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オタク姫 ~100年の恋~  作者: 菱沼あゆ


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俺はこの呪いを解きたい

  



「行ってきます」

と十文字が家を出ようとしたとき、珍しく見送りに出た母が言った。


「ねえ、あんた、大学行くとき、家出るの?」


「……そのつもりだが?」


「じゃあ、今、急いで出なくていいんじゃないの?」


「そういう考え方もあるな」


「……いってらっしゃい」


「行ってきます」

と言って、十文字は玄関を出た。


 ……久しぶりに家族らしい会話をしたな、と十文字は思っていた。


 朝霞が訊いていたら、

「何処がですかっ?」

と叫び出しそうだが。


 朝霞が家に来てから、少し母親の態度が変わった気がする、と十文字は思っていた。


 朝霞が、自分が現れてから、兄の態度が変わったと言うのと同じに。


 自分が朝霞と結婚するかはわからないし。


 朝霞が自分を本当に選ぶかもわからない。


 でも、家族が誰かと手を取り、家を巣立っていくという想定をしてみたことで。


 今まで見えていた家族の風景が少し変わって見えたのは事実のようだった。


 朝霞の夢の中で、廣也そっくりの騎士団長が、

『王子があなたを守らないのなら、私があなたをお守りしましょう』

と言ったというが。


 それは、廣也の兄としての変化を朝霞が感じ取り、見た夢だったのかもしれないと思っていた。




「おはようございますー」

と電車でまたあの三馬鹿トリオと出会う。


 つり革を握る朝霞が自分に向かい、笑顔で手を振っていた。


「……おはよう」

と返しながら、その気の抜けるような笑顔を眺め、十文字は思う。


 100年の恋に落ちる魔法。


 そんなものが俺とお前の間に、本当にかかっているのなら。


 俺はそれを解きたいと思っている。


 それを言う勇気はまだないが――。

 



「朝霞。

 風邪はどうなの?」

と朝の廊下で、仁美が朝霞に訊いてきた。


「いやー、特にひどくはならない代わりに、ずっとぼんやり」

と朝霞が苦笑いして言うと、


「休みなさいよ、テストも終わったんだし」

と仁美は言ってくれる。


 だが、休みたくはなかった。


 学校に来ないと、十文字に会えないからだ。


 そのとき、後ろからマキがやってきた。


「でもそれ、なんだか、あざとい風邪ね」

と顎に手をやり、したり顔で言い出す。


「その、ほのかに赤らんだ頬と、うるんだ瞳。


 体力がないから、いつもほど動き回らず、マヌケもしない。


 男がつい、俺が支えてあげなければっ、と思ってしまう風情を作り出す、そのちょうどいい風邪、私に移してっ」

とマキはよくわからない要求をしてくる。

 



 佐野村は、仁美たちと前を歩いている朝霞を見ていた。


 この間、うさぎになってひいた風邪が後を引いているらしい朝霞は最近、とても愛らしい。


 微熱のせいで、頬は、ほのかに赤らみ、瞳は、うるみ、なんだかちょうどいい感じに弱っているっ。


 なにをしても、強く抵抗してきそうにないというか、と仁美辺りに、とんだ下衆野郎だと罵られそうなことを思いながら、佐野村は三人の後をついて歩いていた。






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