第59話 希望価格50,000
すぐに来た反応に少し驚いた。
ヒヨヒヨ草なんて売買項目に入れているプレイヤーが居るなんて。
NPCから買うことになるだろうと思っていたんだけど…。
ポップアップからメッセージ画面を開いてもらうと、
『10束 即納可
販売希望価格50,000ー』
用件のみで一言メッセージも無し。
しかも5万って!高っっ!
ん~…。
「ちょっといい?」
トオルに声をかけてパソコンを自分の前に引き寄せる。
いったいどんなプレイヤーがこんな取引持ちかけてきてるんだろう?
やっぱり初心者かな。
でもこのゲーム、未成年はプレイ出来ないから大人だよね。
それでこの無茶な取引ってあり得るのかなー。
プレイヤー情報を開いてみる。
公開されている項目だけなので、あまり参考にならない事も多いけれど…。
『プレイヤー名 5カイ
レベル 100以上』
レベル100越のプレイヤーが?
トオルは僕が必要なもの全部送ってるから特殊なだけで、普通にプレイしていたらレベル100越える頃にはゲームシステムも理解しているし、取引だってそれなりに経験が有るはず。
プレイヤー名が、チョット引っかかる。
僕は短いから自由度が無いけれど、ニックネームを使ってメッセージを表現するプレイヤーも居る。
特に僕が始めたより後からスタートしたプレイヤーは、ニックネーム情報を仕入れてから始めているのか長々とした名前が多くて、その傾向が顕著だ。
5カイ…。
誤解? じゃ無いだろうな…。
5回? かな。
5回…。
もしかしたら、価格交渉?
そういうミッションが出ているんだろうか?
そうなら、チョット手伝ってあげてもいいかな。
「トオル。この取引僕がしてもいいかな。」
「あぁ。もちろん。俺は横から見てるよ。」
「ありがとう。」
最初のメッセージでハッキリするだろう。
『1,000』
ちなみに200が標準価格帯の上限値だ。
1束10~15
10束110~200
に設定されている。
『40,000』
うん。
これ、ミッションこなしてるね。
たぶん、5回済めば価格をかなり下げて来るだろう。
正直、設定価格の1,000倍だろうと問題ないから5万でもいいんだけど返信も早いし少しだけ付き合ってあげようかな。
『2,000』
『30,000』
『3,000』
『25,000』
『4,000』
『20,000』
『5,000』
『10,000』
これで5回こなしたかな。
後は相手の言い値で買って良い。
けど、出来れば標準価格がいいよね。
初心者なら支援気分で5万でもOKだけど、レベル100越だからね。
『200』
少し間が空いて、取引完了のポップアップが出た。
ポン♪
と音が鳴ってメッセージが届いた。
開くと
『ミッションクリア。感謝!』
やっぱりミッションだったんだ。
クリアの手伝いが出来て良かった。
「トオル。ヒヨヒヨ草手に入ったからミッション進めよう。」
パソコンをトオルの前に戻しながら声をかけると
「今のやりとりって?」
「うん。相手プレイヤーがミッション抱えてたみたいだね。
たぶん、価格交渉を指定回こなすミッションだったんじゃないかな。
無事達成出来たみたいで良かった。」
トオルがルールーストアにヒヨヒヨ草を納品に行く。
「あれ?ミッション終わり?」
トオルの呟きに、画面をのぞき込む。
「ん?次のミッション来ない?
何か条件が揃ってないか…。
んー。
一回お店を出てもう一回ルールーベル使ってみてくれる?」
トオルだとあまり意味ない事だから考えにくいけど、ミッション達成の後ルールーストアをもう一度見つけて入らないと次のミッションが発生しない条件付けがされている時が有る。
トオルはベルで呼び出せるからその条件付けはありえないとは思うけど。
「変わらないな。」
やっぱりか。
「あー。んじゃ、この間の花を咲かせるミッションと同じように完了してないミッションが有るのかも。
ステータス画面開いて。」
ミッション履歴開いてもらうと、未完のミッションが2つ有る。
「これだね。開いてみて。」
時間のカウントダウン。
「あと12時間か…。もう一つは?」
6時間弱のカウントダウン。
「こっちの6時間のが終わるタイミングでログインしているようなら、ルールーストアに行ってみて。
次のミッションが来るかもしれないから。
二つとも終わる明日のログインだと確実に次のミッションが来ると思う。」
「わかった。」
ミッションは待ちになったし。
今入ってるダンジョン攻略すると後2つで条件達成になるから楽だと思うけど…。
「トオルはこの後どうする予定?
