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第五十六話 富田の戦い――VS三好長逸(2)

【富田の戦い――VS三好長逸(1)の続き】

 ◆


 富田(とんだ)の台地のギリギリのところに細川藤孝が率いる淡路細川家の隊が。その北に右翼となる小笠原稙盛ら奉公衆の隊。そして南の左翼は竹内(たけのうち)家や革嶋(かわしま)家らの西岡衆が展開する。

 前方や左方には湿地や深田が広がっており、安威川(あいがわ)の川原にいる敵が進撃するには高槻(たかつき)街道やあぜ道などを通って来るほかなかった。


 我らは接近する敵を遠矢で討ち減らしていけばよいのだ。もっとも通りやすく敵がメインに進軍してくる街道は自慢の鉄砲隊でお出迎えの予定だ。


三階菱(さんかいびし)釘抜(くぎぬき)」の旗を掲げた部隊を中心に敵勢が接近してくる。その敵中央の隊を率いるのが三好長逸(みよしながやす)であろう。

 早くも我が軍右翼の小笠原稙盛が遠矢を撃ちかける。


「阿波の分家のアホウに本家小笠原流の弓矢を食らわせてくれるわ!」


 さすがは小笠原流弓術の宗家の稙盛殿だ。自らも矢を(つが)えて強弓(ごうきゅう)を鳴らす様が本陣からも窺える。その陣には敵と同じ「三階菱に釘抜」の軍旗がはためいている。

 実は三好長慶の阿波三好家は京小笠原家からの分かれであったりする。本家本元の小笠原稙盛殿としては分家如きに負けはしないという思いもあるのであろう。

(三好家との縁からか史実の小笠原稙盛は足利義輝亡きあと、第14代の足利義栄を担いだ三好家の政権に参加してしまって没落したりしている)


 その敵の本隊であろう三好長逸の部隊が街道を突き進んでくるが、こっちは丘上に陣取っているので丸見えだったりする。

 淡路細川家の弓隊を率いる日置流(へきりゅう)弓術の吉田重勝(よしだしげかつ)も小笠原稙盛に負けじと遠矢で迎え撃ち始めた。


 敵は予想通りに深田や湿地を避けて街道を突き進んでくる。そこを我ら自慢の鉄砲隊が迎え撃った。


α(アルファ)隊構え……放てーっ!」――ダーン!


 明智光秀の指揮で1番隊30人の鉄砲が火を噴く。

 何度もいうがこの1549年において鉄砲の集団運用を実戦で行っている部隊はないであろう。敵の先陣がわけも分からず倒れた。だが後続は先陣の屍を越えてさらに突進を仕掛けて来る。


「α隊下がれ、次β(ブラボー)隊構え……放てーっ!」――パパーン!


 続いて2番隊による一斉射撃だ。何の障害物もない街道を進んでくる敵などはいい的である。射撃を終えた1番隊は後方に回り次弾の玉込めを行っている。

 次弾の装填もすでに早合(はやごう)を駆使している我が鉄砲隊はこの時代の最速であると思うぞ。


「β隊後退、次(チャーリー)隊構え……放てーっ!」――ダダーン!


 3連続の射撃にて敵をなぎ倒していくが、それでもなお敵兵は前進してくる。結構な損害だと思うのだが、さすがは三好長逸といったところか、兵の士気が高いようだ。


 続いて玉込めの終わった1番隊が一斉射撃を行い、あとはそれを繰り返すだけである。α隊、β隊、C隊ともに30人構成で合計90が現在の鉄砲隊の数になる。


 織田信長の「長篠(ながしの)の戦い」の三段撃ちのパクリだって?

 失礼なことは言わないで欲しい。そんな有ったのか無かったのかよく分からないような怪しい三段撃ちと一緒にはしないで貰いたい。


 我が鉄砲隊が訓練のすえ習得した戦法は、「反転行進(はんてんこうしん)射撃(しゃげき)」いわゆる「カウンター・マーチ」だ。

 カウンター・マーチはオランダ総督のマウリッツが考案したとされる戦術であり、1600年代のヨーロッパにおけるトレンドとなった。(50年以上は先取りしておりますね)


「反転行進射撃」は鉄砲隊を何隊かに分け、まず1番隊が一斉射撃を行う。射撃の終わった隊は次の隊の射撃中に最後尾に下がり、再び隊列を組みながら次弾を装填する。あとはそれを繰り返すことで連続した一斉射撃を行うことが可能になる画期的な戦法なのだ。


 ……うん、皆が普通に思っている長篠の三段撃ちとあんまり変わり映えはしないと思うのだが、なんとなく「反転行進射撃」と言った方が、「三段撃ち」よりカッコよいとは思わないかね?


