表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

124/208

第五十七話 江口の戦い(2)

【江口の戦い(1)の続き】

 ◆


 ()()うの体で三宅城(みやけじょう)に逃げ帰った三好宗三(みよしそうぞう)と我らであったが、戻ってビックリ玉手箱である。細川晴元(ほそかわはるもと)はすでに逃げ出していた。


 細川晴元の逃げ足の早さは定評があるのだが、あまりにもよい逃げっぷりなので感心してしまった。ただまあ、逃げ出すこと自体は良い判断であろう。三好長慶(みよしながよし)が本気をだして三宅城を攻めてきたらマジでやばいことになるからな。


 自分の勇み足で江口の戦いにおいて敗れた三好宗三もさすがに榎並城(えなみじょう)の後詰めを諦め、細川晴元を追って京へ退却することに同意した。

 榎並城で頑張っていた三好政生(みよしまさなり)には城を放棄して逃亡するように決死の使者を出したようだ。

 十河一存(そごうかずまさ)の軍勢がこの三宅城に迫っているとの報が入ってきたこともあり、休む暇もなく我らは京へ向けて退却を急ぐことになった。


 三宅城を脱出した我らは高槻城(たかつきじょう)三淵晴員(みつぶちはるかず)らの幕府軍の主力や西岡衆と合流して山崎へ、さらに山崎から勝龍寺城(しょうりゅうじじょう)へと退却を重ねたが、すでに細川晴元の姿はなく京へさっさとトンズラしていた。相変わらず逃げ足だけは早いようだ。


 勝龍寺城の城主である細川元常(ほそかわもとつね)はさすがに勝龍寺城に残っていたが、その元常も勝龍寺城を放棄してやはり京へ退却するという。

 我らだけ勝龍寺城に残って頑張っても意味がないので、幕府軍も京へ退却することを父の三淵晴員が決した。


 だが勝龍寺城を退却する前にやるべきことがある。今回協力してくれた西岡衆を集めて感謝の意を表するとともに、彼らにあるものを渡したのだ。


【幕府からのお手紙】(超意訳)

『今までありがとー、みんなの頑張りは忘れないよー。でもごめんねー、幕府軍は京へ逃げぴっぴしまーす。許してちょんまげ。てへぺろ。でもお別れにこれまで頑張ったで賞をあげるねー。幕府の名で知行を安堵しておくからねー。だからー、また機会があったら幕府をよろしくだよー。三淵伊賀守、細川兵部大輔(ひょうぶだゆう)


 西岡衆はこの地に根ざす国人だ。家屋敷(いえやしき)田畑(でんばた)、所領に家臣を捨てて我らのように逃げ出すことはできない。

 そんな彼らに報いるための、彼ら西岡衆の心を幕府に繋ぎとめておくための手紙である。


 それと三好長慶に降伏することをとがめない旨伝えておく。幕府軍に協力したことが問題になった場合に備えて、幕府が出兵を強要・脅迫した証拠となる書状も渡しておいた。西岡衆が三好長慶に滅ぼされても困るからな。

 西岡衆らと話を終えて出立しようとしていたら、竹内李治(たけのうちすえはる)革嶋一宣(かわしまかずのぶ)志水重久(しみずしげひさ)らに呼び止められた。


 竹内李治は弟の竹内秀勝(たけのうちひでかつ)に、革嶋一宣は嫡子の革嶋市之助秀存(ひでまさ)に、それぞれ一部の兵と家臣を預け我らとともに京へ向かわせるというのだ。

 志水重久は嫡子の清水新之允(しんのじょう)を小姓として俺に預けたいという申し出であった。


 西岡に残る本家はとりあえず三好長慶に従うが、弟や子を幕府の味方として、どう転んでも御家の存続ができるように計ろうということなのであろう。心情は分かるし、こちらとしても西岡衆との縁は繋いでおきたいところなので喜んでその申し出を受けた。


 そして和泉上守護(いずみかみしゅご)細川家の面々と一緒に勝龍寺城を退去して洛中へ撤退するのである。なんだか富田(とんだ)の戦いからずっと退却ばっかりやっているような気がするのだが……


 ◆


 無事に洛中に戻ることができたが、すぐに今出川御所(いまでがわごしょ)に呼ばれることになった。今出川御所において公方様と大御所様が臨席され、細川晴元や三好宗三、それに六角義賢(ろっかくよしかた)を交えての今後の対策についての衆議が開かれることになったためだ。

