第六十七話 届く凶報(2)
【届く凶報(1)の続き】
◆
「京極高延に通じる高島越中や田中などの叛徒共を討つべく、公方様に合力するため馳せ参じました!」という平井秀名の言は公方様や幕府軍を大いに喜ばせた。
高島七頭の結束が崩れたことで幕府軍の士気は大いに上がった。さらには大和晴完が後続部隊を率いて合流したこともあり、幕府軍はイケイケモードに突入してしまった。煽らなくても喜んで城攻めに燃えてくれているので指揮する方としては楽で助かる。
(高島七頭はもともと結束なんてしてませんでしたが)
幕府に敵対する賊軍と見なされてしまったのか、田中頼長は思うように手勢を集められなかったようである。
2,000程度は率いると見積もっていたのだが、1,000余りの兵で田中城(上の城)に籠もっている。
後続部隊と平井家の手勢が合流した幕府軍は5,000弱の兵力となっており、1,000ちょっとの田中城では脅威にならない。
田中城に近く攻めやすい平城の横山城を先に攻めることにした。
田中城に押さえの兵を置き、その田中城から南に6町(約650m)の距離しか離れていない高島七頭の横山伊予守が治める横山城に攻めかかった。
横山伊予守は平城の横山城を捨てて逃亡し、横山城からさらに南に12町(1.2km)にある山城の武曾城へ立て篭もるのだが、最早その手勢は500にも満たなくなっている。
「田中も横山も山城に籠もったようであるが、どちらを攻めるのじゃ?」
「横山伊予守が籠もる武曾城の方が規模も小さく、籠もる兵も少ないようです。攻めるなら楽な方が良いでしょう」
「楽な方ばかり選んで良いものなのか?」
「戦って倒したからといって経験値が手に入ってレベルが上がるわけではありませぬ。兵の損失を考えれば攻めやすきを攻めるべきでしょう」
「あいかわらずお主の言うことは意味が分からぬが、武曾城を攻めるのだな。山城で攻めるに難しいと思うが何か手があるのか?」
「御安心下さい。こんなこともあろうかと城攻めの新兵器を持参しております」
「新兵器とな?」
「はい。これを城に投げ込みまする――」
戦国時代において使われた武器で敵に最も損害を与えた武器は実は「弓」である。ついで「鉄砲」が2番目とされ、3番目が「槍」になり、4番目は「石」だという。ただ石を投げるだけの攻撃が刀よりも損害を与えているのだ。
恐らく戦国時代で一番有名なのは、甲斐武田家の小山田信茂が率いる小山田投石隊であろう。だが小山田投石隊は後世の創作だったというオチがあったりするのだが、戦場において投石が立派な攻撃手段であったことは間違いない。
投石攻撃は立派に通用する攻撃手段なわけなので、むろん我が郎党たちにも投石はしっかりと訓練させてきた。
体重移動や身体の開きによる回転運動、それに腕のしなりと、正しい握りとスナップによる球への回転の付与――現代の野球理論に基づくピッチングフォームを取り入れた非常に科学的な投石訓練を実施しているのだ。
禁断のツボにハリ治療を施すなどの厳しい訓練を乗り越え、我が郎党の中でも抜群の遠投能力を持つことになった者を5人選抜して連れて来た。
江川、江夏、新庄、一郎、荒烈駆主の5人である。(甲子園とか広島市民球場にグリーンスタジアム神戸あたりで活躍してそうですが、むろん仮名です)
しかもコイツらに今回投げさせるのはただの石ではない。新兵器として開発した焙烙火矢(焙烙玉)である。(パクリです)
焙烙火矢は焙烙という素焼きの土器や陶器などに火薬を詰めたもので導火線に点火して投げ込んで攻撃する現代の手榴弾のような兵器だ。爆発による焙烙の破片や炎による延焼で敵を殺傷するのだが威力自体はそれほど高くはないのだが、こけおどしにはなる。
用意した焙烙火矢に火を付け、5人が得意の鉄砲肩でスローイングする。焙烙火矢はまさにレーザービームの如く飛んで行った。
ドカーン!×5
敵城に放り込まれた焙烙火矢が爆発する。音と飛び散る破片により敵兵が混乱した。
「突撃じゃあ!」
その好機に米田求政の号令で破城槌を抱えた突撃隊が城門に突貫する。
城の大手門があっけなく破壊され味方の兵がなだれ込んでいく。敵はそれを迎え撃とうとするが、さらに2投目の焙烙火矢が投げ込まれ、混乱の渦中で敵兵は討ち取られていった。
どうやら勝負は決したようだな。
「申し上げます! 敵城主の横山伊予守久徳ら横山一族は自害して果てたとのことであります」
使い番として働いている柳沢元政が横山一族の族滅を伝えて来る。
「元政、平井頼氏殿に横山伊予守殿の亡骸を検めさせるよう伝えてくれ。横山伊予守殿とは面識があるだろうからな。それが済んだら大和晴完殿に丁重に葬るよう伝えてくれ。横山家は幕府の外様衆であったのだ。疎かに扱わぬよう厳命すると伝えるべし」
