異世界に?
はじまるよっ
鞄のなかには小銭しか入ってない財布に、いろんな味の入った飴缶とペットボトルの水、携帯、充電器、手書きのレシピブック、手帳、ペンポーチ、あとは仕事道具一式と職場の鍵に制服。
…ちょっと異世界に行くには心もとない装備品かもしれない。
△△△
「今日の賄いなぁにっかなぁ~」
グーっとなるお腹を抱え、私、早瀬 律子は異国情緒溢れる異世界の町並みを大きなかごを持って走っていた。さっきまで中に出来立ての料理と焼きたてのパンが詰め込まれ良い匂いを放っていた(今はもう空っぽだから、遠慮なく振り回しながら走っている)。
まず、なぜここが異世界だと分かるのか。
言い切る根拠としてまず、というかまあ単純に、歩いてる人の髪の色(金髪、銀髪、赤、青、黄色、緑、紫とかとてもカラフル)、来ている服(見慣れたスーツがいない)、あと、鎧っていうのか?装備している武器だったりとか。
「コスプレ、って可能性もあったのか…?大掛かりドッキリ?もしくは手品?」
幸いなことに私はゲームが好きで、単純作業なやり込み型レベル上、素材集め系、、が大好きだ!雑食なのでアニメもマンガも小説も好きだけど。
あの日、最寄りの駅に着いたところでそのアナウンスに目が覚め、乗り過ごさなくて良かったと思いながら慌てて電車を降りて、なんか夜なのに今日は明るいなぁ…と思ったらこの世界にいた。
幸いなのか必然なのか、見慣れぬ言葉で書かれているはずの看板の意味も分かるし、市場らしい辺りの各店の売り子たちの呼び込みの言葉の意味が分かる。
フラフラとおのぼりさん全開で歩き回り、ポケットの携帯をスられた所でカッコよく登場してくれたエリーさんが、私を保護してくれ、住むところと働く場所を求めたら知り合いの食堂で住み込みで働けるよう話をつけてくれた。
ご都合主義だと思うけど…なんとかなってるから良しとする。
さすがにこの異世界に一人で居たときは不安でしかなかったけれど、諦めが早いのか、もとからの気質なのか、ホームシックなんて欠片もなくあっさりすっかり馴染んでしまった。
あと、食堂の賄いがとても美味しい。三食出てくる食事を食べるのが楽しみなほどに。
ちなみにファンタジーらしく、魔法がある。食堂で働いて何が驚いたって、色んなものが中に浮かぶ。勝手に調理が進む(魔力と知識と忍耐力が必要らしいけど)。機械も真っ青な働き方だ。
「ただいまぁー、戻りましたー!私の賄いはどこですか?!!」
配達した料理がから放たれる匂いが空腹感を刺激し、空きっ腹を抱えながら歩いていれば、店が近づくほど漂う美味しそうな匂いにさっきから空っぽのお腹がもう限界だとぐうぐう音を鳴らして主張していた。
「おかえり。準備はできてるから先にかごを置いて手を洗ってこい」
苦笑いながらも〝おかえり〟と言ってくれる優しい人。
ちょっぴり無愛想で、強面だけど笑うと見惚れるほどイケメンをアピールしてくれる大家さん兼シェフ?な魔術騎士団非常勤団員、、らしい。
有り余る魔力に豊富な知識、なぜ街の食堂の店主で落ち着いてるのかは謎だけれど(たまに騎士団の偉そうな人も来るし)、お陰で生活が出来ているから感謝の気持ちしかない。
「…なによりごっつタイプ」
ぽそっとな呟きも拾ってくれるから、にやんしてしまう。
「ん?どうした?美味しくないか?」
「まさかー、今日も美味しいよー?さっき配達したとこでねー」
三食美味しく、目の前には優しく目の保養?になるイケメン(めちゃくちゃタイプ)すでに胃袋捕まれてるし、還らなければいけなくなったらどうしようかなぁ?
ありがとうございました!