第六十九話 義藤さまのターン(2)
【義藤さまのターン(1)の続き】
◆
「ん――」
びっくりして抵抗しようとするのだが、義藤さまの目をみると泣いていたのだ。
その目を見て、俺は抵抗をあきらめた。長いような短いような口付けというかキスが終わる――
「無理をするでない」
涙目でキスされて、そんなことを言われてしまっては……観念するしかなかった。
俺も泣いてしまっていた……
「焦ってる? 無理をしている? そんなの焦るに決まっているじゃないか! 三好長慶は3万以上の兵なんだ! 6千を揃えられただって? 6千で3万に勝てるかぁぁ! 無理を、無茶をするしかないじゃないか。幕府は弱すぎるんだ……無理やりにでも高島郡を攻めて幕府の領土にしないと、朽木家も忠実な手足にして交易路を確保しなければならなかったんだ……どこかで無茶をしなければ、悪人になってでも幕府を強くしなければ、幕府は滅びるしかないんだぁぁぁ!」
戦国時代において弱小勢力がのし上る為にはどこかで無茶なことをしなければならないと思っていた。
梟雄とされる宇喜多直家などは主家の追放に親類の暗殺などで成り上がったではないか。
織田信長も尾張国内をまとめるために弟を暗殺してもいる。
幕府を立て直すためには、義藤さまを救うためには、三好長慶と戦うためには、もう悪人にならなければ間に合わないと焦っていた。戦国の世では悪人になる必要があるのだと……善人のままでは幕府は滅ぶしかないのだと……だが、無理して悪人になろうとしていた俺を義藤さまは……
「三好が如きと戦えぬそんな幕府なぞ滅ぶがよいのじゃ!」
「それでは義藤さまを救うことができませぬ!」
涙と鼻水でグジュグジュになりながら義藤さまに訴える。
「わしはそなたに無理させてまで救われたいとは思わぬのじゃ」
「そんな……義藤さまを救いたくて僕は今まで頑張ってきたんだ」
「与一郎はよく頑張ってくれている。わらわはちゃんと分かっておる」
「で、でも義藤さまが死ぬなんて僕は嫌なんだぁぁぁ」
「わらわはそなたが壊れてしまう方が怖いのじゃ」
子供みたいに泣きじゃくってしまう。もう無茶苦茶だ。歳下の女の子に抱かれてキスされて泣きじゃくって、格好悪いったらありゃしない。
15歳の女の子と17歳の男の子が二人、ただ、ただ、抱き合いながら泣いていた。
戦国の世では大人とされる年齢であるのだが、俺はまだ大人にはなりきれていなかったのであろうか……生まれ変わる前の現代ではおっさんだった気がするのだが、身体とともに精神も子供に戻ってしまったようではないか。
まだ少女としか思っていなかった義藤さまのほうがはるかに大人であったのかもしれない……
転生者であっても中身はただの歴史マニアの普通の人なのだ。
そんな普通の人がこの戦国乱世においてのし上った化け物と同じ事をやるのは、化け物らと張り合っていこうというのは……なかなかキツイものがある。
現代の知識があるということは現代の倫理感を持っているということでもある。
子供を普通に殺すとか、一城を撫で斬りにするとか、親類を殺すとか……現代の普通の人には簡単にできるものではないのだ。
やはり自分に無理を強いていたのだろう……悪夢にうなされ熱を出して寝込んでしまった……そんな俺を義藤さまは心配して癒してくれた……俺はまた義藤さまに救われたのだ。
義藤さまの温もりを感じながら、俺は俺のやり方でやっていこうと思い直すのである。戦国の化け物達とは違ったやり方があるかもしれないではないか――
◆
しばらく二人で泣きじゃくったあと。俺は洗いざらい白状させられた。
最初は抵抗しようとも思ったのだが、膝枕をされて俺の心の小田原城はあっさり落城した。
朽木家と高島家が河上荘を巡って対立していることを知り、高島郡に介入するチャンスと考えたこと。
高島七頭を京極と通じる謀反者と強引に断じて、無理やりでも高島郡を御料所としてしまおうと計画したこと。
京極高延や三好長慶と高島七頭が通じていることにして、文句を言ってくる六角家を黙らせるためにいろいろ工作していること。
山崎家や永田家に横山家は恐らく幕府に敵対する気はなかったであろうが、奉公衆に所領を与えるため、彼らに弁明の機会を与えないために速戦で問答無用で城を落としたこと。
公方様に良く仕えており、蕎麦の取引などで親交があった朽木藤綱を朽木家の当主にするため、朽木家に家督争いを起こそうと朽木家中を挑発したこと。
朽木家中の宮川家などが暴発したので朽木藤綱と協力して攻め滅ぼそうとしたこと。
家中の基盤が弱い朽木藤綱のために朽木竹若丸を排除し、それを貸しとして朽木藤綱に恩を着せ、九里半街道の交易路を確保しようとしていること。
強引に攻め滅ぼした永田家や山崎家に横山家、それに朽木竹若丸や宮川家など強引に滅ぼしたものらの悪夢を見てうなされ、熱まで出して寝込んでしまったこと……自分が忘れていたことまでなぜか白状させられた。
(義藤さまがちょっとエッチなスキルをオープン。藤孝の煩悩にダイレクトアタック! ずっと義藤さまのターン!)
