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第五十一話 誠の旗を掲げて(3)

【誠の旗を掲げて(2)の続き】

 ◆


 ここ慈照寺(じしょうじ)に集まっている幕府軍はだいたい半分ぐらいだ。

 残りの半分は相国寺(しょうこくじ)に集結しており、これから東寺口(とうじぐち)で合流して西進する手筈になっている。

 だが合流してもその兵力は今のところ2,000ぐらいにしかならない。


 この幕府軍は史実では江口の戦いには居なかったであろう戦力だが、三好長慶と細川晴元の戦力差がありすぎるので、そこに幕府軍の2,000の兵力が加わったところで大勢に影響はないものと思われる。

 頑張りはするが頑張り過ぎて討死とか勘弁して欲しいからな。


「義藤さま、我らはこれより三好(長慶)勢と戦に臨むわけですが、恐らくは勝つことは難しいものと思われます」


「すまぬ。危険な戦に行かせることになるな……」


「勝つことよりも生き延びることを優先して戦に臨みますればそれほど危険なことにはなりません。ご安心くだされ」


「そうは言っても心配なのじゃ、わしはそなたが居なければ……」


 義藤さまが涙ぐみながら俺の手を握ってくる。


「義藤さま……」


 この数ヶ月あまり出逢うことが出来なかったため、二人の想いは昇竜拳(しょうりゅうけん)のように舞い上がってしまう……

 目と目が合いお互いの顔がどんどん近づいていく。

 藤孝は無意識のうちに義藤さまを引き寄せ、思わず抱きしめてしまおうとする。

 そして義藤さまは目を閉じ……二人は……


「いやあ熱くたぎるだろ! ちくしょう俺も出陣したかっただろ!」


 予想通りの暑苦しい男の乱入によって、あわてて飛び跳ねて分かれる二人であった。

 見えざる力があって、待ちガイルのような鉄壁の防御が張られているのか、なぜかエロいムードになれない二人である……


「どうかしたのかだろ?」


「なんでもねーよ」――ちくしょう、そんなこったろうと思ったよ。


「な、なにもなかったであるぞ」


「んーよくわからんが、使いの者が来たとかで源三郎がおぬしを呼んでいるだろ」


「分かった。申し訳ありませぬ。義藤さまはしばしここでお待ち下さい」


「ん、行って来るがよい」


 源三郎に会うために常御殿に向かう。

 向かう間に見ていたが、兵たちのほとんどは朝食を取り戦支度を整えていた。

 もうすぐにでも出発できそうな雰囲気である。


「源三郎すまない。使いの者と聞いたが?」


「与一郎様、お呼びたてして申し訳ありませぬ。渡辺出雲守殿よりの使いが参りました」


 使いの者は渡辺出雲守の出陣を報せるものであった。

 山城国の国人領主で田中渡辺氏の当主である渡辺出雲守はこたびの幕府軍に寄騎することになっている。

(少しでも兵の数を増やすために俺が頼んだのだが)


 我らが慈照寺を出陣したのち、渡辺殿とは吉田神社で合流することになっている。

 吉田神社で戦勝祈願をすることになっているのだ。

 むろん叔父の吉田兼右に無理やり依頼されたためであるが、士気を上げるのは悪くないだろう。


 渡辺出雲守殿のほかにも、近江山中の磯谷(いそがい)新右衛門(しんうえもん)久次(ひさつぐ)殿と山城高野の佐竹蓮養坊(れんようぼう)殿が小荷駄(こにだ)を率いて我らに協力してくれることになっている。

 忘れ去られている気がしないでもないが、この三名は以前に吉田神社にて公方様が拝謁を許された者達である。(十四話 節分祭を参照のこと)

 小荷駄隊が運ぶ兵糧や酒などの補給物資は川端道喜(かわばたどうき)茶屋明延(ちゃやあきのぶ)角倉光治(すみのくらみつはる)饅頭屋宗二(まんじゅうやそうじ)ら町衆に依頼して準備して貰っているところだ。


