第二十四話 銀閣寺よ私は還ってきたー(3)
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史実では北白川城を焼いて、坂本に落ち延びた公方様と大御所様が京への帰還を果たすのは、およそ1年先のことになる。
坂本で無為な時間を過ごすことなく、この京で1年早く活動する機会を得ることはできた。
新たに得たこの1年間を有効に使い来るべき時に備えねばならない。
もうすでに恐ろしい敵の足音がすぐそばまで迫っているのだ。
この4ヶ月弱の篭城で俺になにが出来たというのだ?
坂本へ落ち延びることなく1年早く京に落ち着くことは確かにできた。
だが考えてみれば口だけしか使っておらず、手柄も伊勢っちに取られているではないか。
しかも戦力としては無に等しかったぞ。
俺はこの篭城で一兵卒も率いることが出来ていないのだ。
銭は着実に増やすことは出来ている。
だがさらに銭を増やして早期に自分自身で率いることができる戦力を、兵を揃えることを考えねばならないだろう。
まずは地盤が欲しい。俺が拠って立つ地盤を手に入れなければならない。
いつまでも淡路細川家の養子で次期当主じゃなにもできん。
銭で兵を雇い入れることはできるだろう。
だが、俺に兵の指揮など出来るのか? 公方様の兵法指南などという役柄を務めてはいたが、それは現代で孫子や三略の解説書を読んだだけの生兵法でしかない。
今の俺が兵を雇い入れ小なりとはいえ軍を率いたとしよう。
そして戦にのぞむとする。
その結果は街亭の戦いにおける馬謖よりも酷いものになるのではないか? 馬謖に忠告し敗戦の中奮戦してくれた王平すら俺にはいないのだ。
領主となり兵を率いる訓練をしなければならない。
出来れば優秀な補佐役も欲しい。
俺はまだ14歳の若造でしかないのだ。
金で兵を雇ったとしても誰が現代の感覚では中学生になったばかりである俺の指揮を喜んで聞くというのだ?
金で雇った兵は累代の忠臣ではないのだ、どこかの殿様の初陣のようなわけにはいかないのである。
美味しいものを早く作れという公方様の頼みで、食材を調達するため慈照寺から吉田神社に向かって急ぎ歩くはめになった俺は、その道程で思案の袋小路に迷い込んでしまったのである……
吉田神社で久しぶりに逢ったオジーズ(清原業賢・吉田兼右)や吉田兼見くん、それに饅頭屋宗二殿、角倉吉田六佐衛門さんに牧庵叔父、皆が無事の再会を喜んでくれた。蕎麦屋も鰻屋も相変わらず繁盛していた。
ごめんよ、義藤さま……まだ僕には帰れる所があるのだ。
こんなに嬉しいことはない。
とか言って白い悪魔ごっこをしながら誤魔化したいところではあるのだが、蕎麦や鰻重、もみじ饅頭などを揃えて、急ぎ慈照寺へとって返さなければならない俺である。
食いしん坊将軍に久しぶりのご馳走を振舞わねばならない。
考えることは山ほどあるのだが、我が主の胃袋を満たして、まずはその笑顔で元気を貰おう。
義藤さまの笑顔を見ることが今の俺の特効薬かもしれないからな……
――スーパー野菜人化した三好家を押さえ込める勢力や元気が出る玉の作り方をご存知の方は、至急東求堂あたりまでご連絡下さい。
このままでは畿内が三好家の独壇場になってしまいます。
一応主人公っぽい細川藤孝という人が困ってしまいますので、連絡よろしくお願いします。
できれば四兄弟が揃う前にお願いします。
間に合わなくなっても知らんぞーっ!(もう手遅れだと思うが)
現在の戦闘力。三好長慶「1万3千ぐらい」vs細川藤孝「2」(本人と中村新助だけ)……バンゲリングベイより酷くね? まさに無理ゲーではないか――
短くてすいません。




