いたよ……、此処に
……可愛い子がいる、と思ってしまった。
放課後、書店にいた佐野村は、買おうと思ったアウトドア雑誌を手に固まっていた。
レジに向かおうとしたとき、三人の女子が楽しげに話しながら、目の前を横切っていった。
その中のひとりがすごく好みで目を引いたのだが、よく見ると、朝霞だった。
うっかりにも程がある……。
いや、うっかりなのは、こちらにまったく気づかずに横切っていった朝霞ではなく。
うっかり彼女を可愛いとか好みだとか、朝霞とは気づかず思ってしまった自分なのだが――。
もしかして、俺はもともと朝霞のようなタイプが好みだったのだろうか。
近すぎて気づかなかっただけで。
そんなこと思いながら、また物陰から朝霞を窺ってしまう。
それにしても、朝霞。
楽しそうでよかった、と佐野村は思っていた。
高校に入り、とんでもないキャラを押し付けられたせいで、いつも窮屈そうだった朝霞が最近は伸び伸びしているように見える。
あいつらのおかげだな、と感謝して、仁美とマキを見た。
まあ、さっきから、耳に入ってくるのは、とんでもないオタク話ばかりなんだが……、
と思ったそのとき、
「あ、そういえば、今、佐野村、いなかった?」
と朝霞が目の端にとらえたものを今、思い出したかのようにキョロキョロしながら言ってくる。
「えっ? 佐野村いた?」
「うっそー。
あんなデカイ図体の男。
……失礼。
あんなイケメン、いたら気づくはずだよー」
と笑うマキと仁美。
……いたよ。
森の木陰から覗いている伝説の小人のように、小さな身体を屈めて、書棚の陰から三人を窺っている佐野村は、心の中で彼女らに向かい、囁いていた。
いたよ、此処に。
全然気づかれなかったけど……。
あんなイケメンとか言いながら、こいつら、誰も俺に愛がないな。
そう溜息をついて、佐野村はレジへと向かった。
その夜、朝霞は王子とともに、謁見の間に行った。
だが、謁見の間の扉は天に届くほど高く大きく――
そして、固く閉ざされていた。
何故なのかはわかっている。
……現実に女王様の顔を知らないからだ。
そして、隣にいるこの人が何故、私のドレスを見て、褒めてくれないし、笑ってくれないのかもわかっている。
私が先輩のそのような姿を見たことがないからだ。
そう朝霞は思っていた。
「つまりは先輩の素敵な笑顔のスチルをゲットしないと、夢の王子も笑顔にならないってことよね」
と朝、駅までの道で言って、
「いや、お前、それ逆……」
と佐野村に言われてしまったが。