僕は、夜ご飯までここで食べて帰ろうと思ってるけど。」
「そうだな…。」
トオルが僕のリュックをチラリと見て
「パソコンって2台持ってきてたりするか?」
「え?うん。2台持ってきてるよ。」
「じゃぁ、俺も夕飯まで食べて帰ろうかな。
今入ってるダンジョンクリアしておきたい。」
「了解。じゃ、そのままそっちのパソコン使って。」
「ありがとう。」
向かいの席に戻ってパソコンを出し、オーナー目指してるダンジョンの周回を始める。
「よしゃ!クリア!」
トオルの嬉しそうな声で手を止めてトオルと見ると大きく伸びをしていた。
「途中だったダンジョンクリア出来たんだ?」
「あぁ!やっと終わった!あとチョットでクリアだと思ってたのに予想以上に長くかかって疲れた。」
「お疲れ。」
声をかけながら時計を見ると、5時を過ぎていた。
「あれ。もうこんな時間?」
「ん。 夕飯そろそろ頼むか?
昼が少し遅かったから、もう少し後にするか?」
お腹具合からいけば、もう少し後の食事の方がいいけれど。
トオルはダンジョン攻略してキリがいいだろうし、僕より疲れてる顔してるから早めに帰った方が良さそうだ。
「うん。キリがいいしご飯にしよう。」
「んじゃ頼んでくる。俺と一緒で大丈夫か?」
「うん。お願い。」
「おしゃ。了解。」
カウンターに向かうトオルを見送って、後少しだったダンジョンをクリアしてからパソコンをリュックに片付ける。
戻ってきたトオルに声をかけてトオルが使っていたパソコンも片付ける。
ケンイチさんの夕ご飯を食べて、もう一度オレンジジュースを飲んで解散した。
次の週末が楽しみだ。いよいよトオルとリアルダンジョン!
ワクワクする。
ーーートオルーーー
ポップアップを開く。
『10束 即納可
販売希望価格50,000ー』
ジッと画面を見つめた了が
「ちょっといい?」
パソコンを自分の前に引き寄せる。
どうしたんだろう?また難しい顔をしてるな。
ポップアップから更に画面を開いている。
『プレイヤー名 5カイ
レベル 100以上』
しばらく画面を見つめていた了に
「トオル。この取引僕がしてもいいかな。」
少し申し訳なさそうに聞かれた。
「あぁ。もちろん。俺は横から見てるよ。」
「ありがとう。」
んー…。
人見町ダンジョンの条件クリアを第一優先で、ゲームの知識が無さ過ぎて了が何を考えているのか悩んでいるのかが全く推測できない。
…。
条件クリアしたら、ゲーム知識を仕入れないとついて行けなさそうだな。
了に聞けばすぐに教えてくれるだろうけど、頼ってばかりもいられないし。
…。
『1,000』
了が数字だけのメッセージを送る。
『40,000』
すぐに相手からも数字だけのメッセージが来た。
画面と一緒に見えていた了の横顔が少し微笑んだように見えた。
『2,000』
『30,000』
『3,000』
『25,000』
『4,000』
『20,000』
『5,000』
『10,000』
数字だけのやり取り。
価格交渉なんだろうけど、あちらとこちらで価格の差が大きい。
この調子で折り合いがつくまでやり取りするんだろうか?
『200』
ちょっとだけ手が止まった了が送ったメッセージに驚く。
え?
思わず了の顔に目をやると、様子を窺う顔をしていた表情がニコリと笑顔になった。
ポン♪
音に反応して画面に目を戻すと、
『ミッションクリア。感謝!』
のメッセージ。
??
5,000だ10,000だのやり取りから急に200?
ミッション?感謝?
「トオル。ヒヨヒヨ草手に入ったからミッション進めよう。」
ニコニコしながらパソコンを俺の前に戻してくる。
「今のやりとりって?」
「うん。相手プレイヤーがミッション抱えてたみたいだね。
たぶん、価格交渉を指定回こなすミッションだったんじゃないかな。
無事達成出来たみたいで良かった。」
笑顔の了を見ながら、さっき考えていた事を撤回する。
ゲーム知識。
俺が下手に足掻くより了に教えてもらう方が断然効率的だな。
うん。
今回のやり取りも何だったのか詳しく聞きたい気もするけど、今頭回ってないだろうし…。
とにもかくにも、まずは人見町の条件達成が第一!
