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第八十七話 ザビエル(1)

 天文二十年(1551年)1月



「グッドモ〜ニング ミスタートクミツ アイム フジタカ ホソカワ ナイス チュー ミーチュー」


 オッス徳光(とくみつ)さん、おら細川藤孝、おめーに会えて良かっただぁ、といきなりウ○ッキーさんばりに英語で挨拶をぶちかましたのだが、唖然とされてしまったヨ。

 完全にツカミは失敗してしまったようである……


 ◇

 ◇

 ◇


 津田算長(つだかずなが)率いる根来衆(ねごろしゅう)和泉(いずみ)侵攻と香西元成(こうざいもとなり)による北摂津への攻撃が見事に成功して、三好長慶(みよしちょうけい)の本隊を洛中から撤退させることに成功した。


 和泉では根来衆らの活躍で南部の日根(ひね)郡を瞬く間に平定してしまった。早田道鬼斎(はやたどうきさい)が絶えず行き来して連絡を取り合っているが、津田算長は近木川(こぎがわ)を渡った岸和田(きしわだ)城の目と鼻の先の貝塚(かいづか)まで進出しているそうだ。


 予想以上に根来衆による和泉侵攻は成功しており頼もしい限りだ。三好長慶が本格的に和泉に後詰を派遣するまでの間に、もっと勢力を広げることも可能であるかもしれない。津田算長が正規の守護代であるということが浸透しているのだろう、偽の守護代となってしまった松浦(まつら)家から離れる者も多いようだ。


 和泉は順調なのだが、問題は近江の状況だろう。六角定頼(ろっかくさだより)がまだ京極高延(きょうごくたかのぶ)を追い返せないでいるのだ。だが、こちらも斎藤道三(さいとうどうさん)が六角家の支援に動くことを同意してくれたので、中仙道の確保は近いうちにできると思われる。大垣との通行が不安定だと商いが滞るので早くなんとかしたい。


 三好長慶の一時撤退により、ひとまず攻め落とされる危険が無くなった勝軍山(しょうぐんやま)城ではなぜか幕府の新年行事などを一生懸命やっている。

 いまだ洛中を取り戻せず、篭城中であるのに儀式もないと思うのだが、どんな時でも儀式こそが大事という人種も居るものなのだ。うんざりするけどな。

 細川晴元(ほそかわはるもと)や太閤殿下は自分たちの活躍で三好長慶を京から追い散らしたのだと息巻いている有様だ。各地にお手紙を送って宣伝してくれているから放っておいてるけどな。


 幕府の儀式関係などは面倒くさいだけであるので、俺は関与しないで内談衆(ないだんしゅう)にほとんど丸投げしている。

 義藤さまは寒いから嫌じゃとブーたれながらも乗馬始めなどを無理やりやらされていた。可哀想だが公方様なので逃げられないのだ。


 洛中から撤退した三好長慶は大山崎に居るようである。洛中の三好軍は相国寺(しょうこくじ)西院小泉(さいいんこいずみ)城、東寺(とうじ)吉祥院(きっしょういん)城に展開しているが、得に目立った動きは見せていない。

 どうやら三好長慶は伊勢貞孝(いせさだたか)を通じて和睦の交渉を再開しているようだ。近衛稙家(このえたねいえ)と細川晴元がどうせ反対するだろうから交渉はうまくいかないと思うけど……


 さて、儀式から逃げ出した俺がこの時期に何をやっていたかと言うと、外人さんとお話をしていた。


 MMRのメンバーから洛中の三好軍の動静の報告がてら新年の挨拶を受けていたら、吉田宗桂(よしだそうけい)に変な頼み事をされてしまったのだ。

 遣明船にも関わる堺の有力な商人である小西次忠(こにしつぎただ)から取次ぎを頼まれたというのだが、その息子の小西隆佐(こにしりゅうさ)という男と天竺(てんじく)から来たと言う坊さんに会って欲しいという依頼であった。


 小西隆佐の名にはむろん心当たりがあるし、堺の商人とのコネは今後の商いを考える上で大いに欲しかったので二つ返事で承諾した。

 吉田宗桂と小西隆佐が連れて来た天竺の坊さんというのがあのフランシスコ・ザビエルだったので、冒頭のように元気よく挨拶したわけである。


 いきなり何を言っているのだと思われただろうが、我が日本にあのザビエルさんがやって来てくれたので、俺が外国通なところを見せて歓心を得たかったのだ。宣教師と仲良くしておけばポルトガル商人とも繋がりがも持てるはずだからな。

 まったく通じていないようだったが……英語も喋れないとか本当にこいつは外人か?


(むろんフランシスコ・ザビエルはイギリス人でもアメリカ人でもなく、スペイン人でポルトガルから来ております)


 そういえばザビエルと言えばやっぱりあのカッパみたいな変なヘアスタイルを期待していたのに、全然あの頭じゃなくて普通の頭だったのだ。正直がっかりである……ウケを取る気がないのかよ。


 ◆


「ワタシたちはー、天竺から参りました僧侶デース。ワタシはジョアン・フェルナンデスと申しマース。コチラの方はフランシスコ・ザビエルと申しマース」


(発音的にはザビエルではなくシャビエルらしいのだが、分かり辛いのでザビエルで行きます。あと分かりやすくてきとーなエセ日本語で喋らせてます)


 フェルナンデスと名乗った外人が俺の挨拶をスルーして、たどたどしい日本語で喋りかけて来た。この男が通訳なのだろう。ザビエル一行は3人であり、もう一人の男はベルナルドと名乗ったがどう見ても日本人だな。


