表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オタク姫 ~100年の恋~  作者: 菱沼あゆ
11/48

王子が家に来ましたよ

 


 ある日、朝霞が、

「ただいまー」

とドアを開けると、そこに十文字が居た。


 気のせいかなー?

と思って、閉めてみる。


「待てっ」

と廣也の声がした。


 十文字が開けてくれたらしいドアの奥側から、

「俺が呼んだんだ」

と廣也が言ってくる。


「いや、十文字も一緒にバンドをやってくれないかと思って」

と言う廣也に、


「先輩は、オカリナをぴぱーの人なのに……」

と朝霞は呟いて、十文字に、


「それ、お前の夢の中での話だろうが……」

と言われてしまった。


 だが、十文字はどのみち、バンドをやるつもりはないようだった。


「俺はお前が話があると言うから来たんだ」

と言う十文字に廣也は、


「あるある、話はある。

 バンドやろうぜ、という話が。


 ほら、上がれ」

と言って、無理やり十文字を二階へ上げようとする。


「あとで、朝霞の部屋に入れてやるから。

 な?」

と勝手なことまで言っている。


 別に先輩は、私の部屋に入りたくはないと思うが……。


 そのとき、

「遅れまして~」

と佐野村がやってきて、


「じゃあ、やりますか」

と張り切っている佐野村に押されるようにして、みんなで二階に上がる。


 楽譜を逆さに演奏する朝霞はバンドにスカウトされなかったので、ひとり部屋のベッドに座り、隣りから漏れ聞こえてくる音を聞いていた。


 このキーボードは先輩だろうか。


 嘘つきめ。

 上手いではないか、と思いながら、朝霞は枕を抱いて転がる。


 ……いや、きっと、どう見ても下手そうな私のために、そう言ってくれたんだな。


 朝霞は、十文字たちの演奏を聴きながら、目の前にある、あのゲームのパッケージを眺めていた。


 



「朝霞ー、ちょっと来い」


 しばらくすると、廣也がそう声をかけてきたので、朝霞は廣也の部屋へと行った。


 ドアを開けるなり、朝霞は十文字に文句を言う。


「上手いじゃないですか、先輩っ。

 トライアングルしか叩けないと言ったのにっ。


 やっぱり、貴方は、あの王子様とは違いますっ」


「……最初から違うが」

と言う十文字の後ろで、


「いや、すまんな、十文字。

 阿呆な妹で」

と何故か、廣也が謝る。


 母親が、みんなご飯食べていきなさい、と言っていたらしく、そのあと、全員で下に下りた。


「運びます」

と十文字が言い、配膳を手伝い始める。


 イケメンに手伝ってもらって、麻里恵はご機嫌だった。


 それを見て、幼いころ、麻里恵と結婚したかったという佐野村の機嫌が悪くなる。


「先輩、俺より麻里恵さんに気に入られないでください」


 ここに若い娘がいるのに、あなた方は何故、母親の方を取り合いますか。


 ……いや、佐野村が一方的に言っているだけで、十文字は参戦してはいないはずなのだが。


「朝霞。

 リンゴ切って並べて」

と言われて、はーい、とリンゴをむいていると、十文字が感心したように言ってきた。


「リンゴがむけるのか」


「むけますよ……」


 かなり、なめられているようだ……と朝霞は思った。


「お、そうだ。

 十文字、朝霞の部屋、あとで見に行ってもいいぞ。


 5分で出て来いよ」


「いや、別に見なくていい。

 見なくても想像つくから」


 ……どのようにですか、と朝霞が思っていると、佐野村が、


「なに言ってるんですか、廣也さんっ。

 5分もあったら、いろいろできますよっ」

と文句を言い出した。


 横で、麻里恵が笑っている。


 ……いろいろなにをするんだろうな。


 先輩だから、やっぱり、ゲーム?


 物によっては、準備して、ロードしている間に終わる気が……、と朝霞が思っていると、廣也が、


「わかったわかった」

と佐野村をなだめるように言ったあとで、


「じゃあ、俺もついてくよ。

 佐野村、お前も入っていいぞ」

と勝手に朝霞の部屋に入る許可を出し始めた。


「だからねー、おにいちゃん」

と朝霞は反論しかけたが、


「片付けてなくて、誰も入れられないんだろう。

 ゲームと漫画ばっかだし」

と廣也に笑われる。


 ちがっ……


 わなくはないな。


 でも、近代文学もありますよ~、と心の中でさえ、小声で思っていると、テーブルに皿を置いた十文字が言う。


「心配するな、朝霞。

 俺は、どのみち、お前のゲームオタクなとこしか知らないし」


 うっ。


「いつぞや、部屋にいたときのまま、親に車で乗せてきてもらったみたいで。

 すごい格好で店に来たことも――」


 わあああと朝霞は耳をふさいで、しゃがみ込みたくなる。


「……真実はすべて言えばいいってもんじゃないですよ、王子」

と朝霞が低く言うと、


「誰が王子だっ。

 そして、刃物は下げろっ」

と十文字が叫んでいた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