表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

135/208

第六十一話 義藤さまのヒミツ(3)

【義藤さまのヒミツ(2)の続き】

 ◆


 伯母上が義藤さまのお世話をするという女性を連れて来た。20代前半くらいのボイーンでグラマラスな女性だった。雰囲気もとても妖艶(ようえん)でエロチックで困る。

 義藤さまとは顔見知りのようなのか、今は二人で話をしている。


「伯母上、あの方は?」


「公方様に女房として仕えることになった玉栄(ぎょくえい)様よ。尼さんだったのだけど相談したら還俗(げんぞく)してもいいっていうから連れて来ちゃった。(テヘペロ)太閤殿下の娘さまだから失礼のないようにね。そうそう良い人がいたらお嫁にも行きたいって言っていたから紹介してちょうだい」


「太閤殿下の娘とか、嫁にするには家格が難しいでしょうが……無茶いわんでください。それにそんなに簡単に還俗して尼さん辞めていいのですか?」


「いいのよ。必要だったらまた出家すればいいんだから」


「そんな乱暴な……」


【この玉栄という女性は史実でいうところの慶福院(けいふくいん)花屋玉栄(かおくぎょくえい)になります。女性の実名はよく分からないので玉栄(ぎょくえい)様で】


************************************************************

慶福院(けいふくいん)花屋玉栄(かおくぎょくえい)尼門跡(あまもんぜき)寺院」


 慶福院(けいふくいん)花屋玉栄(かおくぎょくえい)近衛稙家(このえたねいえ)の娘とされる。源氏物語をよく学んだ文芸に秀でた女性であり、「源氏花屋抄(げんじかおくしょう)」や「玉栄集(ぎょくえいしゅう)」という「源氏物語」の注釈書を書き残している。

 晩年には豊臣秀吉に源氏物語を教えたとされるのだが、それ以外はサッパリ謎の人。恐らくは尼門跡(あまもんぜき)であり、どこかの尼門跡寺院(あまもんぜきじいん)に入寺して出家していると思われるのだが、調べたけどドコなのかが分からない。


 尼門跡寺院は皇族や公家、将軍家の息女が入寺して住持(じゅうじ)(住職)となった寺院であり、当時は「比丘尼御所(びくにごしょ)」と呼ばれた。尼門跡は昭和になってからの呼称である。


 尼門跡寺院には大聖寺門跡(だいしょうじもんぜき)御寺御所(おてらごしょ))、宝鏡寺門跡(ほうきょうじもんぜき)百々御所(どどのごしょ))、慈受院門跡(じじゅいんもんぜき)宝慈院門跡(ほうじいんもんぜき)三時知恩寺(さんじちおんじ)門跡(もんぜき)入江御所(いりえごしょ))、光照院(こうしょういん)門跡(もんぜき)常磐御所(ときわごしょ))、本光院門跡(ほんこういんもんぜき)西方尼寺(さいほうにじ))、曇華院門跡(どんけいんもんぜき)法華寺門跡(ほっけじもんぜき)中宮寺門跡(ちゅうぐうじもんぜき)尼五山(あまござん)景愛寺(けいあいじ)などがある。

 公家の日記などに出てくる入江殿や常磐殿などは尼門跡を指しているのだろう。


 足利将軍家や近衛家の関係では、近衛稙家と慶寿院(けいじゅいん)の姉妹である「花屋理春(かおくりしゅん)」が宝鏡寺17世住持になっている。

 近衛稙家の娘の秀山尊性は光照院に入寺。

 足利義晴の娘の理源は宝鏡寺に入寺したが、のちに還俗して三好義継(みよしよしつぐ)の正室になっている。

 また足利義輝の娘である耀山が宝鏡寺18世住持になるなど、この時代の多くの者が尼門跡寺院に入寺していたりする。


 当時は摂関家や将軍家の子の多くが門跡や尼門跡になるなど、非常に仏教と近い関係にあったことを押える必要があるだろう。この時代は仏教界も結局は血筋がものを言う時代でもあったわけだ。


