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オタク姫 ~100年の恋~  作者: 菱沼あゆ


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指が震えて、開けませんっ

 


「なによ。

 まだ、あんた、先輩に電話かけてないのー?」

と朝霞はお昼休み、マキに責められていた。


「だって、なに話したらいいのかわからなくて……」


「はあ? オタク同士の会話でもしなさいよ」

と言うマキに、


 いや、あなたは違うんですかね……?

と朝霞は思っていた。


「でもあのー、先輩は、オタクじゃないと思うんだけど」


「いやあ、ゲームオタクなんじゃないのー?

 だから、あの店にいるんじゃない?


 ああ、私もゲームに囲まれて暮らしたいわあ」

とマキは言い出す。


 すると、黙ってお弁当を食べていた仁美が、


「なんでもいいから、さっさと十文字先輩とくっついてよ。


 まあ……そしたら、身も心もズタボロになった佐野村を私とあんたが争うことになるわけだけど」

と冷ややかにマキを見て言う。


 ひい……。


 っていうか、身も心もズタボロになった挙げ句に、更にこの二人の争いにより、ボロ雑巾のようにされた佐野村の姿しか、頭に浮かばないんだが。


 血に飢えた血気盛んな二頭のケモノの前に放り投げられたボロボロの幼なじみを想像して、息を呑む。


 いや、よく考えたら、学年でもかなり可愛い方の仁美とマキにチヤホヤされるという夢のような状態のはずなのだが。


 何故だろう。


 なんだか可哀想な感じがしてしまうのは……。


 っていうか、佐野村が私を好きとかないと思うんだがな、と中が少しとろっとして美味しい卵焼きを食べながら、朝霞は思っていた。


 幼なじみで、ずっと一緒にいたが。


 奴は常に私を小莫迦にした態度をとっているというのに。


 だが、それにしても、此処は意外に居心地がいい、と朝霞は思っていた。


 こういう危険な話題が出るだろうことはわかっていたので。


 人目のない特別棟の前の植え込みと校舎の隙間でお昼を食べていた。


 白いコンクリートの上に座り、水のない側溝に足を降ろしているのだが。


 昼の日差しで温まったコンクリートでお尻がポカポカして気持ちがいい。


「いいから、早く貸しなさいよ、スマホ。

 持ってるんでしょ?


 私が代わりにメールかチャット、送ってあげるわよ」

という仁美にスマホを奪い取られそうになる。


 ひいいいいっ。


「送りますっ。

 送りますっ。


 自分で送りますーっ」

と何故か敬語になりながら、朝霞はスマホのポケットを押さえて抵抗した。





「おい、十文字、サッカー行こうぜ」


 ああ、と教室にいた十文字が立ち上がりかけたとき、スマホが軽い音を立てた。


 ん? と見ると、朝霞からチャットアプリにメッセージが入っていた。


十文字専売せんばい


 売るな、俺を……。


 塩か。


『こんにちは』


 続きのメッセージはないのかとしばらく待ったが、なかった。


「おい、先行くぞ、十文字ー」


「……今行く」

と言いながら、十文字はスマホをポケットにしまった。



 


「返事ないわねー」


 朝霞たち三人はまだあの場所にいて、全員でスマホを見つめていた。


「サッカーでもしてて見てないんじゃないの?」

とマキが立ち上がり、木の隙間からグラウンドを見る。


 そのとき、スマホが震えた。


 朝霞がどきりとして、手にあったスマホを強く握り直したとき、だだっと立ち上がっていた二人も近寄ってきた。


「じゅ、十文字先輩からお返事がっ。

 ゆ、指が震えて、ひらけませんっ」

と朝霞が言うと、


「貸しなさいっ」

と二人が手を差し出してくる。


 いやいや、自分で開けたいんですけどっ、と思いながら、朝霞は固まっていたが。


 二人は朝霞がぎゅっとつかんだままのスマホの画面を覗き込むと、同時に突っ込んできた。


「いや、もう、メッセージ見えてるしっ」


『こんにちは』

とロック画面に出ていた。


 三人で、じーっと画面を見つめる。


 だが、それで終わりだった。


 しばらくして、木々の向こうから、

「十文字ーっ、行ったぞー」

と聞こえてきた。


「十文字ーっ!?」

と三人は叫び、トーテムポールのようになって、木々の隙間からグラウンドに顔を出す。


 十文字王子はグラウンドでサッカーをやっておられた。


「そりゃ、いつまで待っても続き来ないわ」


「いやいや。

 よく考えたら、あんたが、こんにちは、しか入れてないんだから、向こうも返しようがないじゃない」

と仁美とマキが呟く。


「ほんとね。

 ちょっと考えたらわかることなのに。


 あんたの緊張が移っちゃったわ」

と仁美が言い、あ、チャイムだ、いこいこ、と二人はお弁当をつかんで帰り始めた。


「あっ、待って、ちょっとっ」

と朝霞も慌ててお弁当の包みを手に追いかけた。




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