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第八十九話 織田信長家督継承(2)

第9回ネット小説大賞一次選考通過ありがとうございます!

応援してくださった皆様のおかげです。

【織田信長家督継承(1)の続き】

 ◆


 せっかく皆で楽しくやっていた宴会の場が氷ついてしまう。

 お怒りの公方様が現れ、固まる者、慌てて平伏する者、なぜかコソコソと逃げ出す者など、宴会場が混乱してしまった。


 そりゃそうだ……全国30万の武家の頂点の征夷大将軍であり、この城の主でもある公方様が怒鳴り込んで来てしまったのだから。

 だが、この場の皆や俺も、なぜ公方様がお怒りなのかが分からないので困惑してしまうのだ。ただの慰労会であるのだが……


 でも、まずいなこれは……宴会を楽しんでいる皆に、義藤さまがパワハラ上司だと思われてしまっては困るのだ。

 宴会のあとの差配などは助っ人宴会マンな平井秀名(ひらいひでな)くんあたりに押し付けて、義藤さまのお怒りを急いで治めなければならない。


「公方様、お怒りはごもっともなれど、皆も居る宴席でございますれば、何卒お怒りを静めて頂きたく……」


「う、うるさい、うるさい! そ、そなたが悪いのじゃっ!」


 なんで怒っているのか知らんけど、俺の話を大人しく聞いてくれる状態じゃないようだぞ。

 公方様モードの威厳が皆無で、駄々っ子な義藤さまになってしまっているではないか。


「それがしの不手際で公方様のお怒りを招いたことはお詫び申し上げます。で、ですが、臣下の者が見ておりますれば、別室にてお叱りを賜りたくお願い申し上げます」


「ううー」


 なぜか涙目になる義藤さま。どないせいっちゅうねん。


「御屋形様に公方様、この場はこの五郎八(ごろはち)に任せて自室へお戻りください。あとのことは心配なさらず」


 金森五郎八が寄って来て、助け舟を出してくれる。普段はいい加減なやつだが、気の効く男だ。米田の兄貴は酔っ払っていてまったく役に立たないけどなー。

 金森長近(かなもりながちか)明智光秀(あけちみつひで)からの報告はすでに聞き終わっているので、宴会ですべき事はない。あとは任せても問題はないだろう。


 公方様も五郎八の仲裁で少し我に帰ったのか、駄々っ子モードが弱くなっている。このチャンスを逃さずさっさと連れ出すべきであろう。


「すまんが五郎八あとは頼むぞ。平井殿に任せておけば宴会はつつが無く終えられよう」


「ははっ、ご心配なさらず。さっさとしっぽり仲直りして来てくだされ」


 なぜかニヤニヤ顔の金森五郎八である。こいつは痴話ゲンカとしか思ってなさそうだな。まあよい、それよりも義藤さまだ。


「公方様、お叱りは別室で承りますれば、ここは何卒、なにとぞー」


「○×△◇……」


 意味不明なことを言いながら、イヤイヤをする義藤さまを無理やり押しのけ宴会場から追い出して、廊下の角を曲がり人目を遮ったチャンスに、義藤さまを抱えて脱兎の如く逃げ出すのであった。


 ◆


「おーろーせー!」


 義藤さまの自室に転がり込んで、荷物の如く抱えていた義藤さまをやさしく降ろしてあげる。


「こ、この、不埒者(ふらちもの)めがー! その方はこのわしを何と心得るかっ!」


 とっても可愛い俺の公方様と心得ているけど、ちょっと今日の義藤さまには苦言をいいたくなってしまった。


「義藤さま。先ほどの態度はいただけませんぞ!」


「なっ、なんじゃと。わしが悪いとでも言うのか? そ、そなたが全部悪いのじゃー!」


 くだらない口喧嘩のようになってしまうのは分かっているのだが、どうにも文句を止められなかった。マシンガンの如く苦言が口をついてしまう。


「この藤孝のどこが悪いと申します! 皆の者は、この将軍山城(しょうぐんやまじょう)の危機に一致団結して鬼のような仕事を(さば)いてくれたのでありますぞ。その頑張ってくれた家臣らの慰労に努めていたそれがしの、一体どこに落ち度があると義藤さま言うのでありますかっ! 公方様であれば、あのような席では頑張った皆の者にお褒めの言葉をかけてしかるべきところでありましょうが! それを、場もわきまえずに皆を白けさせるような態度を取るとは言語道断! そのような公方様では臣下の皆の忠誠など得られず、皆に見限られますぞ!」


「なっ、な……」


 俺から激しい反撃トークを食らうと思っていなかった義藤さまが絶句してしまう。そして、表情が崩れて、その眼から涙が零れ出す。


「うう……うわーん」


 え? え? え? 


 なんということでしょう、義藤さまが声をあげて子供のように泣き出してしまったではないか。最近とくに大人びた印象を持っていたので、突然のギャップにビックリしてしまう。

 ま、まあ、確かに苦言を言い過ぎたかもしれないが、泣き出すとは思わなかったので、怒りモードなど吹き飛び、おろおろしてしまう俺である。


「あ、えっと」


「そ、そなたまでわしを見限るのか? そなたにまで見限られたらわしは、わしは……うわーん」


 ちょっとマテ。俺じゃない。俺が見限るとかそういう話じゃない。俺以外の臣下の話っだっちゅーの。


「よ、義藤さま、落ち着いてくだされ。この藤孝が義藤さまを見限ることなどあるわけがないではありませんか」


「だって、だって、見限るって言ったもん。伊勢守(いせのかみ)やたくさんの奉公衆(ほうこうしゅう)奉行衆(ぶぎょうしゅう)がみんな、わしを見限って城を出てしまった。やはり、わしはダメな将軍だったのじゃー、うあー」


