第五十二話 初陣(2)
【初陣(1)の続き】
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さて、鶏冠井城をぶっ潰して予防占領をしたおかげで西国街道の安全は確保できた。
補給路の安全は確保できたので大山崎に進んでも構わないのだが、ついでにこの機会に細川藤孝の敵も潰しておきたいと考えている。
この地を西岡と読んでいるが、実は別の呼び方もあったりする。
この西岡の鶏冠井の地にはかつて「都」があった。
千年の都である「平安京」に遷都する以前に築かれた呪われた都「長岡京」である。
史実において細川藤孝が幕府を離れ、織田信長に仕えた際に与えられたのが「桂川西地」の一職支配であり、この「長岡」の地を支配することによって細川藤孝は「長岡藤孝」に改名し戦国大名としての第一歩を踏み出したのだ。
細川藤孝にとって「長岡」は重要な地であり、西岡衆の中には細川藤孝に従い肥後熊本藩の藩士として家名を残したものも居る。
だがこの長岡の地には細川藤孝が支配する上で障害となった「敵」も居たりするのだ。
その「敵」の名は――物集女忠重(宗入)という。
細川藤孝の幕府時代の「敵」が上野家であれば、長岡時代の「敵」が物集女氏なのである。
物集女忠重は織田信長に西岡支配を任された細川藤孝に服従しなかったため、松井康之の邸宅で謀殺されることになり、当主を失った物集女城は藤孝の軍勢によって攻め落とされることになる。
細川藤孝さんはなんとなく文化人で清廉潔白なイメージを持つ人も多いかもしれないが、この物集女宗入や丹後一色氏など、結構暗殺をやっており、やることはやっていて実はダーティな人物だったりもするのだ。
ようするにつぎなる作戦は未来において障害となるであろう物集女氏を先回りしてさっさと叩き潰してしまおうという、細川藤孝の自己中な欲求に幕府軍を使ってしまおうという計画なのである。
今のところ西岡の地に攻めて来るようなヤツは居ないし(三好長慶は摂津で忙しいので西岡には来ない)、我が手には比較的自由な手駒になってくれる幕府軍も有ったりする。
「幕府に仇なす賊を討つ!」という、ちょうどイイ! でっち上げられそうな大義名分もあるからなー。
今のところ物集女氏は俺に敵対しているわけではないが、幕府軍に味方しているわけでもない。
幕府に非協力的なことを口実に攻めることは可能であろう。
物集女城は西国街道と山陰道を結ぶ物集女街道の要所にあるので、西国街道と山陰道の安定のためには必要な措置ですとか、てきとうにもっともらしいことを言って評議をそういう方向に持っていけばよいのだ。
鶏冠井城で戦後処理をする者を除きいったん向日神社に戻り、今度の方針を決めるための評議を開いた。
鶏冠井城をあっさりと落としたため我らが幕府軍の戦意は非常に高まっており、物集女城を攻めましょうという俺の提案は実にすんなり受け入れられた。
鶏冠井城攻めではほとんど兵を失わなかったし、あまりにあっさり落としてしまったので血気盛んな人々にとっては物足りなかったようである。
こうして幕府軍と西岡衆の連合軍の次なる目標は物集女城攻めに決まった。
城攻めのダブルヘッダー(同日二連戦)とか無理がある気がしないでもないが、さすがに物集女城は力攻めをするつもりではないので、まあ大丈夫じゃね?
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向日神社を発した幕府軍は北へ3km弱のところにある物集女城に進軍した。
さすがに鶏冠井城攻めの報を受けていたのであろう、物集女城は鶏冠井城よりは防備を固めていた。
だが物集女城もしょせんは堀と土塁だけの武家屋敷に毛が生えたような城であり、時間もなかったのであろう篭城の準備も恐れるほどのものではなかった。
あっさりと幕府軍により包囲下においてしまう。
さて本日二戦目の物集女城攻めであるが、ダブルヘッダーでもあるのでさすがに1日で落とそうとは考えていない。
今度の城攻めは強行策ではなく、持久戦で行く予定である。
幕府軍3,000を3隊に分け、半日交代で攻めようと考えている。
だが攻めるといっても攻めるマネだったりする。
鬨の声を上げ、陣鐘を派手に鳴らして火矢を射掛ける程度である。
打ち合わせのとおりに、まずは第一陣の革嶋一宣ほか西岡衆が攻め寄せた。
ウォー! ウォー!
