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第七十五話 守護職就任(2)

【守護職就任(1)の続き】

 ◆


 細川元常(ほそかわもとつね)細川晴貞(ほそかわはるさだ)細川頼勝(ほそかわよりかつ)和泉(いずみ)細川家の面々に、淡路(あわじ)細川家の細川晴広(ほそかわはるひろ)細川藤孝(ほそかわふじたか)、それと三淵晴員(みつぶちはるかず)という、「細川」の関係者が公方様に呼び出されることになった。ちなみに本来であれば発言権があるはずの細川一門の惣領たる京兆家(きょうちょうけ)細川晴元(ほそかわはるもと)は呼ばれていない。


 これは公方様が調停して、和泉細川家の家督相続を円滑に進めようという話し合いの場である。


 形的には和泉細川家の惣領である細川元常が、御家の建て直しのために甥の細川藤孝を養子に貰いたいと、公方様を介して藤孝の実父の三淵晴員と現養父である細川晴広に申し出る形となった。


【細川元常は藤孝の養子入りを非常に嫌がり、和泉家伝来の品を藤孝に渡したく無くて、そのことごとくを建仁寺(けんにんじ)永源庵(えいげんあん)に奉納してしまったとか言う話があったり無かったりする】


 公方様の命により細川晴広と藤孝とは養子縁組を解消することになった。だがそれは、藤孝が元常の養子となるためであり、円満な解消であることが強調された。

 俺は和泉上守護(いずみかみしゅご)細川家の当主となることになるわけだが、幼き頃より淡路細川家に養育して貰った恩に報いるため、細川晴広の和子を「義理の庶兄(しょけい)」として後見するよう公方様から命じられるのである。


 表向きは公方様にとって、和泉細川家も淡路細川家も大事な臣下であり、関係が(こじ)れることを避けるための配慮である。

 が、実態は俺のことを思って細川晴広と俺との関係を断絶させないための義藤さまのやさしさであろう。


 所領の件は少しややこしい事になる。淡路細川家の元々の所領は坂本の御料所(ごりょうしょ)の代官職だけであり、小出石村(こでいしむら)久多荘(くたのしょう)などの山城北部の代官職は俺が購入したものになる。美濃(みの)大垣(おおがき)の御料所の代官職や高島郡の今津(いまづ)の代官職なども俺の手柄で公方様より拝領したものだったりする。

 それを淡路家から和泉家へ移行するのかどうなのかは少し厄介な問題となった。


 結局、細川藤孝が管理する所領については公方様の裁定により、淡路細川家の所領ではなく、細川藤孝個人に属するものとされた。

 代わりに淡路細川家には高島郡の御料所のうちであらたに代官職を与えることで妥協せよとされたのである。


 細川藤孝の家臣についても同様の措置で、細川藤孝個人の家臣という面が強いため、俺に連れられて淡路家を離れることとなった。

 ただし、細川晴広は内談衆(ないだんしゅう)に任じられることが内定しているし、淡路細川家は江口の戦いでボロボロになってもいるので、十分に俺に援助するようにとも言われた。

 俺としても養子縁組を解消したからもう知らね、とは言いたくないので元義父にはこれからも援助することを約束した。


 そして、公方様の御前で俺と細川元常とが養子縁組をして、細川藤孝の和泉細川家の家督相続が承認されることになった。また併せて公方様より俺の和泉守護職就任の内定も言い渡された。実際の就任は大御所の喪が明けてからということになる。


 御部屋衆(おへやしゅう)から御供衆(おともしゅう)、御供衆から和泉守護職にと、幕府内での地位を着実に上げ、順調に出世しているように見えるのだが、ぶっちゃけると実権はないのでただの肩書きだけだったりする。


 しかし……隠居する細川元常に細川晴貞と永源庵(えいげんあん)で療養する細川頼勝とまだ若年の義理の弟に、立て直し中の和泉細川家とその郎党達。ボロボロの淡路細川家と生まれたばかりの赤子の後見もしなくてはならないわけだ……なにやら重荷ばかりが増えてしまったなぁと思うのである。


 ◆


 俺の和泉上守護細川家の家督相続を祝う(うたげ)勝軍山(しょうぐんやま)城内で行われた。大御所の喪中であるのでささやかにではあるが――


「細川一門の惣領たるわしに何の相談も無いのはいかがなものであるか!」


「喪中に宴とはけしからんでおじゃる」


「何が守護じゃ、こわっぱが偉そうに」


 何やら嫌味を言ってくる輩も少なくは無かったが、大多数の幕臣は祝ってくれた。

 織田信長や斎藤道三(さいとうどうさん)朝倉宗滴(あさくらそうてき)なども祝意の手紙を送ってもくれたし、懇意にしている商家(しょうか)たちも献上品などを持って祝いに来てくれた。


