熱烈な告白に聞こえなくもない
テスト中、早めにテストを終わらせた朝霞は、もう一度、見直したあと、佐野村のように、ぼんやり外を見ていた。
でも、ゲームのおかげで、先輩にスムーズにメッセージが送れたな~。
あの夢も悪い夢のような気もしてたけど。
考えてみれば、お前にしか俺を起こせないとか。
熱烈な恋の告白にも聞こえるな……。
そう思ってしまったあとで、
いや、そこはさすがに自分に都合のいいように解釈しすぎか、
と朝霞は赤くなる。
だが、そのうち、うとうととしてしまったらしい。
頬杖をつき、シャーペンを持ったまま、朝霞は夢を見ていた。
十文字ではなく、王子が王子の格好のまま、ゲームソフトの店のレジにいる。
朝霞は何故かゲームソフトをレンタルしようとしていた。
だが、王子は朝霞の前髪をバーコードリーダーでピッとやったあと、
「一週間以内に俺を返却しろ」
と言ってくる。
返却もなにも、まだ借りれてません……と思ったとき、突然、世界が大きく右に傾いだ。
うわっ、と朝霞は声を上げて、慌てて机をつかむ。
授業中、寝ていて、真横に身体が椅子から落ちたのだ。
マキが阿呆なのか……という目で見ている。
年配の男の教師が驚いた顔でこちらを見ていた。
「大丈夫か、鬼龍院。
勉強のしすぎで、寝不足か」
と逆にねぎらわれてしまった。
みんなが笑う。
「は、はい。
すみません……」
と言いながら、朝霞は、
いや、勉強もしましたけど。
昨夜の半分は、道行く怪しい人を殴り倒してみたり、人んちの窓ガラスを叩き割って、侵入したりしてましたけどね、と思っていた。
だが、優等生扱いは嫌だな、といつも思っているのだが、今日ばかりは助かった……。
そう思いながら、朝霞は、急いで、ずれてしまった机の位置を直した。
十文字が廊下を歩いていると、一年生の女子たちが笑いながら話しているのが聞こえてきた。
「そういえばさ。
今日、朝霞姫がテスト中、椅子から真横に落ちたのよ」
……すまん、朝霞、寝不足か。
「夜、勉強しすぎたんですか? って聞いたら、恥ずかしそうに、うん、って言ってたよ。
私、全然勉強してないんですー、とか言う人より、好感度高いよねー」
「っていうか、真横に落ちる朝霞姫、見たかったー」
見たいか……?
と思いながら、十文字は聞いていた。
朝霞はみんな、自分になにかの理想像を重ねて姫と呼んでいるだけなのではないかと思っているようだが。
そういうわけでもない気がする。
朝霞は確かに綺麗だし、頭もいいし、やさしそうだが。
朝霞の好感度が高いのは、彼女のそんな、ぱっと見の立派なところが好印象なのではなく。
そんな感じに恵まれているのに、何処か不器用そうなところとか。
不器用なのに、一生懸命、勉強して一番になるところとか。
それでも謙虚だったり、マヌケだったりするところが、この進学校の中では、なんとなく見ていて癒されるところなのではないだろうか。
まだ朝霞の話を熱心にしている彼女たちを見ながら、十文字はちょっと笑って通り過ぎた。
一拍置いて、後ろから、かしましい声が聞こえてくる。
「ちょっとっ。
今、王子、私を見て、微笑まなかった?」
「あら、私よっ」
……なんだかわからないが、より騒がしくなったようだ、と思いながら、十文字は階段を上がっていった。




