第八十三話 勝軍山城の戦い(2)
【勝軍山城の戦い(1)の続き】
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置物の義藤さまを安全な場所に鎮座させ信頼できる供廻りに警護させる。自力では一歩も動けない義藤さまの身の回りの世話も一色藤長に押し付けて、俺は最前線の大手門の二階へと急ぐのだ。
「源三郎、敵の様子はどうだ?」
「白川村から駆け上がって来ております。直に大手門の前へ寄せて参るでしょう」
大手門周辺は我が和泉細川家の手の者が固めている。なんだかんだで一番攻めやすいのは大手門であるからな。三好軍がまず攻めるのは大手門だと思っていた。
「敵勢、大手門前に現れましたぞ」
「よし、迎撃せよ」
この勝軍山城の大手門は門の上に櫓が乗っかっているいわゆる櫓門で二階門とも呼ばれるタイプだ。さらに門扉を鉄板で覆っている鉄門でもある。
のちの安土城や大坂城、江戸時代の城にも匹敵する門をこの時代で再現しているのだ。金を掛けまくった非常に贅沢な造りだな。
悪いがそう簡単に攻め落とせる大手門ではないのだよ。
敵は大手門に取り付こうとするが、門の二階や周囲の櫓、石垣の上から吉田雪荷の指揮する弓部隊にすごい勢いで矢を射掛けられ近づくことができないでいる。
「何をやっているか戸板を掲げて攻めかかれー!」
敵の指揮官らしき者が命令して、矢よけのためであろう板を背負って突っ込んでくる。戸板を持って山道を上がってくるのも大変だよなと少し敵に同情してしまった。
「攻め寄せている敵が何者か分からぬか? どうにも西岡衆が居るような気がするのだが」
有吉立言に敵勢を知る者を探して来てもらう。
「敵勢はやはり西岡衆らであり、あの将は石成主税助ではないかと申す者がおります」
ああ、あれがいずれ憎き三好三人衆となる石成友通か。
三好長慶は服属した西岡衆らに先陣を任せたということか。降将を先陣として使いその忠誠心を量ることは兵法の常だしな。石成友通は戦目付けといったところだろう。
少し前に一緒に戦った者もいるかと思うと憂鬱になるが、すまない手加減はできないのだよ。
「よし打って出て、敵をマクー空間に引きずり込め!」
「おやかたー、まくー空間ってなんすか?」
「弾幕を張る空間だからマクー空間だ。ようするに虎口の中のことだがギャグの解説をさせるな恥ずかしい」
「おやかたーぎゃぐってなんすか? まあいいか、打ち合わせどおりに敵を大手門の中に誘い込めってことすね」
「そーゆーこと、有吉には最近奥州から買った俺の替え馬の犀馬利庵を貸すから頑張って来てくれ。じゃあ皆打ち合わせ通りに頼んだよー」
攻め倦む敵兵の前で大手門の城門を開いて、有吉立言、金森長近、斎藤利三らが突撃隊を率いて打って出る。
敵勢は急な展開に頭がついていけないようである。城門を攻めていたらいきなり門が開いて突撃されるとか雑兵に対処しろとか無理な話であろう。
急な情勢変化に対応できなかった門前の敵兵らは有吉らに討たれたが、敵の指揮官と思われる石成友通は慌てずに新手を繰り出して来た。
「敵は小勢ぞ、城門を開いた今が好機よ、各々方突き進めー」
その新手と適当に戦っていた有吉らに頃合と見て退却の合図を出す。
「サイバリアーン!」(退却の合図です)
楼門の二階でカッコイイ決めポーズを決めながら合図を送る俺である。
「うわー敵は大軍だー、逃っげろー(棒読み)」
「マクー空間に引きずり込めー」
大根役者な金森長近を殿にして予定通りに大手門へ退き返して来る突撃隊たち。その彼らに追いすがってくる敵勢に対して、城門の兵は弓矢を浴びせかけていく。
敵勢の追撃が鈍ったところで突撃隊は大手門に流れ込んで、さらに第二門の奥へと引き上げていく。最後尾の金森長近が颯爽と駆け抜けたところで第二門を締め切った。
追いすがって来た敵は大手門を入ったところで目の前の石垣に突き当たってしまう。大手門から第二門へは右へ直角に曲がっているのだ。構造を知っている金森長近はうまく曲がっていったが、敵勢はうまく曲がれずに足が鈍るような構造になっている。
「物集女兵衛大夫が敵城への一番乗りであるぞー」
足の鈍った敵はそれでも元気に名乗りを上げている。
物集女? 物集女城を落城させた時に物集女の一族は全員捕らえたと思っていたが生き残りがまだ居たか……だが物集女は我が敵なのだ。生きて返すことは出来ないな。さて、本日のお仕置きタイムである。
「マクー空間へようこそ。たっぷり鉛玉を味わうがよい。光秀いまだギャバン・ダイナミック!!」
俺はなぜか刀を振るって射撃の合図を出すが特に意味はない。ポーズを決めたかっただけだ。
「お任せあれ! 鉄砲隊構え、ファイエル!」
パパパパパパパパーン!
内枡形虎口内部に侵入した敵兵を安全な高い位置から一方的に、しかもほぼ全方位からの鉄砲の一斉射撃でお出迎えするのである。
虎口内に侵入した敵勢は50名ぐらいであったろうが一瞬で壊滅するのであった。哀れな物集女の生き残りは一瞬で討ち取られる。
続いて新たな敵勢も侵入して来るが弓で足止めしている間に、早合で素早く次弾を装填した鉄砲隊の続けざまの発砲で壊滅させてしまう。
門外からの突撃が5度繰り返されたところで外の敵勢も異変に気付いたのだろう。
石成友通が城門内への突撃を指示しているが、その指示に従うものは最早居なくなってしまう。城門内に突入した味方の悲鳴と鉄砲の一斉射による射撃音に皆びびってしまったのだろう。
入れば死が待っている……それが我が城の虎口なのである。そんな所に好き好んで突撃するほど西岡衆の士気は高くないようだ。
敵勢の心が折れたことを見て取った俺は再び門外への出撃を命令するのだ。さっきの演技とは違って今度は本気の出撃である。
「蹂躙せよ!」
米田求政、有吉立言、金森長近、斎藤利三、それに大将たる細川藤孝の本気の突撃を喰らって、蹴散らされた西岡衆や石成友通は坂道を転げ落ちるように退却していった。
三好長慶との攻城戦の第一幕である大手門の戦いで、我ら幕府軍はまずは完勝と言ってよい勝利を上げるのである。
だが勝利の立役者だったはずの俺はむろん義藤さまにむちゃくちゃ怒られて、3時間ぐらい正座をさせられるはめになるのだ……
ちなみにコンバットスーツは即日廃棄を命令されたので、仕方がないので普通の南蛮胴に改造中です。
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【勝軍山城の戦い(3)へ続く】
PCの前に座っているのがつらいです
肩こりと頭痛がぁ