 唯一の進撃路である街道を突き進んでくる敵兵に対して一斉射撃を行うのだが、こういった特に狙いを定めずに撃てる戦況下ではカウンター・マーチの戦法は非常に有効だったりする。


 とにかく交代しながら水平一斉射をすれば良いだけだからな。鉄砲奉行の明智光秀の指揮も大分慣れてきて、向かってくる敵兵は次々と倒れていく。その様は旅順要塞(りょじゅんようさい)に突撃しまくって無駄に(しかばね)(さら)した日本兵のようなものだ。

 局所的な防衛戦においてカウンター・マーチで鉄砲隊を運用すれば、この時代に突破されることなどほぼないものと思われる。


 良く訓練された足の速い騎馬オンリーの部隊に突撃されると危ういかもしれないが、騎馬オンリーの隊なんてこの時代の日本にはほとんど居ない。それに騎馬突撃には別のカウンター戦法があるので特に怖くはなかったりもする。

 いずれは我が隊では本格的な三兵戦術(さんぺいせんじゅつ)の運用も考えて行きたいと考えている。


 ◆


 街道以外の戦況もこちらに優位に推移している。湿地で足の遅くなった敵兵は、小笠原流で鍛え上げられた奉公衆による弓の攻撃でバタバタと倒れて、敵は富田の台地に取りつくのにも苦労していた。そもそも敵本隊の三好長逸以外の芥川孫十郎や入江駿河守の隊などは買収済みであるので士気は低いと思われるしな。


 交代しながらの鉄砲の一斉射撃を何回行ったであろうか、屍を超えて進軍していた敵兵もさすがに足が止まった。

 三好長逸が凡将であれば違ったのかもしれないが士気の高さが災いした。敵兵の度重なる突撃はすべて我らの鉄砲隊の餌食(えじき)となり、高槻街道は血で染まった。


「止まるなぁ、突撃じゃ突撃するのじゃあ」


 敵の指揮官と思われる男が声を荒げているが、さすがに限界を超えている。死傷率がありえないことになっており、進めば確実に死がまっている状況をこうまで見せ付けられてしまっては前に出られるものではない。

 ようするに敵の心が折れたのだ。そこを見逃さずに陣鐘(じんがね)を叩き一斉攻撃の合図をかける。


 ジャーンジャーンジャーン


「突撃いいい!」――米田求政(こめだもとまさ)鬼軍曹の馬鹿でかい声とともに鉄砲隊に替わって足軽勢が攻勢に出る。


 鉄砲隊に撃ち減らされながらもなんとか街道を進み富田の台地に駆け上がっていた敵兵を我が部隊の足軽隊による反撃にて台地から叩き落す。

 こっちは今日初めての戦であるが、あちらの敵兵は香西元成(こうざいもとなり)との戦いに続いてのダブルヘッダーであり、安威川での戦いでずぶ濡れになった者もいるだろう。

 体力は限界になったようだ。敵兵は台地を攻めあがって来ることができなくなる。

 これで三好長逸もさすがに諦めたのか敵勢は安威川の川原まで引いてしまった。


「敵は後退しておりますぞ。追撃をかけまするか?」


「大分討ったとはいえまだ敵兵の方が多い。当初の予定通り堂々と引くぞ」


 こうして我らは富田における戦いでほぼ一方的に敵を撃ち減らし、敵の心を折りまくって富田の東の五百住(よすみ)で女瀬川と芥川を越えて、悠々と高槻城へ引き上げることに成功した。(富田の東にある五百住が松永久秀の出身地といわれています)


 倍する敵にしたたかに損害を与え、無傷に近い形で見事な退き口(のきくち)をやってのけた俺は「逃げ兵部」のあだ名まで貰うことになる。

 おだてられて、関ヶ原とかで敵本陣を突破して撤退しろとか言われないように気をつけることにしよう。


 ◇

 ◇

 ◇


 5月下旬、細川晴元とその馬廻りや京兆家(きょうちょうけ)内衆(うちしゅう)三好宗三(みよしそうぞう)細川晴賢(ほそかわはるかた)と和泉から細川元常(ほそかわもとつね)など、細川晴元方の主力が三宅城(みやけじょう)に集結した。

 三好長逸の軍勢を破り、高槻城の当面の安全を確保した幕府軍からも細川藤孝などが細川晴元の要請で三宅城へ入城している。

 細川晴元は三宅城に兵力を結集し六角定頼の援軍を待ち、三好長慶に決戦を挑もうと考えていた。


 月が変わり6月には三好長慶を天下人に押し上げることになった「江口の戦い」が行われることになるのであろう。厳しい戦いになるであろうが、藤孝は生き延びることができるだろうか――

「富田の戦い」は架空の戦いです。

そもそも幕府軍なんてものは居ないw


野戦の初陣なんで合戦回ですが

合戦パートはさっさと終わらせてラブコメに

なだれ込みたい作者がいるイチャイチャしたいー

次話で合戦は終わらせたいなー


最近ブックマークに評価を多くいただき、

ついには3個目のレビューまでいただいてしまいました

いつも寄せてくれる感想や誤字報告ともども

ありがたくて涙がでます


読者の皆様の暖かい応援が身に染みる作者であります

暖けぇ……暖けぇよ

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― 新着の感想 ―
[一言] 日本史の学校教科書の1行の記載の裏に、実に生々しい人間ドラマ、生死があったんだなぁと感じながら読ませてもらいました。
[一言] 三好長逸の有能さが裏目に出た戦いでしたが次回があれば対策もしてくるでしょうね。 「江口の戦い」はどうなるやら。
[良い点] ノッブがやったと云われるのは射手固定銃回転式だったような?あれ?雑賀式だったかな? カウンターマーチ…銃身に向かって歩けなヨーロッパ陸軍に引いた思い出がwww 大砲相手でも前進あるのみと…
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