と一緒に下京五条室町はずれの馬市に買いに行った。
この時代の馬は「一種のステータスだ! 希少価値だ!」
高級外車みたいなものでクソ高いのである。
米田殿には騎馬の武者になれたことに感激して、涙を流さんばかりに感謝された。
だが馬市の帰りで、米田殿と呼ぶことを怒られた。
「与一郎様、それがしのことは源三郎か求政と呼び捨てになさるように」
「あ、はい」カッポカッポ馬で帰りながら怒られる。
「あ、はいではありませぬ! それでは威厳というものがありませぬぞ!」
「わ、わかった。源三郎これからよろしく頼むぞ」
「かしこまりましてござります」
うーん、完全に傅役になりきって教育係のお兄さんになってしまったぞ。
まあ米田求政は俺より8歳上だから今22歳くらいか、こんな関係で良いのかもしれない。
能力は間違いなくある男だし頼りにしていこう。
さて、あとは郎党を新規に雇って、行動あるのみだ。
淡路細川家の名で郎党の新規召し抱えの募集を出し、各種コネルートから身元のはっきりした人を推薦してもらった。
50人の予定だったのだが、思ったよりも募集に人が集まり、絞って60人を召し抱えた。
農民希望者には土地を与え、武士を希望する者や腕の立つものはいずれ足軽になってもらおう。
最初は開発を手伝ってもらいながら銭で扶持を与える。
いずれは完全に兵農分離を目指していきたい。
60人の新規召し抱えの郎党に衣服や装備をあたえて急造の部隊をつくる。
銭ならあるからな、新領入りで村人に馬鹿にされないようにするためにも、郎党の忠誠心を得るためにもなるべく良いものを買った。
とりあえず部隊の指揮は米田殿と中村新助にお任せである。
俺の戦闘力が「63」に上がった。
20倍にパワーアップしたのだが強くなった気がしないのは何故だ? ……げせぬ。
京の大原口から若狭街道を通って、田中一乗寺と高野を通り八瀬へと向かう。
道中では田中の渡辺出雲守殿の屋敷、高野の佐竹蓮養坊殿の城に立ち寄り出迎えてもらう。
一種のパフォーマンスであるのだが、水や食料を提供して貰いつつ、郎党に俺の影響力を見せ付けるのである。
国人領主に頭を下げさせ、俺のことを何も知らない淡路細川家の金持ちのボンボンという感じで見ていた郎党達の態度が変わった。
佐竹蓮養坊殿は事前に依頼済みであったが、叡山の梶井門跡の政所まで案内をしてもらう。
俺が買ったのは叡山の荘園の代官の職なのである。
荘園領主である叡山には気を使う必要がある。
幕府奉行人奉書も出ている正式な代官であるので問題はないのだが、気を使って損なことはない。
ちなみに現在の梶井門跡は応胤法親王で伏見宮貞敦親王の王子であり、天台座主でもあるので名目上の比叡山延暦寺のトップである。
こちらには清原家から手を廻しており、宮家と本人に付け届けと「吉田の神酒」はすでに送ってある。
応胤法親王という頭は抑えているが、下が騒ぐと面倒なので坊官にも挨拶には行く。
行くのは俺ではなく、佐竹蓮養坊殿と家臣の米田求政である。
佐竹蓮養坊殿の城を出発して八瀬へと向かう。
八瀬には三淵晴員の姉であり大御所に女房(乳母)として仕えた佐子局、今は落飾して清光院と名乗る伯母が居る。
伯母の所へも挨拶をして行く。
まあ普段から大御所に呼ばれて慈照寺にも顔を良く出す伯母なので実は何度も会っている。
今日は軽い挨拶程度だ。
八瀬を抜ければ大原である。
八瀬や大原はいざと言う時の退路になるので、地形を頭に叩き込んでおく。
またその際に落ち武者狩りに遭わない様に村の庄屋のところにも求政や中村新助に顔を出させて、土産物を渡しながら通過する。
日頃の付き合いも大事なのである。
洛北大原盆地の奥にある大原(梶井門跡)の政所に立ち寄り、手土産を持たせて佐竹蓮養坊殿と家臣の米田求政を送り出す。
大原政所への挨拶を済ませ、佐竹殿に礼を言って別れる。
そして向かうこの先が古知谷である。
高野川沿いの谷間であり人家はほぼない。
ここは開墾して農民希望の者に土地を与え、いざという時のために砦を作る予定である。
(参考までに現代での古知谷 阿弥陀寺という所に砦を構える予定)
そして、山城の国と近江の国の境である小出石村に到着する。
新領主である俺に最初は警戒していた村人だったが、持ってこられるだけ持ってきた「吉田の神酒」と「もみじ饅頭」の力を使って、全速力で全村民を買収した。
前領主(代官)のことなど誰も覚えていないだろう。
ちょろいものである。
連れてきた60人は一旦既存の村民の家に分宿して貰う。
俺と米田求政と中村新助は庄屋の家に泊まる。
明日には吉田神社のコネで声をかけまくった大量の宮大工集団が来る手筈になっているので、屋敷と郎党のための長屋なども建てていく。