「渡辺殿を待たすわけにはいくまいな。よし源三郎、出立の触れを出してくれ」


「はっ」


 金森五郎八長近をはじめ明智十兵衛光秀、吉田六左衛門重勝、斎藤内蔵助利三らと他の隊に出陣を触れさせていた米田源三郎求政らが揃いのダンダラ模様の陣羽織を着て居並んでいる。

 ちなみに柳沢新三郎沢元政は伝令として洛中に残り、米田(こめだ)甚左衛門(じんざえもん)是澄(これずみ)硝石(しょうせき)作りでお留守番だったりする。


 我が隊のほかにも兄貴の三淵藤英(みつぶちふじひで)小笠原稙盛(おがさわらたねもり)殿ら他の奉公衆の部隊も戦支度を終えたようである。

 相国寺のほうに集結していた大将格の細川晴広と三淵晴員の親父たちもそろそろ相国寺を出陣している頃だろう。


 ぶおおおおおお♪ ――法螺貝(ほらがい)が吹き鳴らされる。


 先陣の兄貴を先頭に続々と幕府軍が慈照寺を出て行く。


「源三郎、少し時間をくれ」


「はっ。ですが与一郎様どちらへ?」


 東求堂(とうぐどう)から出て心配そうにこちらを見ている義藤さまに視線を送る。


「あれはたしか許婚(いいなずけ)の沼田家の娘御(むすめご)でしたか……分かりました。ですが短めに願いますぞ」


「ええ? 若殿に許婚が居るんですかい? おお、なかなか可愛らしい娘ですなぁ……それで若はいくら誘っても女遊びをしないわけだ」


「いいから五郎八、行くぞ」


「すまんな……しばし頼む」


 さすがは源三郎の兄貴だな、義藤さまの姿を見て察してくれた。

 義藤さまのことを沼田家の娘で俺の許婚と勘違いしたままだが、まあいいだろう。

 郎党らの指揮を米田源三郎に任せて、東求堂に急いで向かう。


「義藤さま。これより出陣します」


「うむ。無事に戻るのだぞ」


「先ほども申しましたが私は生きて帰って参ります。さすれば義藤さまには負けたあとのことをお考えになっていただきたくあります」


「負けたあとのこと?」


「はい……残念ながら勝つことは難しく、我らは三好長慶に追われて洛中から落ち延びることになるやもしれません。まずは速やかに洛中から退去できるように(そな)えを行っておいてください。それとできれば落ち延びるのではなく(こも)る算段を取っていただきたいのです――」


 そう史実の江口の戦いとは違うところがもう一つある……

 三好宗三や細川晴元が三好長慶に敗れるのは良い。

 問題はその後だ。

 我らには三好長慶に対抗するために取りうる手が無いわけではないのだ――


「では新二郎、義藤さまを頼む」


 義藤さまと内密の話を終え、新二郎に声をかける。

 また義藤さまの側を離れるのは心配でしょうがないのだが、新二郎と沼田兄弟が側にいれば直接的な危険は対処できるだろう。


「おう、任されただろ」


 新二郎と拳と拳を合わせてグータッチをする。


「では行って参ります」


「うむ……気をつけるのだぞ……」


 正直いうと逢えない間にもしかしたら義藤さまに俺は切り捨てられたのではないかと落ち込むこともあった。

 だが、義藤さま自らが御所を抜け出し俺に逢いに来てくれるということをやってくれたのだ。

 生まれ変わる前の俺とは違って今のは幸せ者だな……


 もう何も迷うことは無い――俺は義藤さまのために戦うだけだ。

 我が忠誠心の全てを義藤さまに捧げるために、愛すべき郎党や頼もしい家臣とともに誠の旗を掲げて出陣するのだった――

西岡衆の調べ直しが大変ですがなるべくサクっと書くよう頑張ろう

西岡衆に需要があるとは思えないしな(苦笑


たまには藤孝が無双してもいいよね?

次回圧倒的火力でなぎ倒そう的な?

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[一言] 圧倒的火力で、一時的な空白を出して最強戦術後ろに全力前進を数回やれば平気かなww
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