「ははっ」
「すまぬ、藤孝……わしが言わねばならぬことであったのに」
「いえ、公方様は初陣にございます。始めから全て上手く為そうとは考えなくてよろしいかと。そのための我ら家臣でございますれば」
「ん、そうだな。頼みにしておる」
「さあ、次は田中城攻めにございます。田中城はさすがに堅城でございますれば、じっくりと攻めましょうか」
◆
高島七頭のうち、永田家、山崎家、横山家はすでに滅び去った。平井は幕府軍に合流しており、残るは高島家と田中家、そして朽木家になる。この三家が家格や実力からして高島七頭のベスト3になる。
そのうちの朽木家に関しては前当主の朽木稙綱が内談衆として重く用いられていたことと、朽木藤綱、成綱兄弟は公方様に側仕えしていることもあり元から幕府の味方であると言ってよい。
すでに幕府軍の包囲下にある田中城の田中頼長を下せば、残るは西佐々木の嫡流として高島郡で最強であろう高島家のみになる。
むろん高島郡には高島七頭以外の勢力も居る。高島郡の北方に勢力を持ち、浅井家の一門でもある田屋城の田屋明政(浅井亮政の娘婿)や、延暦寺山門領木津荘の代官出身の豪族である吉武(饗庭)氏などだが、この辺ものちほど攻める予定だ。
だがとりあえずは田中城の攻略だ。横山城を本陣にしてすでに田中城の包囲は完成している。だが1,000人が籠もる山城を攻めるのはさすがに損害が怖い。城攻めが続き兵も消耗しており、焙烙火矢といった新兵器もあることだから、ここは数日掛けて前に使った音攻めをしようと思う。
「の、のう藤孝。その……わしも先ほどの焙烙火矢を投げさせてはくれまいか?」
音攻めにて田中城を攻めることを軍議で決したあと、義藤さまが目をキラキラさせながらお茶目なことを言い出した。
「は? 義藤さまがですか? いけません! そんな危ないことはさせられません」
「1度だけじゃ、1度だけでいいのじゃ。わしもあのボカーンというのをやってみたいのじゃ」――おのれは子供かよ。(数えで15歳です)
「遊びじゃありませんのでダメです!」
「頼む藤孝、何でも言うこと聞くからお願いじゃ」
ん? 何でも? 何でも言うことを聞くと言ったのか?
それはアレか? もしかしたら体操服を着てくれと言っても怒らないということか?
いや、しかし。焙烙火矢はなかなか危険な代物だ。こんなものを義藤さまが扱って怪我でもしたら、それに間違って被害が出ないとも限らない……被害とブルマか、どちらを取るかなんて……そんなものは考えるまでもないだろう。
「い、1回だけですよ?」――こうして俺はブルマのために悪魔に魂を売った。
敵の城に投げ入れるとかするのは危ないので、訓練という名目で敵兵が居ない後方の安全な場所の何もない場所に向けて投げてもらうことにした。
「それ、いっくぞー!」――すごく楽しそうで微笑ましい。
ポーイ
だが、義藤さまの滅茶苦茶なトルネード投法から放たれた焙烙火矢はあらぬ方向へ飛んでいった。
しまった、投げ方を教える口実で手取り足取りいろいろお触りしながら教えれば良かったと思ったりしたがあとの祭りである。
ドッカーン!
「ぎゃあ! なんじゃあ」
「うわぁ、小荷駄が燃えておるぞー」
「誰だー、こんな所に焙烙火矢を投げこんだ馬鹿者はー!」
間違いなく「ノーコン将軍」の称号を得るであろう義藤さまの大暴投により、幕府軍の後方は被害甚大の大惨事で阿鼻叫喚となった。許せ、ブルマのためには必要な犠牲であったのだ。
「大変だぁぁぁ! 兵部大輔様の衣装櫃が燃えているぞー」
ん? 俺の衣装櫃だと?
「ちょっおまっ――その中には体操服が入っているんじゃあぁぁぁ! ブルマ姿でにゃんにゃんがぁぁぁ!」
泣き叫びながら衣装櫃の消火活動を行うのだが残念ながら体操着は燃え尽きてしまったとさ……犠牲にしたつもりが犠牲になったのはブルマの方であった……こうしてエロい惨事は未然に防がれたのである。
――このように幕府軍は至極マジメに田中城を一生懸命包囲していたのであるが、そこに凶報が届き事態が大きく変わるのであった。
「佐々木出羽殿(朽木)と佐々木越中殿(高島)が河上荘の俵山にて合戦に及び、宮内少輔晴綱殿と古川正賢殿が討死したとのよし」
朽木稙綱の嫡子で朽木家当主の朽木晴綱が討死したとの凶報を受けた幕府軍は、田中城の囲みを解き、急ぎ朽木谷へと進軍することになるのだ――
稽古に行くので急ぎ更新
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やる気がみなぎっテルマエロマエ