第二十二話 山城金融道(3)
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――ガーン、ちょうショックー。
顔も見たくないまで言われてもーた……落ち込みながら部屋を出て、外で突っ立っている新二郎に聞いてみる。
「なあ、心の友よ。俺の顔って酷いかね?」
「ん? 気にするなだろ。俺の顔に比べれば誰だって酷いものだろ」
「うん、お前に聞いた俺がバカだった……」
「何かあったのか?」珍しく新二郎がマジメな顔をして聞いてきた。
「いや、今のお主の顔は余りみたくないと義藤さまに言われてな」
「うん。それこそ気にするなだろ。我らが主は『今のお主の顔』といったのだろ? お主が顔でも洗ってくれば済むことだろ」
「あ……」
「もっともぉ、お主の醜いアホな顔が洗ったぐらいでよくなるとは思わないだろー。もう少し俺のように美男子に生まれてくれば良かっただろー」
「ありがとよ、心の友よ」ドガッ!
親友の尻に蹴りを入れて、水場へと向かった。
どうにも最近悪いことばかり考えているので、新世界の王のような顔つきでもしていたのだろうか、または三好長慶にでもあてられたかな。
征夷大将軍というものの歴史は数人の例外を除けば神輿であったに過ぎないのだ。
室町幕府が滅んだ原因は、どこぞの馬鹿が無駄に頑張り過ぎて神輿であることを忘れたのがいけないのだ。
大人しく織田信長に担がれていればよかったのだ。
それであれば織田信長も足利将軍家を無下にはしなかったであろうし、実際に無下にはしていないのだ。
あーいかん。
またこんなことを考えていると顔が怖くなるな。
さっさと顔でも洗って来よう……
俺は水場で顔を洗ってついでに台所へ向かった。
我が主のために新作のおやつをつくる為である。
新作のおやつでも持っていかないと義藤さまに顔を合わせ辛いというのもある。
今回作ったのはビスケットである。
小麦粉にオニグルミを砕いたものを入れ、メープルシロップを混ぜて焼いただけの非常にシンプルなものだ。
どちらかというとアンザックビスケットみたいな感じかな。
ココナッツ代わりのくるみの食感とシロップの甘さで、お菓子感覚ですが、一応保存食として考えていたものだ。
これは2、3週間は持つと思われる。
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アンザックビスケット(ANZACクッキー)
ANZACとはオーストラリア(A)とニュージーランド(NZ)の連合軍(AC)の略で、英連邦の一員として第一次世界大戦で戦った両国の志願兵による軍隊である。
アンザックビスケットは腐りやすい材料が入っていないため遠い戦地で戦うアンザック兵達に故郷に残る人々が送ることができた保存食なのである。
オーストラリアやニュージーランドではどこでも買える普通のおやつで、本来はオート麦、小麦、ココナッツ、砂糖、バター、ゴールデンシロップなどから作られる。
南半球の両国に行くことでもあれば、是非その味を楽しみながら第一世界大戦などにも思いをはせて頂きたい。
――謎の作家細川幽童著「そうだ美味いものを食べよう!」より
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「うん。くるみの食感が心地よいし、甘くて美味しいのだー♪」
とりあえず、我が主の機嫌も直ったので一安心である。
これからは怖い顔にならないように気をつけねばならぬな。
人間やはりジョークが必要だ。
「藤孝。先ほどはすまなかった」
「い、いえ、私のほうこそ無神経にズケズケと申し訳ありませんでした」
「藤孝、わしはどうせ担がれるなら、担ぎがいのある良い神輿に頑張ってなってやるからな。そなたもわしを指導してくれ」
「義藤さまはそのー。残念ながら担ぎがいがあるボリュームがまだありませぬなー。もうちょっとこう、ボイーンとなって頂かないと担ぎがいがありませぬ。私も頑張って美味しいものを食べさせているのですが、なかなか成長しないものですなー、アッハハハー」
ビキッ! ん? ビスケットが砕ける音か?
「――新二郎あるかっ!」
「はっ、新二郎ここに」
ん? ん?
「痴れ者である! 新二郎。 そやつを斬って捨てよ!!」
あれ? もしかしてジョークになってません?
「はっ! ガッテン承知の助!」
「ま、まて新二郎! ほんとに刀を抜くなぁあ!」
「問答無用だろ! そこになおれこの痴れ者めがぁ!」
「さっきのは戯言でござる。殿中にござる。他愛のないジョークにござるー」
「新二郎! 成敗じゃっ!」
「おう! 日頃の恨みを思い知るだろー」
「おい待て、日頃の恨みってなんじゃそりゃー」
「お前ばっか若様と仲良くしてるんじゃねーだろー」
「お前だって仲いいじゃねーかー」
「新二郎! その不埒者を早く切り捨てんかぁ!」
「冗談ではない! 俺は逃げるぞ。アラホラッサッサー」
……結局のところ城内はしばらく平穏であったのである。
――事態が一変するのは7月のことであった。
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それでも1位はありがたいです。なろうの歴史部門のスキマを生きる輝きの不如帰を
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