 六角義賢は近江より摂津へ向かうはずだった六角家の本隊を率いて上洛していた。


 敗軍の将であるので、いつもの如く嫌味のひとつも大御所の側近どもに言われることを覚悟して御所に向かったのだが、並み居る諸将からはなぜか絶賛の嵐をぶつけられ、面食らってしまった。


 窮地に陥った義父のため決死の覚悟で救出に向かい、迫りくる三好長慶率いる2万5千の大軍の真っ只中をわずか200の手勢で突撃し、義父のみならず総大将の三好宗三をも守って敵中突破を果たした「(いま)趙子竜(ちょうしりゅう)」の見事な活躍よ。(三国志の長坂(ちょうはん)の戦いにおける超雲(ちょううん)のことですね)


 あるいは、神崎川(かんざきがわ)の河畔で追いすがる三好長慶の大軍に対して立ちはだかり、その軍勢を一喝して追い払った「(いま)張翼徳(ちょうよくとく)」が如き猛将である。(三国志の長坂の戦いにおける張飛(ちょうひ)のことですが、恐らくは三国志演技が主流だと思うので翼徳の(あざな)です)


 など、もうなんだか意味がわからないほどの異名で呼ばれて絶賛されるのであったが、誇張だらけのウソ情報満載ではないか。実態は包囲される前に逃げ出しただけだし、追い払うというよりは見逃してもらっただけだろう。


 だが後世にはこんなウソ情報がまことしやかに伝わってしまい、細川藤孝の伝説の一つとして「江口の退()(ぐち)」とか呼ばれことになるのだが、それはまあ未来の話だし俺の所為(せい)ではない。


 榎並城の救援は出来なかったうえ、細川晴元と三好宗三は摂津の地盤をことごとく三好長慶に奪われることになったわけだし、三好宗三が率いて出撃した細川京兆家の主力の半数以上は討ち取られ、京兆家の奉行衆である高畠長直など細川晴元政権を支えてきた者の多くが帰らぬ人となった。


 我ら淡路細川家も細川晴広(ほそかわはるひろ)が率いた本隊はほぼ壊滅し、藤孝の愛した郎党もその4分の1にあたる100名以上が帰らないという大損害を受けている。


 三好宗三や新庄直昌(しんじょうなおまさ)などは生き残ることが出来たが、結果として大惨敗を喫したことには変わりがないのだ。

 敗軍の将の一人でしかない俺を英雄だと持ち上げてウサを晴らしていてもしょうがないと思うのだが……

 だがこのわけの分からない過大評価が会議の行方には幸いとなった。三好長慶に対抗する策として北白川城への篭城を提案したのだが――


「おお、さすがは今子竜(いましりゅう)殿の策だな」


今翼徳(いまよくとく)殿の意見には聞くべきことがあるでおじゃるな」


「攻め兵部殿の考えならば上手くいくであろう」


「北白川城に目をつけるとは逃げ兵部殿の慧眼(けいがん)には恐れ入る」


「よくぞ言ったぞ、こわっぱ!」


 などと絶賛されてしまうのだ。戦に出る前は謀反者扱いだったはずなのにコレである。なんというか見事な手のひら返しを見ましたわ……


 細川晴元も三好宗三も結局は俺の意見に賛同し、六角義賢も北白川城の明け渡しに同意したのである。

 伊勢貞孝(いせさだたか)は洛中退去に反対する意見を述べていたが、公方様による事前の根回しも功を奏して、大御所も北白川城への篭城に同意したため、会議の結論としては北白川城に篭城することに決した。


 ◆


「藤孝……とにかく無事に戻って安心したぞ」


 近衛(このえ)家が文句を言ってこなくなったので義藤さまの自室に通うことも問題なくできるようなった。武名を上げてみるものである。


「はっ、ご心配をお掛けして申し訳ありません」


「まったくじゃ。単騎で万の敵中を突破するとか無謀にもほどがあるぞ」


「義藤さままでそんな変な噂話を信じないでください」


「噂話なのか? そなたは江口の戦いで獅子奮迅の槍働きをしたのであろう?」


「だから私は趙雲じゃないので、そんな豪傑みたいなことはやっておりません。噂に尾鰭(おひれ)がついて人魚並みの尻尾になっているだけです」


「そうなのか? まあ良い。だが手柄は手柄じゃ。わしからその方に褒美を(つか)わそう。受け取るがよいぞ」


 ニコニコ顔で差し出してくるのだが、恐ろしく立派な代物に見えるのですけど……


「これは?」


大典太光世(おおでんたみつよ)と申す太刀(たち)じゃ。そなたのような豪の者が持つに相応しい太刀であろう? 安心せよ大御所からも許可はとってあるぞ」


 それ天下五剣(てんかごけん)だから! 国宝だから! そんな簡単に下賜(かし)して良いものじゃないから。つーか、大御所も大典太(おおでんた)を褒美にするとか許してんじゃねーよ。相変わらずの親バカか!


