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オタク姫 ~100年の恋~  作者: 菱沼あゆ


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さんすくみか

 


「なにこれ、あざとい」

とお昼休み、いきなり、マキが言い出した。


 いつもの場所で、お弁当を食べたあと、朝霞がチャットアプリを確認していたら、後ろから覗いてきたのだ。


「なにがあざといの?」


「だってさ。

 王子へのメッセージに、『うさぎして』とか可愛いこと書いちゃって。


 素なの? これ。

 ウケ狙い?」


 どうウケ狙うと言うんだ……と思いながら、朝霞は言った。


「それ、音声入力。

 よく入れ間違うんだよ。


 この間も、待ち合わせ場所に近づいたから、


『来たよ!』

 って入れたつもりが、


『来たる!』

 って入ってた」


「……あんた、何者よ」


 なにが現れるのかと思うじゃないのよ、とマキに言われる。


「でもさー」

と仁美が口を挟んできた。


「あんまりあざといのはあれだけど。

 少しは可愛らしい演技も必要かもね、女子としては」


 そう渋い顔して、言う。


「……可愛らしい演技」

と朝霞はスマホをつかんだまま呟いた。


 どうやってっ!?

と思ったのだ。


 仁美を窺うように見ると、仁美はマキを窺う。


 そして、マキは朝霞を窺った。


 さんすくみか。


 ……違うか。


 意図的に可愛くなど振る舞えない三人は、


「……あ、私、マドレーヌ焼いてきた、食べる?」


「食べる食べる。

 あんた、意外な特技ね」


「美味しいんだよ、仁美のマドレーヌ」

ととりあえず、その話題から離れてみた。

 




 夢の中、朝霞はあの洞穴の前に居た。


 満天の星空の下、王子のために制服を着ると言ったはずなのに、朝霞はまだ、ドレスを着ていた。


 脱ぎがたかったんだな、と自分で思う。


 制服は現実世界でも着られるが、ドレスはリアルで着て歩いたら、


 ……着て歩いたら、


 みんなに振り返られるからな、と思ったとき、王子は朝霞に向かい、なにかを突き出してきた。


 朝霞の手のひらに、赤い石を落とす。


「なんですか、これ。

 ルビー……?」


「やる」


 いきなり宝石を押し付けてきた隣の国の王子と変わらぬ唐突さだ。


「約束したろう、ひとつ、石をくれてやると。


 お前のように明るくて騒がしい石」


 王子の中では、ルビーがそういうイメージなのだろうか、と思いながら、


「あ、ありがとうございます」

と言ったあとで、朝霞が気がついた。


 その石が指輪に加工されていることに。


「王子、この指輪。

 穴から見つかったんですか?」


「いいや。

 城の宝石箱から見つかった」


「……それ、見つかったって言うんですかね?

 っていうか、いいんですか?」

と訊いた朝霞に、


「いいんだ。

 お前にやりたかったんだ。


 手を出せ、ほら」

と王子が言って、朝霞の手をつかんだところで、目が覚めた。


 あ~、王子~っと朝霞は思う。


 ご馳走を食べようとすると、目が覚めるのと同じだ。


 指輪なんてくれなくてよかったです、王子。


 そんなことより、私は、もうちょっと……


 ただもうちょっと一緒にいて、星でも眺めていたかったんですよ。


 でも、ありがとうございます、と朝霞は寝たまま、指輪のはまっていないおのれの手を日にかざしてみた。







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