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オタク姫 ~100年の恋~  作者: 菱沼あゆ


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誰かが覗いています

 


 気のせいだろうか。


 誰かに見られている気がするのだが……。


 朝からどうもそんな気配がする、と思いながら、朝霞は振り返り、振り返り、女子トイレに入っていった。


 ほらほら、みなさん、私もトイレとか行くんですよ~、

と思いながら、手を洗っていると、いつぞや、


『朝霞様がトイレになんて行くわけないじゃないの』

と言っていた子が側にいたので、ちょうどよかった、と朝霞は思った。


 もうみんなの過度な期待は少しずつ裏切っていった方がいいのでは、と思っていたからだ。


 今までずっと、人の期待を裏切るのは申し訳ない気がしていたのだが。


 これはこれで、みんなを騙しているわけだから、よくないな、と思い始めたのだ。


 彼女がハンカチを忘れたようだったので、

「どうぞ」

と微笑み、朝霞はハンカチを差し出した。


 これで、バッチリ。

 一緒にトイレに居ることをちゃんと認識してくれただろう。


 そう朝霞は思っていた。


「あっ、ありがとうございますっ」

とその子は赤くなり、貸した意味があるのかというくらい軽く拭いて、返してくれた。


 よしよし。

 これで、おかしな妄想はなくなるだろう、と思っていたのだが。


 彼女が友人と話す声が聞こえてきたので、トイレを出て、すぐ振り向く。


「今、朝霞様にハンカチ借りちゃった~」


「ええっ? いいなあ。

 何処でっ?」


「お手洗いで」


「えっ? 一緒に行ったの?」

と何故か、少しうらやましそうにその友人は言ったが、ハンカチを貸した子は笑い、


「違うわよ。

 朝霞様がトイレに行くわけないじゃない」

と言った。


 いやいやいやっ。

 私、今、一緒にトイレにいましたよねっ?


 ハンカチ貸しましたよねっ?


 私、人にハンカチ貸しにトイレに行ってるわけではないんですがっ。


 乙女の妄想、暴走すると半端ないな~、と最早、訂正するのは諦めて、

「ハンカチ、綺麗にアイロンかかってて、いい匂いだったー」

と言うのを聞く。


「そういえば、制服もいつもパリッとしてるよね、朝霞姫」


 いや、アイロンかけるのが趣味なのは、兄なんですが。


 そして、今、貸したのは、もふもふのハンカチだったので、アイロンはかかっていないのですが。


 だが、まあ、いい匂いのところだけは真実だ。


 我が家は洗剤を、洗浄力とかではなく、匂いで決めているからな。


 そこのところは褒められて、ちょっと嬉しかったので、機嫌よく教室に戻ろうとして気づく。


 ……やはり、誰かがこちらを見ている。


 だが、振り返ってみても。

 こちらを見ている人はたくさんいるが、今、感じたような、不穏な気配を発しているものはいなかった。


 そういえば、今、階段側の廊下の角に誰かが隠れた気がしたのだが……。


 ……まあ、気のせいか。


 これは兄に指摘される悪い癖なのだが。


 朝霞は、ある程度まで考え込むと、めんどくさくなって、悩むことを放棄してしまうのだ。


 ま、いっか、と思いなから、朝霞は教室へと向かった。




 十文字が教室移動のために、三階に上がろうとしたとき、上から、佐野村が下りてきた。


 何故か、振り返り振り返り、廊下の方を見ている。


 そして、こちらに気づいて、うっ、という顔をした。


「……十文字先輩」


「なんだ。

 なにかあったのか?」


「な、なんでもありません……」

と佐野村にしては、弱々しく言って、逃げていった。


「お前、佐野村と友だちだったの?」

と一緒に歩いていたクラスメイトの山内が言ってくる。


「あいつ、女子に人気あるよなー。

 隠れマッチョっぽいし。


 ってか、朝霞姫と幼なじみらしいな」


 うらやましい、と言う山内に、……なにがだ、と十文字は思っていた。


 あの一緒にいると振り回されそうな女と幼ななじみだってことは、単に、ずっとあいつに振り回されてきたってことじゃないのか、と思ったからだ。


 だが、山内はそこで気づいたように、あっ、と笑って言ってきた。


「そうだよなー。

 どのみち、朝霞姫はお前だもんなー。


 まあ、佐野村より、お前の方が人気あるしな。


 どうせ、朝霞姫なんて、雲の上の人なんだし。


 お前、さくっとくっついて、他の女子を絶望させてやってくれよ。


 こっちにひとりふたり、回って来るかもしれんから」

と言って、山内は笑っている。


 ……雲の上の人?


 あれがか?


 まあ、頭の中身が雲の上辺りに浮いてそうだが、と浮世離れした朝霞の言動を思い出しながら思う。


 ていうか、あんな訳のわからない女と、どうやったら、さくっとくっつけるんだ。


 いや……別に俺が朝霞を好きとか、そういうわけではないんだが。


 ――それにしても、佐野村、なにを見てたんだろうな?


 そういぶかしく思いながら、十文字は渡り廊下からさっきの校舎を振り返っていた。




 その夜も、朝霞は王子を見ながら、洞穴にいた。


 だが、今日は一味違うぞ、と思いながら、朝霞はポケットからクッキーを取り出す。


「王子、お茶にしましょうよ」

と穴を掘っている王子の背に向かい、呼びかけた。


 昨日は、騎士団長の方が女子力高かったからな、と思って、おやつを用意してきたのだ。


 二人で、洞穴にしゃがんで休憩する。


 さくさくの動物クッキーを食べながら、朝霞は天井を見上げていった。


「宝石どんな感じに出てくるんですかねー」


「さあな……」

と言う王子は口数が少ない。


「天井からもキラキラ出て来たらいいですね。


 こう、カンテラの灯りを当てたら、指輪が光ったり、ネックレスが埋まってたり」


「……それだと、すでに加工されてるじゃないか」

と呟いたあとで、王子は、


「いや、まあ、そういう可能性もあるな」

と言い出した。


「実は、この上が王の墓で、王と一緒に埋めた宝石が出てくるという話なのかも」


「やめてください、王子~っ」


 ひい、と朝霞は出口の方に身を引く。


「王の棺も一緒に落ちてきそうじゃないですかっ」

と言ったとき、


「……朝霞」

と王子が迷うような顔つきで呼びかけてきた。


「お前、城に行って、女王に会ってみるか?」


「は?」


「お前もよく知っているように、俺は女王に反発している。


 だが、あんな人でも、親は親だ。


 必ずしも反発したい、というわけではない。


 俺があの人を色眼鏡で見ているだけなのかも」


 朝霞、と王子に手を取られ、棺が落ちてくるっ、と思ったときよりも朝霞は逃げ腰になる。


 緊張でだが。


「城に行って、うちの親に会ってみてくれ。

 そして、女王を見てのお前の見解を聞かせてくれ」


 い、いや、そんな大役っ、と朝霞は思ったのだが。


「それには、その格好では駄目だな。

 まず、ドレスに着替えて、もう少し身を飾らなければ、女王に謁見はできないだろう」


「いきますっ」

と逃げ腰だったはずなのに、王子の言葉が終わらないうちに、即答し、王子の手を握りしめていた。


「そ、そうか……」

と今度は王子の方が引いてしまう。


 いや……、単にドレスを着たかっただけなんですけどね、と朝霞は思っていた。







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