「公方様、そのような褒美は不要にございます。私が褒美目当てに義藤さまにお仕えしていると(おぼ)()しでありますのか?」


「む、気に入らぬというのか?」


「有り(てい)に云えば……」


「わ、わしはそなたが武名をあげたのが嬉しくて、何かそなたの労に報いたかっただけなのじゃ。そ、そんなに怒るでない」


 あ、やばい。涙目だ。


「で、では……義藤さまより頂戴したきものがございます」


「む? それはなんじゃ。そなたの望みなら何でもやるぞ。何が欲しいというのじゃ?」


「それでは……義藤さまの膝枕を所望したくあります」


「ん? ん? ん? ひざぁまくら???」


「ではごめんして――」


 おもむろに義藤さまに近づき、ごろんと横になって催促したりする。


「ささ、義藤さま。はよう膝をお貸しくだされ」


「な、なんなのじゃー!」


「いや、ですから、ご褒美に膝枕をして欲しいのでありますが、ダメでございますか? 先ほど何でもやると仰っておいででありましたが?」


「だ……だめでは……ないのじゃが……その、少し恥ずかしい……」


 ぼん! と顔を真っ赤にする義藤さまである。

 しばらく恥ずかしがっていたのだが観念して、膝枕をしやすいように膝をだしてくれる。俺は満面の笑みで義藤さまの膝に頭をのせるのである。

 これで可愛らしい女の子の格好をしてくれれば最高であるのだが、贅沢は敵だ。今日のところは諦めよう。


「つぎの機会には可愛い格好をしての膝枕を所望します」


「そなたというやつは……とんでもない大馬鹿ものじゃ。褒美の太刀より膝枕がよいとか意味が分からぬわ」


 グーにした手をプルプルしているが、殴ってはこなかった。


「そうですかね? 私は天下一の果報者だと思いますが」


「ニコニコしおってからに……そんなにわしの膝枕が良いのか?」


「はい。戦場の疲れが吹き飛びまする」


「まったく……しばらくは許すからゆっくり休むがよい」


「ありがたき幸せ……しかし膝枕をしていただくのは久しぶりでありますなぁ」


「そうじゃな、お主を拾って以来になるかの」


 そういって微笑んでくる義藤さまが可愛くて思わず見つめてしまう。

 恥ずかしくなったのかすぐに顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまうが、そんな仕草も愛らしいのだ。


 この戦国の世に転生して義藤さまにお逢いしたあの日から、想いは変わっていない……義藤さまのためだけに、為すべきことを為すだけなのだ。忌まわしき未来から義藤さまをお救いするために――

 そんなことを決意するのだが義藤さまの膝枕がとても心地よくて、ずっとこのままでいたいと寝返りをしながら思うのである。


「あ……こらっ、う、うごくでない――」

江口の戦いの後始末でした

しばらくは三好長慶と戦うことになるのでしょうが

義藤さまが一緒なのでラブコメ成分には困らないから安心です


ところで三好宗三が生き残るとか初期プロットにはなかった

のですが、どうしましょうかね……(行き当たりばったり)


読んでくれる皆様のお陰で今回も更新できました

いつもありがとうございます♪


ブックマークや感想、誤字報告でかなり癒されております

ついでに「小説家になろう 勝手にランキング」もクリックして

貰えると嬉しいです


作者には癒しが、読者にはイヤラシイが必要なのだ

エッチなのはよろしいと思います!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでくれてありがとう
下を押してくれると作者が喜びます
小説家になろう 勝手にランキング

アルファポリスにも外部登録しました
cont_access.php?citi_cont_id=274341785&s
ネット小説速報
― 新着の感想 ―
[一言] 大損害を出しながらも多大な戦果を挙げたということにしないとまりでいいとこがなかったことになってしまいますからね、幕府方w ヤン・ウェンリーの苦労がちとわかりますな。 そして天下の名刀より…
[良い点] そうです、そうです、こういうのを待っていたんです
[気になる点] こわっぱだし今鳳雛とか、攻め逃げいけるなら韓信とか [一言] イヤラシイってあんた永禄の変が永禄前に起きちゃうw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