 尼門跡寺院って修道院のような何か秘密の花園のような気がするけど、あまり一般公開はしていないそうなので、見学は慎重にするがよいと思われます。


 ――謎の作者細川幽童著「どうでも良い戦国の知識」より

************************************************************


「彼女なら公方様や叔母(慶寿院(けいじゅいん))の事情も知っているし適任でしょう」


「そうですね。とりあえず彼女に自分を紹介してください」


「あら、玉栄(ぎょくえい)ちゃんのお婿さんに立候補する気? 姉さん女房が好みなのかしらぁ」


「勘弁してください……」


 正直いうと伯母上はこう下世話な人だから苦手で普段はあまり側に寄らないようにしていた。三淵(みつぶち)家にとっても幕府にとっても偉大なおばさんだけど……


「玉栄様、こちらが――」


御供衆(おともしゅう)の細川兵部大輔(ひょうぶだゆう)藤孝と申しま――」


「あら、いい男ね。ちょっとお姉さんと付き合わな〜い?」


 紹介してもらい玉栄さんに挨拶をしたのだが、妖艶に色目を使われてしまった。義藤さまが鬼の形相で俺を睨んでくるのですが……だから勘弁してくれ。


「えっとすいません。私には心に決めた方がおりまして……」


「あら、残念ね。もしかしてその人って公方様のことかしらぁ?」


「玉栄(ねえ)さん!」――義藤さまが真っ赤になって文句を言う。


「冗談よー、あら満更(まんざら)でもないのかしらぁ? 公方様、顔を真っ赤にして可愛いわぁ」


 義藤さまもタジタジである。なにか伯母上が二人になったみたいで胃が痛いが、真っ赤になる義藤さまが可愛いので我慢するとしようかな。


 挨拶は済ませたので、まだ体調が悪そうな義藤さまのお世話を玉栄姐さんに任せて退出しようと義藤さまに声をかける。


「義藤さましばらくは安静にしていてくださいね」


「そうはいかんのではないか? どこかの馬鹿タレが三好長慶を挑発して来たのでな。彼奴等(きやつら)が攻め寄せて来る前にやらねばならぬことが多いのであろう?」


「三好長慶を挑発して来たわけではないのですが……それにまだ三好長慶が攻めてくるまでには時があります。和泉は平定されてしまったようですが、摂津の伊丹(いたみ)城はまだ頑張っております。まあできれば摂津で篭城する伊丹家には御内書(ごないしょ)を書いて欲しくはあるのですが……」


 三好家に最後まで抵抗している伊丹家に武勇を称える御内書を出してもらい、伊丹家の心を幕府に繋ぎ止めたいとは思っていた。


「やはり寝ているわけにはいかんではないか――」


「いいえダメです。幕府のお仕事なんてアホな男どもに任せて義藤さまはお休み下さい。せっかくなんだから私と女の子の会話をしましょうよー。義藤さまー、幕府のいい男を教えてくださいなぁ」


 逃げるように退出する俺に義藤さまが恨めしそうな目を向けてくるが、さっさと退散するのが吉だろう。

 玉栄姐さんって尼さんに戻る気まったくないだろアレ……何か逆に尼さん生活でいろいろ溜まっていないか? 伯母上ではないが、さっさと旦那を紹介したほうが身の為かもしれん。


 天守閣を出たところで、元気にスクワットをしている新二郎に出くわした。この筋肉馬鹿にでも玉栄姐さんを押し付けたいところだが、いかんせん近衛家の内衆の松井家では家格が釣りあわないと諦める。


「どうしただろ? ため息なんぞついて」


 新二郎の能天気な顔を見ながら、幕臣の中によい男がいないものかと思案するのであった――


************************************************************

【参考時系列】

 ・天文5年(1536年)3月、菊幢丸(きくどうまる)(足利義輝)と義藤さま出生。菊幢丸が近衛稙家(このえたねいえ)猶子(ゆうし)に、義藤さまは八瀬(やせ)清光院(せいこういん)佐子局(さこのつぼね))のもとへ養女に出される。


 ・天文5年(1536年)8月、足利義晴が隠居し菊幢丸に家督を譲る。義晴の隠居と菊幢丸の幼少を理由に内談衆(ないだんしゅう)が政務を行う。


 ・天文5年(1536年)10月、菊幢丸死没。足利義晴と近衛稙家が密かに謀り義藤さまを八瀬から迎え、義藤さまが「菊童丸」となる。


 ・天文6年(1537年)11月、千歳丸(ちとせまる)(足利義昭)出生

************************************************************

オチ担当のエロいお姉さんでした

戦がなかなか始まらずに申し訳ないです

文句はなかなか攻めて来ない三好長慶に送っておきます


ブクマが増えておりましてありがたいことです

多くの作者がブックマークで一喜一憂しておりますので

私に限らず少しでも気に入った作品があったら

ブックマークしてあげてください


いつもいつも感想、誤字報告いただき感謝です

次話も頑張ります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでくれてありがとう
下を押してくれると作者が喜びます
小説家になろう 勝手にランキング

アルファポリスにも外部登録しました
cont_access.php?citi_cont_id=274341785&s
ネット小説速報
― 新着の感想 ―
[一言] どうでも良い戦国の知識、がおもしろく興味深かったりする これからもバンバン書いてください
[一言] 花屋抄の人か~ 一級文人に師事出来てた位なだけに機知に富んでたんでしょうね
[一言] 玉栄様。 この時代だと、寺のほうが普通の公家よりよほどいいもの食べていたりするから、バインボインなんですかねw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