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第二十一話 三好長慶(3)


 長慶と晴光殿のやり取りが続いていたが、俺にも長慶が声をかけてきた。


「細川与一郎殿は公方様の近侍であるとか、お若いのにご立派でありますな」


 三好長慶は24、5歳であろうか、覇気に(あふ)れている印象なのは俺の贔屓(ひいき)かな。

 しかしダンディでカッコイイなこの人。


「ご挨拶が遅れました。『淡路守護(あわじしゅご)』細川家の晴広が嫡男、与一郎藤孝と申します。孫次郎様にはお初にお目にかかります。孫次郎様は私と同じ歳の時には三好家の棟梁(とうりょう)となり、一向宗(いっこうしゅう)本願寺(ほんがんじ)右京兆家(うきょうちょうけ)との和睦をまとめたとお聞きしております。私などは公方様とのご縁にて役目を仰せつかったただの小僧に過ぎませぬ」


 淡路守護家の家柄であることを強調してみる。

 本来の淡路守護細川家を滅ぼしたのが三好長慶の父三好元長であるので、()()()()()の意味を込めてだ。


「それで公方様の()()()()()()()与一郎殿は公方様のご意向を伝えに参ったということかな?」


「ご意向といいますか、確認ですね」


「確認とは?」三好長慶が俺の意図を図りかねて聞いてくる。


管領(かんれい)として公方様を補佐する立場である京兆家の分家の阿波守護家の陪臣(ばいしん)に過ぎない三好家から、何やら大御所様や公方様に対して開城の勧告とやらの使者を(つか)わしたとの噂があります。そのようなことは武家の棟梁たる公方様に対し不遜(ふそん)極まりなく、謀反者の所業と疑われる愚行で御座ろう。聡明なる三好殿がそのような使者を遣わすとは思えませんが、一応確認の必要があろうかと、この藤孝はそう公方様にお伝えして真偽の確認に参りました次第です」


「わ、我が三好家が不忠極まりない謀反者であると言われるのか?」


 三好弓介が怒気含んだ声で俺を睨んで来る。


「いえいえ、聡明なる三好孫次郎様がそのような輩とは思えませんがゆえ、その使者とやらが北白川城に遣わされたのは何かの間違いではないかと考えておりまする」


 大館殿は俺の突然の物言いに声を失ってオロオロとしている。


「ふはははははっ、これは手厳しいな。だが我が三好軍は先日洛中に着陣したばかり。大御所様や公方様が()()()北白川城に在陣しているなどとは思いもよらぬこと。なあ弓介叔父御、我が家中からどこに()わすかわからぬ公方様にそのような使者など出してはおらなんだな?」


「は? ……は、はい。我が三好軍は先日洛中に着陣したばかり。大御所様や公方様が北白川城に在陣しているとは思ってもおりませなんだ。アッハハ……」


 笑ってごまかしておるわ。


「その開城の使者とやらは我が家中の者に(あら)ず。どこか他家の者が我が三好家の名を(たばか)ったに相違(そうい)ないであろう。我が軍においてその者を捕らえ公方様にお引き渡ししましょう」


「それには及びませぬ。どこぞの間者(かんじゃ)の身柄など公方様におかれましても関心は御座いません。三好家が公方様に犯意(はんい)がないことが確認できれば公方様もお喜びになると存じます」


「我が三好家は陪臣の身なれど、武家の棟梁(とうりょう)たる公方様への忠義を忘れたことはござらぬこと。与一郎殿には是非公方様にお伝え願おう」


「それは良きお言葉を頂戴(ちょうだい)しました。時期が来られましたら是非公方様に御目通りを願い、直接ご拝謁(はいえつ)の上、その存念(ぞんねん)を直接訴えるが(よろ)しいかと存じます」


