……立派なクソゲーだ
すっきりしたのは一瞬だった――。
自分の気持ちも言ったし、キッパリ振られたし。
これで、ずっきりだ、と授業が始まった瞬間、佐野村は思っていた。
でも……と黒板を見ながら、佐野村は思う。
でも、俺が振ってくれって言ったから、振られたんだし。
考えてみてくれって言ったら、どうだったんだろう、とつい、考えてしまう。
朝霞は十文字先輩が好きみたいだけど、十文字先輩はそうでもないかもしれない。
朝霞が振られたら、朝霞はフリーじゃないか。
……いやいや。
だからと言って、朝霞が泣くところは見たくないし。
そう思いながらも、頭の中では、十文字に振られて泣く朝霞を自分を抱きしめ、慰めていた。
ぐはーっ、なんなんだ、これはっ、と佐野村は叫び出しそうになる。
なんにも自分の感情がコントロールできんっ。
「いやいや。
お前、それが恋ってものだろうよ」
と廣也がいたら、言ってくれたことだろうが、いなかった。
まあ、それを知っても、どうにもならないことなのだが。
佐野村は授業中ノートを見たまま、頭の中だけで、のたうっていた。
こんな学校、入れただけで奇跡なのに。
落第したら、どうしてくれる朝霞ーっ、と朝霞を罵りながら。
どうしたらいいんだろう。
全然行き詰まらないんだが……。
夜、一応、勉強を終えたあと、十文字と約束した通り、ゲームを始めていた朝霞だが。
霧立ちのぼるロンドンのような街を犬の顔した人間が歩き回る不思議なミステリーが、何故だか、全然、行き詰まらない。
目の前に雰囲気あるメスの犬が立ちはだかった。
その女性(?)が事件に関わる話をしゃべり出す前に、とりあえず、殴り倒す。
女性が落とした荷物を拾う。
確認する。
アイテムを得た。
……立派なクソゲーだ。
っていうか、この外道なゲームを行き詰まらない自分が怖いっ。
いや、始めて何回かは、すぐにゲームオーバーになったのだが。
そうか。
ちょっと考えられないような選択肢を選んでいったら、進むんだな、と思って、一番問題がありそうな選択肢を選んでいくと、スムーズにゲームが進み出したのだ。
ミステリー的には話がしっかりしていて面白いのだが。
話を進める手段がひどすぎるっ。
これに行き詰まらないのは女子として、問題がないだろうか。
先輩は、連絡ないな、と不審に思っているかもしれない。
行き詰まりました、と言うべきだ、女子としてっ、と朝霞はチラと横に置いているスマホを見た。
だが、しかし、何処で行き詰まったことにするべきなのだろうか、女子として。
道ゆく人をいきなり殴り倒すところ?
証拠を握っていそうな人の家の窓を叩き割って、侵入するところ?
と迷っていると、誰かが部屋のドアをノックした。
廣也だった。
「やっぱ、ゲームしてんな。
勉強しろよ、朝霞姫。
一位から転がり落ちると、みんなガッカリするぞ」
もしや、先輩は、二位の人が私に遣わしたハニートラップだったのか?
などと暇なことを考えている間に、廣也が部屋に入ってきた。
朝霞は、とりあえず、セーブして頼む。
「おっ、おにいちゃんっ、ちょっとこのゲームやってみてっ」
はあ?
と廣也は言う。
いいから、と最初から廣也にやってもらう。
廣也はしょっぱなからつまづき、何度やっても進まない。
……私の方がひとでなしだと言うことだろうか、と思いながら、朝霞はスマホをつかんだ。
『夜分遅くに失礼します』という可愛いスタンプを送ったあとで、
「先輩、勉強中ですか?」
と送る。
「大丈夫だ。
ゲームやってんのか?
行き詰まったか?」
とすぐに返ってきた。
嬉しそうだな……。
その後、兄が詰まるたびに、十文字に、どうしたらいいんですか? と送信する。
十文字は勉強の合間にだろうが、すぐに答えてくれた。
「頼りになるなっ、十文字っ。
惚れそうだぜっ」
とすっかりゲームにはまった廣也が言う。
「よしっ、朝までにクリアするぞっ、朝霞、十文字っ」
「お兄ちゃん、今、テスト期間中……」
今度は朝霞の方が言う番だった。




