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第十二話 饅頭屋宗二(2)

 ◆


 12月中に本格的な樹液採取(じゅえきさいしゅ)のための準備をおこなう。

 イタヤカエデ、ウリハダカエデ、オオモミジなどの樹齢(じゅれい)が20年以上で幹周(みきまわ)り25センチ以上(感覚です)のものを選定する。

 選定したカエデには我々しかわからないマークをつけてまわる。


 饅頭屋宗二(まんじゅうやそうじ)の林南家と吉田家、清原家の協力を得て、各家の領内や協力してくれる近隣領主、寺社などの領内のカエデを選定してまわった。

 本格的な採取は1月下旬から2月上旬が最盛期だ。

 そこに向けて大慌てで準備をする。

 まだ樹液の量は多くはとれないが試作用に樹液が取れる木からは取っていく。


 もみじ饅頭型の焼き型も吉田家の伝手(つて)がある京の鋳物(いもの)職人に頼んでしっかりとしたものを作成した。

 小麦と混ぜる卵も鶏を集めて一定量を確保する。

 卵が食されるようなったのは江戸時代以降と言われるが、それは大っぴらに食べられるようになったのが江戸時代なだけであり、実はそれ以前も隠れて普通に食されていたりするのだわ。

(卵の食用は江戸時代に無精卵だから仏教的にもOKみたいになって広まったらしいです)


 メープルシロップを煮詰める作業ともみじ饅頭作りは秘密厳守のため、ここ吉田山の謎の宮大工集団が建てた作業場ですることになった。

 もうめっちゃ甘い匂いがただよっている。


「出来上がりましたね」――饅頭屋宗二殿が喜びの声をあげる。


「ええ、試作量産化第一号です。さあ味見をしましょう」――俺も笑顔を皆に返した。


「美味しいではないかー」……兼右叔父は相変わらずである。


 もみじ饅頭は満足できる出来栄えとなった。これなら売れると饅頭屋宗二殿も太鼓判(たいこばん)を押してくれる。

 問題はメープルシロップの必要量の確保なのだ。

 メープルシロップは冬にしか取れない。年間を通してもみじ饅頭を作るには、この冬にできるだけ大量にメープルシロップを確保する必要がある。

 

 しかしもう時間がない。関係者以外の領地にもカエデの樹液の採取を広げていきたいのだが、それには政治力がいる。


「宗二殿。公方様にこの試作もみじ饅頭を献上(けんじょう)してまいります」


「与一郎殿お願いいたします。公方様には是非宜しくお伝えください。人出の確保はお任せ下さい」


「公方様にお墨付きを頂いて参りますよ」


 そう――メープルシロップを確保するために、俺は幕府を利用することにしたのだ。

 さて、食いしん坊将軍にもみじ饅頭を献上しに行こう。

 きっと喜んでくれるに違いない。


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 「もみじ饅頭」

 

 小麦を原料とした焼きまんじゅうであり広島県の宮島(みやじま)の名産品である。

 もみじ饅頭は明治時代の後期に宮島の和菓子職人「高津常助(たかつじようすけ)」によって考案されたとされる。

 厳島(いつくしま)神社の表参道商店街では焼きたてのもみじ饅頭を食べることができるが、焼きたてのもみじ饅頭は全く違う美味さがあるので是非現地で味わって欲しい。

 ちなみに私のおすすめはチーズ味だ。


 ――謎の作家細川幽童著「そうだ美味いものを食べよう!」より

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 ◆


 東求堂(とうぐどう)に公方様を(たず)ねる。

 先日、公方様は元服式を終えられ坂本から帰ったばかりだ。

 俺は元服式後早々に東山に戻っていたが、公方様は六角定頼(ろっかくさだより)(てい)への御成(おな)りだとか、各種の無駄とも思える行事をこなして慈照寺(じしょうじ)に戻ったばかりであった。


 ちなみに俺もクソ忙しい。

 蕎麦屋と鰻重屋の店舗管理をしつつ、清酒造りも行い、義藤さまの元服・将軍宣下(しょうぐんせんげ)にもついて行き、メープルシロップともみじ饅頭の準備もしている。

 もうわけが分からない忙しさだ。正直コピーロボットが欲しい。(バードマーン)


「元服式と将軍宣下の()でわしは疲れたのじゃ。藤孝なにか美味(おい)しいものをくれ」


 新公方となった義藤さまはとても忙しく面会が難しいかもと思ったが、政務がひと段落していたのであろう、いつもどおり東求堂の一室で義藤さまと逢えることができた。

 義藤さまは完全にくつろぎタイムに入ってしまったようだが……


「今日は大変苦労して作ったものを持ってまいりました。公方様にも喜んで頂ける出来栄(できば)えです」


「おお、それは楽しみだな。だが公方様はよせ。今は誰も居ないのだからな」


「失礼しました義藤さま。さっそくこのもみじ饅頭をご賞味下さい」


「もみじ饅頭と申すのか? どれどれ、何やら可愛らしい形をしておるな」


 パクっと、手に取って食べた瞬間に義藤さまが固まった。


「な、なんだこれわー、あ・ま・い・ぞーーー!!」


 どこかの味の皇帝並みのリアクションで叫ぶ義藤さまの声が東求堂に響き渡った。


「く、公方様! いかがされましただろ」


 義藤さまの叫び声を聞きつけ、東求堂の外で歩哨(ほしょう)をしていた松井新二郎が慌てて駆け込んで来てしまった。


「おおこれは与一郎殿、公方様はどうなされたのでありますか?」


 とりあえず、義藤さまの無事を確認しておちつく新二郎。


「いやね、多分このもみじ饅頭がね、とっても美味しかったのだと思うのよ」


「ふふふ藤孝! なんだこれは! わしはこんなに甘い物を食べたことがないぞ。新二郎お主も食べてみるがよい。とても甘くて信じられない美味さであるぞ!」


「私も頂いてよろしいのですか?」


「よい、許す。新二郎も早く食べるがよい。わしももう一つ頂く」


 パク、パクっ。


「う・ま・い・ぞー!」


「何だこれは甘すぎるだろー!」


 二人が過剰なリアクションをして固まってしまう。

 こいつらは料理バトル漫画の登場人物か何かか? ……まあいいけど。

 リアクションが落ち着いたところで、義藤さまにもみじ饅頭の製法や饅頭屋宗二殿の協力などを簡単に説明した。


「なるほど。砂糖を使わずにこの甘さとは驚いた。饅頭屋宗二とやらも良くやってくれているようじゃな」


「はい。それで義藤さまにお願いがあるのです」


「なんじゃ? 申してみよ」


「このもみじ饅頭を安定して作るために饅頭屋宗二にぜひ便宜(べんぎ)(はか)って頂きたいのです」


「……分かった詳しく聞こう」


 政治的な話しと判断して新二郎が黙って席を外し部屋を出て行った。だが俺は見逃していなかった。新二郎がもみじ饅頭を一つ()()()()()()()()()ことを……


 そして俺は公方様と大御所(おおごしょ)様に正式な面会をすることになり、将軍の側近である御部屋衆(おへやしゅう)に任命されることになったのだ。

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