もちろん郎党たちにも手伝わせる。
さくっと建ててしまいましょう。
屋敷は少し日数が掛かるが長屋はさくっと建てた。
どこかの猿の墨俣一夜城ではないが、同じ構造で同じ材料なのであらかじめ木材を加工してから運んでいる。
簡単に建てられる室町版プレハブ小屋みたいなモノである。
郎党60人の次なる仕事は砦作りのため古知谷の山の道の切り開きである。
郎党には完成後のボーナスを約束し、道の切り開きを行う。
木を伐採し階段を造っていく。
まだ石段は厳しいので木材と丸太での階段で我慢する。
慣れない作業に悲鳴をあげる郎党もいるがコレは訓練の一環でもあるのだ。
ただの郎党に興味はありません。
この中に工兵の素質があるものが居たら階級を上げて小物頭、中間頭に取り立てましょう。
俺が作りたい部隊の一つに土木建築などの技術に特化した工兵部隊があるのだ。
京の鋳物師に依頼して作った斧に鋸、スコップ(シャベル)も大量に運び込んでいる。
究極的にはスコップで殺戮できる強兵集団が欲しいものである。
山間部ののどかな景色に、郎党を指揮する米田求政の声が響き渡っている。
「このクズどもが! 何をちんたらやっておるか! お主らは最低のウジ虫である! イナゴか! バッタか! コメツキ虫である! いいか、それがしの快楽はお主らクズ共の苦しむ顔を見ることであるぞ! いつまでもそれがしを楽しませていないで、もう少し気合というものを見せるがよいぞ!」
「へ、へい……」郎党が弱々しげな返事を返す。
「なんであるか、その気の抜けた返事は! 返事は先ほど与一郎様が教えたであろうが!」
求政が手近にいた郎党の加藤(仮名)のケツを蹴り上げ、スコップを振り上げ威嚇する。
「ガンホー! ガンホー! ガンホー!」×60人
郎党どもに多少気合が入ったようである、だが求政は許さない。
「そのジジイの『ピー』のようなへっぴり腰はなんであるか! もっと気合をいれんかぁ! この場で『ピー』をおっ立てるぐらいの気合を入れてみろお!」
しかし郎党の高木(仮名)が大きな腹を出して倒れこむ。
俺はやさしく微笑んでその高木(仮名)に声をかけるのだ。
「またお主か。お主の根性はそんなものか。さっさと吉田村の実家に帰るが良かろう。帰ってお主のお気に入りの白拍子(遊女)の松浦綾(仮名です)の春画でも見ながら「ピー」でもしているが良い。もっとも、お主のような腰抜けがお気に入りの松浦綾(だから仮名です)などという白拍子は、どうしようもない淫乱女であろうがのう。良かろう。その白拍子をわしが買って側室にでもしてくれよう。お主はそれを指を咥えてただ見ているが良い。腰抜けのお主にはさぞやお似合いであろう」
「こ、このクソ野郎ぉ!」高木(仮名)がその巨体で俺に襲いかかってくる。
だが、俺は史実で牛をぶっ飛ばした怪力の男「細川藤孝」である。
その恵まれた体のポテンシャルを生かして高木ブー(仮名)を軽々と持ち抱えブタ肉バスターをかましてやるのである。
俺の怪力に恐れをなした郎党どもに恐怖が走り、気合を入れ直して全速力で木をなぎ倒していく。
俺にブタ肉バスターをかまされた高木(仮名)は長身の唇に特徴のある碇矢(仮名)という郎党に助けられ作業に戻っていく。
なかなか面倒見のいい男だ。
あの碇矢(仮名です)という男は小物頭に取り立て、求政の手伝いをさせることにした。
高木(仮名)は吉田村の庄屋の三男坊で、吉田兼右叔父に頼むから鍛え直してくれと言われて連れてきた、わけ有りである。
そして米田求政に鍛えられ、砦予定地やそこまでの道を切り開いた郎党達はいっぱしの工兵へと変貌を遂げていたのである。
特に碇矢、加藤、中本、志村、ついでに高木(8時ごろに全員集合しそうですが全員仮名です)の五人組は中々良い働きをするようになった。
この五人組は米田求政の供回りに任命したのである。
われらが工兵の次なる仕事は古知谷の開墾と若狭街道の難所である途中越(峠)の整備である。
まだまだやることは多いが、求政に指示を出したところで俺は一度吉田神社に戻るのであった――
後書きのジブリキャッチコピーネタははずした感が満載でした。
すいません謝罪します。
大分ぶっ飛び出しますがこんな感じでいいのかな?
話の前半は説明、後半ぶっ飛びで起承転結を一話の中に。
一話丸まる説明回は避ける。こんな感じでいこうと思ってます。
米田殿はとある細川家の中間であった、明智十兵衛光秀という方を
いじめたという話を聞いたことがあったので、こんな感じになりました。
米田殿のアメリカ海兵隊式訓練を受けたい方はガンホー!と
ブックマーク、評価、感想、レビュー、下の勝手にランキングのクリックなどで
米田殿を励ましてください。