「残念ながらそれがしは陪臣の身、なかなか公方様への御目通りは叶わぬものと思うが?」


「いえいえ、今年の1月のことですが尾張の()()()()()()である織田弾正忠(だんじょうのちゅう)殿が多額の献金を持参して公方様へ御目通りをしております」


「尾張の守護代の家老の者であると?」


「はい、公方様は大変お喜びになって酒宴を開き、弾正忠殿に毛氈鞍覆(もうせんくらおお)いと赤傘袋(あかかさぶくろ)の仕様を(ゆる)されようとしました。残念ながらこの折は幕府内にて話がまとまらず、許すことができませんでしたが、公方様は家柄に関係なく忠義の家をお引き立てしたく考えております。三好殿も公方様への御目通りを希望であれば、それがしが喜んで仲介の労を取りますれば遠慮なくお申し付けください」


「我が三好家は京兆家の家臣ゆえ六郎様(細川晴元)を差し置いて、公方様に御目通りを願うは難しきことなれど、時期が来ればお願いすることもあるやもしれませんな……」


「その時節は案外近いのではありませんかな?」


 ……しばしの沈黙が訪れた。


 俺は暗に三好長慶の細川晴元からの離反は近いのではないかと匂わせたのである。

 我ながら綱渡りである。


「いやはや与一郎殿はなかなか想像力が豊かでありますな」


 三好弓介殿が酒を注いで来る。

 こんな沈黙嫌だもんねえ、でも手が震えてるぞ。


「与一郎殿、大御所様は細川氏綱殿を支援するため挙兵したと聞き(およ)んでいるが、公方様の存念は大御所様とはお違いになると?」


「まだ公方様は若く大御所様の意向を尊重しておりますが、公方様は公方様にございまする。その考えが大御所様と必ずしも同義とは言えないと思われます」


「公方様はお(いく)つにおわしましたかな?」


「12で御座います」


 何故だろう、三好長慶との会話が楽しいのである。

 俺この人好きだわ、正直困る話ではある。

 この三好長慶という男をどこかで叩かなければ室町幕府は、公方様は安全を確保できないのであるのだから……


 しばし沈黙が続き、大館殿が話題を変えた。


「三好孫次郎殿には洛中の治安の回復をお願いしたい。公方様は三好軍による乱暴狼藉が起こらないか心配のご様子。大御所様におかれましても、右京兆殿の責任放棄には大変ご立腹のご様子。右京兆殿の臣下たる孫次郎殿にも責任があるものと思われたし」


「六郎(晴元)様は不在なれど我ら三好軍がおりますので、京の治安は問題なく治めましょう。大御所様にありましてはご安心して洛中へお戻り頂けますようお伝え頂きたい――」


 と、そこへ三好長慶の家臣と思われる者が不調法にも我らが会談する部屋へと駆け込んで来た。


「なんであるか! 幕府の上使なるぞ。無礼をいたすな!」


「はっ。恐れながら申し上げやす。六郎様からの火急の使者なればご無礼かとは思いやしたが、殿にお伝えの必要があるやと思い、ご無礼をいたしやした」


「六郎様から……大変もうしわけない、ご両人には中座の無礼をお詫びする」


 三好長慶が急ぎの様子で部屋から出て行ってしまう。だがすぐに戻って来た。


「御使者の御両名様には非礼を詫びよう。なかなか楽しげな会談であったが、無駄になり申しわけない。我が主君六郎様より、転進の命令が御座った。我が三好軍はこれより洛中より撤退する。大御所様、公方様におかれては後に機会があれば非礼をお詫びしたいとお伝え願いたい――」


 ――そう、わずか10日ほどの対陣で三好長慶率いる1万の軍勢は洛中より引き揚げてしまうのである。

とりあえずそのままなんですが、どこかで三好長慶に表記を統一しますね。

時代考証的にはおかしくなっても読みやすさ優先かなっと、兼見とかやってるしね

なんだか久しぶりにポイントが凄い伸びてました。ありがとうございまーす♪


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