「細川兵部大輔である」


「ハジメマシテでございまーす」


「お主らは天竺から来たというが、そのような遠い所からわざわざ何をしに来たのであるか?」


 どこから来て何を目的にやって来たのかも当然知っているのだがわざとらしく聞いてみた。通訳が頼りない感じなのでなるべく簡単な日本語で話すことを心がけようかな。


大日(だいにち)の教えを広めに参りマシター」


 大日とはポルトガル語の「神」お意味する「デウス」の翻訳のことらしいです。あなたは神を信じますかー? の神のことで、「ヤハウェ」とか「(しゅ)」とか、ようするに一神教における唯一神のことになる。


 1551年ぐらいまではヤジロウという日本人からの知識で、ザビエルはデウスのことを「大日」と訳してしまって「大日を信じなさい。信じれば救われます」と布教活動をしてしまったらしい。「大日」は仏教の真言密教(しんごんみっきょう)の「大日如来(だいにちにょらい)」に通じてしまうので、天竺から来たと言っていたことも相まって、ザビエルが仏教の一派と勘違いされることにもなったそうな。


「大日の教えとはどのようなものであるのだ?」


 お前らキリスト教だろ? とツッコミを入れたいがここは我慢である。


「デウスを信じればあなたは救われマース」


「ふむ、宗桂殿に小西隆佐と申したか、その方らはこの者らが天竺から来た仏教の偉い僧だと言うから面会に応じたが、どうやら仏教徒ではないようだぞ? お主らわしを(たばか)ったのか?」


「め、めっそうも御座いません。謀るなどとは……この者らは間違いなく天竺から来たと聞いております」


 まあ、あれだ「消防署の方から来ました」と同じだよな。インドのゴアから来たのは間違いないけど、本当はヨーロッパのスペインやポルトガルから来たということは宗桂も小西もまだ理解出来ていないのだろう。


「ザビエルとやらに尋ねるが、天竺のどこから来たのだ。お主が生まれたのは天竺なのか?」


 俺が怒っていると思ったのかな? 通訳のフェルナンデスとザビエルが慌ててスペインかポルトガル語らしき言葉で相談している。


「パードレが生まれたのはイスパーニャのナバラでありマース。ポルトガル王の命でインディアのゴアに行きました。そこからサツマ(薩摩)ヒラド(平戸)ヤマグチ(山口)に来て、キョウ()に来ましたー」


 戦国時代風に言うと「伴天連(バテレン)(のザビエル)が生まれたのはイスパニアのナバラで、インドのゴアに行った云々」と言っているようだな。一応正直に答えてくれたわけだ。


「デウスと申していたが、その方らは景教(けいきょう)回教(かいきょう)ではないのか?」


「ケイキョウ? カイキョウ? おお、分っかりマセーン」


 なんとなくエセ外人風なハデなリアクションを取るフェルナンデスである。どうでもいいけどフェルナンデスという名前だと「黄金の右腕」を持ったイタリア人ゴールキーパーにしか見えなくなってくる……


「景教は唐の時代に、回教は明の時代に西方から伝わった宗教だな。回教はムスリムやイスラームとも言ったはずだが知らないのか?」


 景教は中国の唐の時代に伝わったキリスト教のネストリウス派とされ、この時代の中国ではすでに絶えてしまっている思われるが、日本にも遣唐使でなんらかの形で伝わっているとの説もある。


「おおう! イスラーム違いマース。それは異教徒デース」


 いや、むろん知ってるけどな。


「なんだ、イスラムではないのか。では景教だな。そなたらのデウスの子の名を呼んでみろ」


「デウスの子供? おお、イエスース、へスース……ジザース」


「うむ、ジーザスだな。その方らの神の子の名はジーザスだ……地獄に堕ちても忘れるな……これからはジーザス教と名乗るがよい。大日とジーザスとは全くの別物であるぞ」


 イエスはラテン語でイエスース、スペイン語でヘスースになり、ポルトガル語で「Jesus」ジザースのように聞こえる。ちなみに英語だとジーザスになるわけだ。

 キリスト教とかイエズス教にしないでジーザス教にしたのは完全に俺の趣味だけどな。


「ジーザス教?」


 ザビエルは仏教の一派と勘違いされて困ることになるので、ジーザス教として完全に仏教と違うことを示してあげたのは、まあサービスみたいなものだ。


「お主らは仏教ではなく、景教と同じくデウスを信じるジーザス教であろう。それと景教の文字ではわしの名前はこう書くそうだな」


 紙に「My name is Fujitaka Hosokawa」と英語で書いて見せてやるのだ。本当はラテン語かスペイン語で書いてやりたかったがさすがにそこまでわからない。英語でゆるしてくれ。


「おお! スバラシー!」


 フェルナンデスとザビエルは俺の書いた字を見てめちゃくちゃ驚いていた。とりあえず通じたようだ。ここまでやれば、俺のことをこの日本で最もキリスト教とか西洋に理解のある日本人だと思ってくれるだろう。

 もちろんキリスト教の危険性は十分承知しているが、今はまだポルトガルとの交易を優先したいと思っている。


 ついでのサービスだと思って、ひらがなの「いろは」をローマ字で書いてあげていたら、慌てた源三郎が部屋に入って来て耳打ちをして来た。

 来客中なのだから遠慮しろよとも思うのだが、何か緊急事態だろうか。


「恐れながら申し上げます。わしに儀式を押し付けてサボっている藤孝をしょっぴいて来いと、公方様がたいそうお怒りであります。急ぎ公方様のところへ参上し申し開きするのがよろしいかと存じます」


 うん、ある意味緊急事態だった。怒り狂った義藤さまがこの場に踏み込んで来たら、間違いなく酷いことになるからな……


 ◆

【ザビエル(2)に続く】

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