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オタク姫 ~100年の恋~  作者: 菱沼あゆ


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正夢だったようです……

  


 朝、電車の中で朝霞は十文字に怒られていた。


「なんだ、お前。

 まだやってないのか、あのゲーム」


 せっかく買ってやったのに、と言われ、

「はあ、もったいなくて、まだ」

と朝霞は答える。


 この間のゲームもだが、楽しそうなゲームがあると、つい、枕元に置いて、しばらく内容を妄想してしまうのだ。


 あの乙女ゲームと並べて置いてしまったので、夢の中で混ざってしまったらどうしようと不安に思っていたが。


 特に夢の中でサスペンス的な展開にはならなかったので、混ざらなかったようだった。


 やはり、あのゲームだけが特別なようだな、と朝霞は思う。


 なんでだろうな。


 やっぱり、あのゲームの王子が先輩と似てるから?


 朝霞は、つり革を手にチラと十文字を見たが、十文字はこちらを見ないまま、


「お前がやったら、ゲームについて語ろうと思ってたのに。


 っていうか、絶対、始まってすぐ、どうしていいかわからなくなるから、訊いてくるかと思ったのに。


 あれは、なかなかのクソゲーだからな」

と嬉しそうに言い出す。


 ……あなたもクソゲー好きですか。


 っていうか、そこで勝ち誇ったように、攻略法を教えたかったんだな、と気がついた。


 子どもみたいだな……。


 ちょっと可愛いとか思ってしまったではないですか。


 攻略サイトで調べるから大丈夫ですよ、とか可愛くないことは言わずに、


「じゃあ、今日はやりますよ。

 わからなかったら、連絡しますね」

と微笑んで朝霞は言った。


 女王様に王子を見守れと、勲章までいただいてしまいましたしね、と思う朝霞の頭の上から、廣也が、


「いや、お前ら、テスト週間だろうが」

と言ってきてはいたのだが……。






 廣也と別れ、十文字と別れ、廊下を歩いていたら、少し遅れ気味について来ていた佐野村が、


「朝霞」

と呼びかけてきた。


 なに? と振り向くと、

「ちょっと話がある」

と佐野村は言う。


「うん、なに?」

と言うと、ちょっと来い、と腕をつかまれ、近くの家庭科室に引きずって行かれた。


 鍵は開いていたが先生はいなかった。


 家庭科室って、なんか独特の匂いがするよなー。


 切ったばかりのキャベツと金属のボウルが入り混じったような匂いっていうか、と朝霞がぼんやり窓の方を見ながら思っていると、


「朝霞」

と佐野村がもう一度、呼びかけてきた。


 その佐野村らしからぬ真面目な顔に、朝霞は思わず、

「どうしたの?」

と笑う。


 すると、佐野村は、なにか嫌なことを無理やり言わされているような口調で言ってきた。


「朝霞。

 お前が好きだ。


 俺と付き合ってくれ」


「……どうしたの?」


「いや、そこで、どうしたのはおかしいだろう……」

と言われてしまったのだが。


 いや、どうしたの? だ。


 誰に操られて言ってんだ?

と問いたくなるくらい、佐野村が非常に乗り気でない感じに言ってきたからだ。


「この間から、お前のことが気になって仕方がなくなって。


 どうにも告白しないと落ち着かなくなったんで言ってみた」

と佐野村は言うが。


 いや、全然そんな感じに見えないんですけど、と朝霞は思う。


「どうやら、俺はお前が好きだったらしい。


 でも、お前が十文字先輩にメロメロなのはわかってるから。


 とりあえず、言ったから、さあ、振ってくれっ」

と言われる。


「わ、わかったよ。

 ごめんなさい、佐野村。


 私、佐野村のことは、そんな風には考えられない」

と頼まれた通りに言うと、佐野村は、ホッとした顔をして、


 ありがとう、と言って去っていってしまった。


 いや、断ってほしいなら、何故、告白した……と思いながら、朝霞は幼なじみを見送った。





 人に告白されるってドキドキするんだろうなと思っていたが。


 相手が佐野村だと困るな。


 弟に告白された気分だ、と朝霞は思っていた。


 誰が弟だっ、そして、何故年下だっ、と佐野村が叫び出しそうだが。


 佐野村、幼稚園の頃は、頰がぷっくりして可愛かったんだよな、そういえば。


 今、すっかりゴツくなったのに、そのイメージが残ってるから、弟とか思っちゃうんだろうな。


 だから、ずっと側にいたのに、恋愛感情にならなったんだろうな、と朝霞は思っていた。


 しかし、正夢だったな。


 夢の中で、何故か佐野村王子がちょろちょろしていると、思っていたら――。


 もしかして、あの夢、自分でも気づいていない現実世界での出来事を無意識のうちに感じて、それが夢に反映されているのかも。


 そういえば、夢の王子も現実の十文字先輩も、特に私に気はないようだしな、と寂しく思う朝霞は、これでもう佐野村の件は終わったと思い込んでいた。






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