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オタク姫 ~100年の恋~  作者: 菱沼あゆ
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お見苦しいものを見せて、すまなかった

 


 食後、十文字は、

「す、少し片付けてきますっ」

と言って、朝霞が急いで、二階へ駆け上がっていくのを眺めていた。


 そんな朝霞に、廣也が笑う。


「少しじゃないだろ。

 っていうか、無駄な抵抗はやめろ」

と言って。


 麻里恵も少し笑い、

「珈琲でも淹れるわね」

と言って立ち上がった。


 そのとき、十文字の前に座っていた佐野村が口を開いた。


「先輩。

 さっきの話ですが」


 うん? と見ると、

「俺は朝霞が引っかかったのとは違うところが気になりましたけどね。

 先輩は、いつから朝霞を知ってたんですか?」


 そう佐野村は言い出す。

 そのちょっと強い口調を受け流すように、十文字は静かに語った。


「いつからもなにもあるか。

 あいつ、ほんとに、すごいボサボサ頭で。


 パジャマの上になにか羽織って来ただけか? みたいな格好で来たこともあるからな。

 目につかないわけないだろう」


 うっかりまた、真実をありのままに話して、廣也に、

「……お見苦しいものを見せて、すまなかったな」

と謝られてしまったが。


 おそらく、風邪をひいて寝てるとき、気分転換にゲームでもやりたくなって、父親に乗せてきてもらったのだろう。


 ふらふらっと店に入ってきて、明るい感じのゲームをいくつか手に取ったあと。

 いいのが見つかったらしく、ホッとしたように笑った朝霞の顔を今でも覚えている。


 学校で見るときみたいに、きちんとした格好もしてなかったのに、あのときの朝霞のほうが可愛く見えた。


 そんな朝霞の笑顔を店に行くたび、何度も思い出してしまっていたのはきっと。


 接客業もなかなか大変なので。

 あんな風に純粋に、ゲームが買えてよかった、という表情を見せるお客さんに出会うと嬉しいからだろう。


 単にそれだけのことだ――。


 十文字は、そう思っていた。




 せっ、先輩が部屋にっ。

 先輩がこの部屋にっ


 どっ、どうしたらっ?

 どうしたらっ?

と二階に上がって、とりあえず、見られたくないものを隠しながら、朝霞は惑う。


 すると、まだ隠し終わっていないのに、階段を上がってくる足音が聞こえてきた。


 廊下から、

「朝霞ー、入るぞー」

と廣也の声がする。


 いつもなら、入るぞーという言葉とともに開けているので、これでも遠慮しているのだろう。


「待って、待って、一瞬、待ってーっ」


 漫画とゲームは見られても仕方ないとしても。

 棚に収納し切れなくて、本棚の横や上に乱雑に積み重ねてあるゲーム類は、女子としてなんとか片付けたい。


 ああ、さっき呑気に、先輩、キーボード上手いな、おのれ、などと思って聴いてないで、部屋片付けとけばよかったっ、と思う朝霞に、追い打ちをかけるように廣也が叫ぶ。


「朝霞ーっ。

 早く開けないと、王子がイラついてお帰りになるぞー」


 もういっそ、お帰りください、と思ってしまったのだが、それも寂しい。


 朝霞は慌てて、押し入れを開けて、ゲームを押し込もうとしたのだが。

 逆に、押入れの中に不安定に積んであった他のゲームや本を落としてしまう。


 ぐはあっ。

 もう無理ーっ、と押し入れに向かって錯乱しながら、ゲームを足で蹴り込みかけて気づく。


 そうだっ。

 誰かに手伝ってもらおうっ。


 王子っ。

 ……いやそれ、そもそもこの惨状を見せたくない張本人だしっ。


 お兄ちゃんっ。

 笑いながら、大きくドア開けて、王子に中を見せそうだっ。


 ……そうだっ、佐野村っ!

と思った朝霞は素早くドアを開け、


「来てっ」

と佐野村の腕をつかんで、中へと引っ張り込む。


「一緒に押し込んでっ」

と佐野村に崩れ落ちたゲームと漫画を指差し、叫んだ。


「なんで、俺っ?」


 いや、貴様に、今更、隠すことなどなにもないからだ、と思いながら、朝霞は、せっせとゲームを押し入れに詰め込んだ。





「すまんな、うちの阿呆な妹が」

と十文字は、また廣也に謝られていた。


 今日、二度目だ。


「これだけ大騒ぎしている時点で、もう散乱した部屋の中を見られたのと変わらないと思うんだが……」


 いや、そんなことより、何故、佐野村だけ部屋に入れる?

と十文字は思っていた。


 佐野村には気を許しているように見えて、ちょっと面白くないんだが。


 じゃあ、お前の王子様は佐野村でいいじゃないか、と思ってしまう。


 スポーツマンでイケメンだし――。


 そう思いながら、十文字は言った。


「俺、帰るよ。

 もういい時間だし。

 お邪魔しました」


 だが、それを聞いた廣也がドアに向かって叫ぶ。


「朝霞ーっ。

 いいのか、王子……」


「おっ、お待たせいたしましたっ」

となにをどう焦って片付けたのか、頬を上気させた朝霞がドアを開け、顔を出す。


「佐野村、役に立たなかったから、もう帰ってっ」

と振り返り言っている。


「なに言ってんだ、お前。

 上の方に上げてやったの、俺だろっ。


 っていうか、このゲーム貸せっ」

とゲームを手に佐野村が叫んでいる。


 やっぱり、仲良さげに見えた。




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