 何より義藤さまが笑顔で祝ってくれたことがこの上なく嬉しいものであった。

 だが、宴の席で誰が飲ませたのか知らないが、義藤さまが()()を飲んでしまって盛大に酔っ払ってしまったことで焦りまくることになる。


「こりゃ藤孝、わしをどこに連れて行こうとしておるのだ?」


 隙を見て、義藤さまを宴会場から連れ出し、部屋に返そうとするのだが、酔っ払った義藤さまは非常に面相臭いのである。


「はいはい、酔っ払ってしまって醜態を晒してしまっては困るので、お姫様はおとなしくお部屋に帰りましょうねえ」


「いやじゃ。わしはまだ宴を楽しみたい」


「義藤さまは喪中でありますので、あまりはしゃぐのはマズイですよねえ」


「いやじゃ。宴会好きの父上なら赦してくれるはずだ。わしはもそっとそなたの出世を祝いたい」


「細川晴元とか伊勢貞孝(いせさだたか)とか面倒くさい人もおりますれば、ハメをはずしてはマズイですよねぇ」


「いやじゃ。わしは将軍様なのじゃ五月蝿く言うやつは手打ちにいたす」


 酔っ払って京兆家当主や政所執事(まんどころしつじ)を手打ちにするような、室町幕府最高の暗君に俺は仕えたつもりはないぞ。


「それでは少しお散歩でもして、酔いを醒ましてから戻りましょうねえ」


「いやじゃ。わしは早く美味い物をもっと食べたい」


 どうすりゃいいねん、この悪酔(わるよ)い暴れん坊将軍は……だがそこに救世主(メシア)が颯爽と現れた。


「あらあら義藤さまにも困ったものねえ」


「義藤さま? 大丈夫でありますか?」


 現れたのは玉栄(ぎょくえい)姐さんと、もう一人これまたボインボインの女性だった。


「玉栄さま、義藤さまは甘酒を飲んで酔っ払ってしまったようでして」


「大丈夫よ、私におまかせあれ。義藤さま、これは薬です。これを呑めばまた宴に戻れて美味しいものが食べれますよー」


「む、そうか。美味しいものが食べられるなら飲んでもよいぞ」


 グビグビ――「スピー……」


 義藤さまは玉栄姐さんが「薬」と称する物を飲ませたら一瞬で寝てしまった……いったい何を飲ませたんだよ……


「ご心配なく。()()()()()よ。義藤さまはいつもお酒を飲むと一瞬で寝てしまうの」


 未成年飲酒ではあるが、この時代にはそれを取り締まる法律がそもそもないので無罪であろう。


「はぁ、大丈夫ですかね」


「義藤さまは私たちが御部屋までお連れしますので、藤孝殿は宴にお戻りくださいな。主賓がいつまでも不在では困りますでしょう」


「それは助かりますが、その……」


「あなた馬鹿なの? 公方様が部屋に戻ったことを皆に伝えないと公方様を探しに来てしまうわよ?」


 もう一人の女性も玉栄姐さんに負けじと美人なのだが、性格は玉栄姐さんよりもっとキツかった。

 年齢は玉栄姐さんより下で俺と同じくらいであろうか……


「藤孝殿、この御方も義藤さまのことは存じておりますのでご安心下さい」


「私は義藤さまの従姉妹なのよ。あなたなんかより義藤さまのことは私のほうがよっぽど知ってるわ。ほら、さっさと宴に戻りなさい。グズは嫌いよ」


 義藤さまの従姉妹だと? だ、誰だよいったい……


「そうそう、良いことを教えてあげる。お酒を飲んで寝てしまった義藤さまは、しばらくすると起きるのだけど、起きたらとんでもなく甘えん坊になって()()()()してくるから、すんごく可愛いのよー。今度二人っきりの時に試してみると良いわよ? それじゃあねえ」


「玉栄姐さん、そんなことをこんな男におしえたら――」


「――は?」


 二人は義藤さまを連れて、天守閣にある義藤さまの部屋へと行ってしまった。

 しかし、去り際に玉栄姐さんはとんでもないことをぶちかまして行きやがったな。それに義藤さまの従姉妹とかいう女性は誰なんだよもう……


 仕方が無く宴に戻った俺であったがキツイ性格の女性やら、甘えん坊の義藤さまはどれだけ可愛いんだろうとか、いろいろ考えてしまって宴なんぞそっちのけで、悶々と過ごすことになってしまうのであった――

なんだか体が疲れまくってて昨日投稿できなかった……

最近PV増えてるしブクマも評価も貰えて嬉しいので

頑張って書いてたんですが、ごめんなさいでした

無理のない範囲で頑張りますので応援おねがいします


次の展開はまたマニアックな武将が登場する感じかなぁ

史料を再確認してますが、需要ないよなぁ……

また例によってそこまで話が行けない可能性もあるけど(爆

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[良い点] 豚と呼ばれそうなS気なの登場 果たして子作り出来る仮面被れるのかww
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