 言ったもんって……だが、子供のように泣きじゃくる義藤さまを見て、馬鹿な俺はやっと気付くのだ。


 ああ、そうか。義藤さまは、政所執事(まんどころしつじ)伊勢貞孝(いせさだたか)や伊勢派の連中が城を退去してしまったことを御自分のせいだと思っていたのか……そして落ち込んでいたのだ。


 それに気が付かずに俺は……忙しさにかまけて義藤さまを放っておいて……これで公方様の第一の臣下とは、聞いてあきれるわな。義藤さまの心が折れていることに気付いていなかったとは……


 義藤さまは公方様の前に、一人の15歳の少女であるのに……


「お、お願いじゃ、わしに出来る事ならなんでもするゆえ。わしを……見捨てないでくりゃれ」


 涙目で俺なんかに懇願する義藤さまを……思わず抱きしめてしまう。


「義藤さまを見捨てるなんて、この藤孝がするわけがないですよ。私こそが義藤さまを必要としているのです。義藤さまが一番大事なのです」


 俺に抱きしめられた義藤さまが、ビクっとして、ヘナヘナっと力が抜けてずるずるっとへたり込んでしまう。そしてすごく小さい声で聞いてくるのだ。


「ほ、本当か? わしを一人にはしないか?」


「本当です。義藤さまが嫌がっても一緒に居ると前に言ったではありませんか」


「本当に本当に、わしを見限らないのか? ずっと一緒なのか?」


「本当に本当です。命尽きるまで、この藤孝は義藤さまとずーっと一緒です」


 やっと泣き止んだ義藤さまが恥ずかしそうにはにかむ。


「そ、そうか、ずっと一緒であるか……仕方がないのう。そうまで言うならずっとそばに置いてやらぬでもないぞ」


「ありがたき幸せにございます」


「ほ、ほんとに、そなたはしょうがないヤツであるのう」


 元気になったのか、やっと義藤さまにいつもの調子が戻って来たようだ。

 抱きしめられていることに気付いて恥ずかしそうにパッと離れてしまい、少し残念である。


「伊勢貞孝らが城を出たのは義藤さまを見限ったのではなく、幕府において主導権を握れなかったからでありましょう。余りお気にせずともよろしいかと」


「そ、そうであるか」


 恥ずかしそうに返事をする義藤さまである。


「はい。伊勢貞孝は公方様と三好長慶(みよしながよし)を仲介することで影響力の回復を目指しているのです。それに伊勢家は幕府なくしては立ち行かない家であります」


「少し取り乱してしまったようじゃな。許すがよい」


 少しじゃなかったけど、可愛いからまあいいか。


「それがしこそ、義藤さまのお気持ちを察せず申し訳ございませんでした」


「も、もうよいのじゃ……そなたが、このわしを大事に想い、しかと守り立ててくれるようであるからな。これからしかと励むがよいぞ」


 上座のいつものポジションに収まって、少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら、チラチラと見てくるのだ。

 うん、たまらなく可愛いぞ。余りにも可愛いのでイジワルをしたくなってしまう。


「そういえば、義藤さま。先ほど、出来ることなら何でもすると(おっしゃ)いましたね?」


「え? そ、そうじゃな。そんなことを言ったかも知れぬが……」


「では、義藤さま。このところ働き詰めであった藤孝めに、是非ともご褒美を頂戴したくあります」


「ほ、褒美とな? な、何か欲しいものでもあるのか? そなたが望むなら可能な限り善処するつもりであるが」


 少し不安になったのか? こちらを窺うような目線を送って来る。


「褒美ではなく、ご褒美が欲しいのです。ご褒美がいただけないと、この藤孝は、出奔(しゅっぽん)するやもしれませぬぞ」


「なっ! さ、さっき見捨てないって、ずっと一緒だって言ったじゃないか! それに褒美とご褒美って何が違うのじゃ」


「ご褒美は、義藤さまが可愛い格好をして、私に膝枕をすることです。このご褒美がないと、藤孝は拗ねて家出しますぞよ」


「な、なんなのじゃそれはー!」


「して、ご褒美は頂けますのや?」


「ふーっ、ま、まあよいわ。で、何を着ればよいのじゃ」


「こんなこともあろうかと、新作の装束をすでに用意済みでございます。隠し部屋に置いてありますれば、さっそくお着替えをお願いいたします」


「そーゆー用意だけはちゃっかりしているのだな、そなたは……」


 なにやら、あきれ返っている義藤さまだが、そんなことは気にもしない。はりきって新作の装束の説明をして、すぐに着替えて貰うのだ。


「の、覗くではないぞよ……」


 別に覗くつもりはない。邪魔するより早く着替えて欲しいからな。

 わくわくして待つ俺である。


 ◆

【織田信長家督継承(3)へ続く】

皆様お久しぶりで申し訳ありません。

作者はYoutubeで、ゆっくり解説の動画を作っていて、

この小説の投稿をサボっておりました。

深く、深くお詫び申し上げます。


いやあ、通説を否定しまくるディープな織田信長の初期の合戦の

解説動画を作っていたのですが、作るのが面白くてねぇ……

小説書くのと、動画を作るのが両立できなくて、

小説の更新止まっちゃいましたー、アハハハハ……


で、なぜか第9回ネット小説大賞の一次選考を

通過しちゃったので、あわてて投稿した次第です。


動画作っている間に構想も少しまとまったので、

ぼちぼち書いていこうかと思います。

Youtubeの「よしふじ歴史ちゃんねる」ともども

応援頂けると嬉しいです。

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[良い点] アホや!(誉め言葉)
[良い点] 更新ありがとうございます [気になる点] お久しぶりー!! [一言] やはり、かわうい公方様が読めないと、物足りないですね
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