人見町ダンジョンに行けるようになったら色々質問しよう。
うん。そうしよう。
了に促されて、ルールーストアにヒヨヒヨ草を納品に行く。
納品を終えて次のミッションは何かと思っていたが、次のミッションが提示されない。
「あれ?ミッション終わり?」
呟くと、
「ん?次のミッション来ない?
何か条件が揃ってないか…。
んー。
一回お店を出てもう一回ルールーベル使ってみてくれる?」
言われた通りにルールーベルを使って、店主にもう一度話しかける。
変わらずミッションの話にならない。
「変わらないな。」
「あー。んじゃ、この間の花を咲かせるミッションと同じように完了してないミッションが有るのかも。
ステータス画面開いて。」
了の指示通りに画面を開いていく。
ミッション履歴をスクロールすると、二つ文字色が違うミッションが有った。
「これだね。開いてみて。」
ミッションを開くと時間のカウントダウンが動いていた。
「あと12時間か…。もう一つは?」
開くと6時間弱のカウントダウン。
「こっちの6時間のが終わるタイミングでログインしているようなら、ルールーストアに行ってみて。
次のミッションが来るかもしれないから。
二つとも終わる明日のログインだと確実に次のミッションが来ると思う。」
「わかった。」
帰ったら寝そうだし、無理せず明日のログインで確認するかな。
「トオルはこの後どうする予定?
僕は、夜ご飯までここで食べて帰ろうと思ってるけど。」
「そうだな…。」
了に声をかけられて考える。
今入ってるダンジョンまでクリアしておけばずいぶん楽になると思うんだよな。
思わず了のリュックに目がいく。
了の事だからきっと…。
「パソコンって2台持ってきてたりするか?」
「え?うん。2台持ってきてるよ。」
やっぱり持ってきてた。
「じゃぁ、俺も夕飯まで食べて帰ろうかな。
今入ってるダンジョンクリアしておきたい。」
「了解。じゃ、そのままそっちのパソコン使って。」
「ありがとう。」
早速ダンジョンの攻略を始める。
もう少しで終わると思うんだけど、どうかな。
集中して攻略して行く。
ぅぁ~…。思ってたより時間かかるな…。
条件達成の為には後2つ上級ダンジョン攻略しなきゃ行けないけど、思ってる以上に時間かかるかもなー。
「よしゃ!クリア!」
やっと終わった!
5時過ぎてんじゃん!
時間かかったなー。
「途中だったダンジョンクリア出来たんだ?」
「あぁ!やっと終わった!あとチョットでクリアだと思ってたのに予想以上に長くかかって疲れた。」
「お疲れ。
あれ。もうこんな時間?」
「ん。 夕飯そろそろ頼むか?
昼が少し遅かったから、もう少し後にするか?」
空腹って訳じゃないけど、食べられなくもない。
「うん。キリがいいしご飯にしよう。」
「んじゃ頼んでくる。俺と一緒で大丈夫か?」
「うん。お願い。」
「おしゃ。了解。」
カウンターに行き健一さんに声をかける。
「健一さん。」
「おつかれさま。食事にするかい?」
「はい。お願いします。」
「亨。無理してないか?疲れた顔してる。」
「チョットだけ…。あと、デスクワークってそこまで得意じゃない俺がパソコンとがっつり向き合ってるって言うのも大きいのかも。
あと2つ上級ダンジョンクリアしたら、人見町ダンジョンの条件達成だし。
大丈夫です。」
「そう? 体調には注意するんだよ。」
「はい。ありがとうございます。」
「食事はすぐに持っていくよ。」
「はい。お願いします。」
健一さんの食事を食べて、食後にまたオレンジジュースを頼む了を見て
次は、絶対オレンジジュース飲む!と心に決めて帰宅した。
濃いめにいれてもらったコーヒーで何とか保っていたけれど、家に帰ると眠気に襲われフラフラしながら風呂を済ませてベッドに倒れ込んで朝までグッスリだった。
朝、ログインしてルールーストアに行くと了が言っていた通りミッションが提示された。