ダーン! ダーン! (究極戦隊)ダダンダーン!
派手に喚声を上げるが、派手なだけで攻めるマネだけだ。
西岡衆の部隊に明智光秀に率いさせた鉄砲隊も合流させ、敵の櫓に対して威嚇射撃も行う。
敵に攻めるぞ、攻めるぞと音で威嚇するのだ。
そして夜になり、第二陣の三淵・小笠原隊に交代して攻めかかる。
ジャーンジャーンジャーン!
けたたましく陣鐘を鳴らして攻め寄せるが、またもや攻め寄せるマネなだけである。
陣鐘を叩きまくり、法螺貝も吹き鳴らし、真夜中に迷惑この上ない騒音を撒き散らす。
敵兵としては、げえ!(関羽) また攻めて来やがった! という心境であろう。
夜通し攻め続けるマネをして敵を眠らせない戦術だ。
そして夜明けとともに交代して今度は第三陣の淡路細川隊の攻撃が始まる。
「よし者ども! 大きな声で合唱だぁ!」
米田求政の号令で郎党どもが歌いだす。
『――六甲の天然水っぽい阪神の応援歌を皆で歌ってます――』♪
第一陣は鬨の声と鉄砲の音、第二陣は陣鐘の音、そして第三陣は大合唱である。
包囲した幕府軍によって昼夜を問わず物集女城を「音」で攻めるのだ。
これを交代で数日行い、篭城する敵兵にバース・掛布・岡田のバックスクリーン三連発並の特大な精神的ダメージを敵に与えてやろうという算段である。
これはもう今年こそVやねんだな。
我らが幕府軍は三交代で攻めるので、攻めていない部隊は後方で休息と睡眠を取れるが、篭城中の敵兵は包囲される緊張状態の中にあり、プラスしてこの音攻めで休める時がないであろう。
敵篭城兵をじわじわとなぶり殺しにしてくれる!!
四日目になり篭城兵が根をあげはじめた.
城内の女子供が城を抜け出し保護を求めて来たのだ。
通常、兵糧攻めであれば女子供であろうが、敵の兵糧の消費量を減らさないため、投降を受け入れることはしないのだが、兵糧攻めではないので受け入れた。
うん、音で圧力をかけて精神的に追い詰める今回の城攻めは人道的でとても良い城攻めじゃね? (すっとぼけ)
翌日、休息と飯を与えた女子供たちには、むろん、城内へ呼びかけをさせる。
「とーちゃーん、お家に帰ろうよー」
「あんたー、篭城なんてやめてくれろー、ここの皆さんは親切にしてくれるろー、降伏すれば命は助けてくれると言ってるろー」
うーん家族愛って素晴らしいね。
そして、城内に文を投げ入れるのである。
責任は幕府軍に参加しない城主の物集女太郎左衛門尉にあり、篭城に付き合わされた城兵の命は助けるという内容の文である。
そしてさらに翌日になり、目論見どおりに物集女城内で騒動が起きた。
城兵たちの叛乱である。
城主の物集女太郎左衛門尉の一族が裏切りに遭い、裏切り者たちによって生け捕られたのだ。
城兵はすぐさま城の門を開け放ち我ら幕府軍に降伏した。
こうしてわずか1週間で、鶏冠井城・物集女城の2城を自軍にほとんど損害も無く落城させることに成功した。
ろくに戦の経験も無かった軟弱な幕府軍は、精神と時の部屋での修行並みに経験を積みパワーアップすることもできた。
丹波方面への山陰道の安全の確保と、補給路となる西国街道の安全の確保、西岡地域での潜在的敵対勢力の排除など、予定していた戦略目標を達成し「西岡平定戦」をひとまず終えた我ら幕府軍が次に目指すのは大山崎の地の確保である。
そして我らはまずはその手前にある「勝龍寺城」へと進軍したのである。
阪神応援歌、通称「六甲おろし」が著作権が切れて
パブリックドメインになっていたので歌詞を記載していましたが
歌詞は規約上ダメな可能性があるので、記載を控えました
ご迷惑をおかけしました
物集女とか鶏冠井とか難読すぎるわマイナーだわ
ほかにもマイナーな西岡衆もさらに出てくる予定だし
この小説はどこに行こうというのだろうか……