膝枕から柔らか首四の字固めという「ふとももホールド」に移行して、さらに縦四方固めという「おっぱいホールド」を決められるにいたり、俺はすっかりメロメロになり全てを白状させられたのだわ。
いかん。これでは尻に敷かれた亭主ではないか……義藤さまの尻に敷かれるとか天国か?
「まあ、だいたい分かった。高島攻めの大義名分や六角家への言い逃れとするに京極高延や三好長慶は都合が良いであろう。どうせ建前じゃからな。そのままで良いだろう」
「はぁ……」
少しお触りをしたら思いっきり怒られて、今は正座姿で反省させられている俺である。散々エロいことされて、辛抱たまらずにコッチからお触りしたら激怒されるとか理不尽極まりないぞ。
「山崎や永田らには悪いが彼らは京極に通じておったので討伐したことでよいだろう。ただ、田中家の降伏条件である田中重茂の首まではもう必要あるまい。不必要に飛鳥井家の者を虐げては今後の関係修復が困難になるであろう」
「ですが田中重茂からことの顛末が知れ渡る恐れが」
「京極に通じていたのは田中頼長でよいだろう。それに京極うんぬんは六角家への言い逃れで建前に過ぎぬではないか、しらばっくれればよい。六角定頼とは一時険悪になるかも知れぬが、どうせ何か手は考えているのであろう?」
「嫡男の六角義賢殿とは日置流吉田家という伝手がありますれば、義賢殿を通じて関係修復を行う予定であります。それと海津の代官や田屋家を攻め滅ぼしたあとは田屋領の代官も六角家に譲り渡し、江北水運の利権は六角家に任すこと事を考えておりました」
「ならば田中重茂を飛鳥井家に戻しても問題はあるまい。田中家との和睦であるが、田中頼長は剃髪して隠居で済ますがよい。無理に命を奪う必要はあるまいて。田中家の次の家督はどのように交渉しているのだ?」
「朽木成綱を田中頼長の養子とするべく交渉しております」
「抜け目ないな。それであれば朽木稙綱と朽木家中も朽木竹若丸の件で文句は言うまい。それで話を進めるがよい」
「田中家中も公卿の飛鳥井家からの養子よりも、同族の朽木家からの養子を歓迎している向きがあるようです。朽木成綱の養子入りは良き話となるかと」
「あとは高島攻めであるか。そういえばそなたの姉上が逃れて来ておるが、そなたは知っておったか?」
「私が寝ている間に参ったのでしょうか? 来ていたことは存じてはいませんが、姉上とはそのように算段はしておりました」
「そなたの父の三淵晴員殿が話を聞いておるが、高島家の兵の配置や城の縄張りをよく調べておいでのようだ。そなたと同じく姉上も抜け目がないようだな」
「恐れいります」
というか義藤さまの聡明さに恐れ入りまくりである。食いしん坊将軍はどこへいったのだ?
義藤さまはニュータイプにでも覚醒したのか? 義藤さまには難しいはずの政治の話が出来てしまってるぞ。
「内情が筒抜けなのじゃ。そなたとわしがここに居ても清水山城を落とすことは容易いであろう。そなたは大人しく養生しているがよいのだ」
「義藤さまも私と一緒にこの岩神館に留まるのですか?」
「そなたと一緒に居たい……と申したら迷惑であるのか?」
「そ、そのようなことは」
妖艶に色目まで使われてしまい、もうタジタジである。
「ではしばしの間、わしとここで話をするのが良いのじゃ。そなたとはもっと話をする必要があると思っている。そなたが幕府のためにと、わしのためにと考えていることを洗いざらい白状するがよいぞ」
ちょっとエッチな尋問を続行されたら黙秘権を行使する自信が俺には無い。
「お手柔らかにお願いします」
おぱーいもふとももも柔らかくて天国にいけるぞ。
「時間はたっぷりあるのじゃ。覚悟いたすがよい」
だが残念ながら嬉し恥ずかし「ラブラブ尋問」は長くは続かないのである。
一晩寝たら体調が回復したというか元気になりすぎたので、改めて義藤さまと清水山城攻めに出陣したからだ。
ちょっとエッチな義藤さまはお好きですか?
作者は大好物なのですが、15禁ですらないので
微エロしかでませんが……
ラブコメがタイトル詐欺なのでラブコメ頑張りたいけど
これ以上は展開しずらいのです
いっそタイトルからラブコメは取るかな
やるなと言われてもラブコメはぶち込みますけど




